「さあて、そんじゃま行きましょうか!」
優雅に舞う揚刃が、ソウルメタルで造ったメダルを取り出す。魔導火をともし、ぱっと投げ上げ、気合を放つ。念を送り込まれたメダルは、炎の飛礫となって一斉に咎牙に降り注ぐ。
「まだまだいくわよっ」
次々にメダルを投げ、弾幕が如く咎牙を襲う。爆煙が咎牙の上半身を包むと、その隙を逃さず、殴牙と氷翠が突貫する。
「そりゃあっ!」
「やあっ!」
乳白色の炎を纏う刃が、虹色の輝きを。
紺色の炎を帯びた棍が、猛攻の滾りを。
傷をつけることこそかなわないものの、強烈な衝撃が、僅かながらダメージを生む。
咎牙が吼え、二人を迎撃するように腕を振り回した。
「っ……堅ぇ堅ぇ」
「続けていくぞ。ヤツを焔群に近づけるな!」
爆風を蹴散らしながらも進む咎牙。その視線が、火影に跨る紅我を捉える。本能がそれを脅威だと察知し、歩みをそちらへと向けた。
「って言ってるそばから! にゃろうっ!」
飛び上がり、咎牙の頭上から金剛棍の先端を打ち付ける。ソウルメタルの重量操作で、限界以上の重みを加えるが、その動きは止まらない。
「んぎぎぎぎ……」
「無茶するな鬼塚!」
氷翠の足が地を蹴り、咎牙の足元の地面を抉り切る。バランスを崩した咎牙の巨体が膝をついた。
「よしっ。鬼塚さん、そのまま抑え込んで――えっ!?」
麗牙の眼前で不意に立ち上がった咎牙。その反動で、頭の上に乗っていた殴牙が吹っ飛ばされてしまう。
「ぐわっ!」
「大丈夫か?」
駆け寄る氷翠に「おう。なんとかな」と返し、立ち上がる。
「野郎、鎧越しに金剛棍の重さを変えやがった……あの調子じゃ意識も残ってねえだろうってに……なんてヤツだ」
「急ごう。焔群がアレを発動させるまで、なんとしてでもアイツを抑える!」
氷翠の言葉に頷き、殴牙が取り落とした金剛棍を拾い上げて再び走り出した。
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・
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「っでけぇ……」
「一体、あの鎧の中はどうなってるのよ……?」
紅我を守る最後の壁として立つ、朱狼と麗牙が、その巨体を見上げる。緑青のごときさび付いた鎧の色は面影をなくしてなおも黒ずみ、暗黒騎士もかくやの様相を呈する。
「っのぉ!」
「やらせるかっ!」
重たそうに持ち上げた拳を一気に振り下ろす。刹那、鈍い音が響き、その拳の下で二振りの槍がその侵攻を阻んだ。
「んぐぐぐぐぐ……」
「お、重い……っ」
今まで受けてきた攻撃よりも強い圧力が両者を攻める。接触の瞬間もさることながら、じわりじわりと押し出してくる重みが、二人を地面に縫い付けていった。
『いかん、もう一撃来るぞ!』
『二人とも、逃げなさい!』
魔導具の叫びに視線をずらすと、空いていた左拳が上空にあった。重ねるように衝撃が加われば、いかな烈火炎装をまとった魔戒騎士とてただではすまないだろう。
だが。
「冗談! ここで引けるわけないでしょう!?」
「だな。斬がやるって言ってんだ。俺たちはそれを……信じて待つ!」
二人の叫びがこだまし、突き出した槍の穂先が、ぐぐっ、と拳を押し返す。
「それをこの目で見るまでは……」
「やられるわけにゃ、いかねえよ!!!」
不屈の気魄が槍を振り抜かせる。拳を打ち返すことに成功した紅牙たちであったが、すぐ眼前に二撃目がせまりつつあった。
「――させるかあっ!」
と、その拳を、真紅の一閃が止める。
「来たか!」
遅ぇぞ、こら! と紅牙が叫ぶ。
「すまん。だが、あのときよりは早くなってると思うんだがな」
全身を炎と化した鎧に身を包んだ紅我が、仮面の奥で咎牙を睨みつける。
「さぁ、今度こそ終わりにするぞ、緑青騎士・咎牙!」
振るう紅蓮斧が、再び攻撃に転じた拳を斬る。装甲が炎に焼かれ、程なく燃え尽きた。
-つづく-
僕が書くものとしては、『紅蓮の剛刃』以来の「真なる烈火炎装」になりますか。
当時はスピード決着でしたが、次回まるまる1シーン分くらいつかってその活躍を描ければなと。
新必殺技(?)もご披露できるかも?w
しかし、やっぱり人間多いと各々に見せ場造るのもたいへんだわ……(ド今更