白み始めた東の空を眺めながら、6人の若者たちが思い思いに疲れた身体を地面や樹木に預けている。
人払いの法術は間もなく解ける。日が昇れば、公園の惨状が人目に晒され、ちょっとした騒動になるだろう。
それまでには突き刺さった緑青剣を引き抜き、ここから去らねばならない。
「……終わった、か」
誰ともなしに、律が呟く。
その言葉に、誰もが本当に終わったことを改めて認識し、大きくため息を就いた。
「まさか俺が、ホラー以外を……それも人間を狩ることになるなんて、思っても見なかったけど」
「そりゃあ、ここにいる全員がそうじゃねえか? ホラーに取り付かれた人間なら、何度も斬ってきたけどよ」
最終的に咎牙……譲一郎に止めを刺した斬が、その感触がまだ残っている手のひらを見つめ、紅牙は「気に病みすぎるなよ」と肩をたたく。
「もし、あいつが俺たちに倒されることなく生き続けて……ホラーを狩り続けていたら……その先にあいつは、何を見たんだろうな」
『さぁ、ね。律があの時、咎牙をホラーだと称したけれど、いずれ人の身でありながら、ホラーのようなものに、なったのかも知れないわ』
遅かれ早かれ、あいつは魔戒騎士に倒されることになってたんじゃないかしら?
そういうナディアの声に、相棒たる透は「かもね」とだけ呟いて押し黙った。
「……もうっ、辛気臭いわねぇ。あんまり深刻に悩みすぎなさんな。ハゲるわよ?」
つとめて明るい声で、光がはっぱをかける。
「あいつは、ああなっちゃった。でも、私たちはそうはならない。……それでいいじゃない?」
シンプルな発言に、あかねが小さく噴出した。
「ちょっとぉ、今の笑うとこじゃないわよ?」
「ごめんごめん……くくっ」
二人のやり取りを見た斬たちが、あっけにとられ、次の瞬間彼らもまた、破顔する。
「ちょっ、あんたたちまでっ!」
憤慨する光に、誰かがついにこらえきれず大笑いし、堰を切ったように爆笑が夜明けの空気を穏やかに震わせた。
「あーもう。笑いたきゃ笑ってなさいな。ほら、さっさと番犬所戻って報告して、帰りましょうよ」
光がむくれながら騎士たちを促す。
「なんだ、もう帰っちまうのか?」
「こっちの仕事は終わったが、まだサバックは終わってないしな。出払ってる騎士連中も多いし、いつまでも自分の管轄を留守には出来ないよ」
律の言葉に、なるほどと紅牙が頷く。
「無事に終わったから、一杯やりたかったんだけどなァ」
『それはまたの機会にして頂戴。律は一刻も早く、汐に無事を報告したいのよ』
「カルマ!」
図星を突かれ、律が真っ赤になって耳元の相棒を指で弾いた。
「ああ……そういえば、みんなは別の管轄からきてくれたんだよな。妙にしっくりきてたからずっとまえから一緒にいる気がしてたよ」
顔合わせしてから3日と経ってない筈なのに。と斬が微苦笑する。
「それじゃ改めて……今回はありがとう。皆がいなかったら、今回の任務は終わらせることができなかったかも知れない」
「なんのなんの。困ったときはお互い様。魔戒騎士は助け合いってね」
からからと光が笑い、透たちも首肯する。
「そうだな。じゃ、どっかでお前らがヤバかったらいつでも呼んでくれ」
紅牙の言葉に、ああ。と律が頷いた。
『紅牙、そろそろ夜明けじゃ、急げよ』
「っと、了解だ。じゃあ行こうか」
番犬所への魔界道を開き、紅牙を先頭に騎士たちの姿が消える。
「……よっと」
地面に突き立った緑青剣を引き抜き、斬はその刀身を目に焼き付ける。
長い間、ホラーを斬った巨大な刃には、赤黒い血がこびり付き、今にも怨念が形を成してこちらへ向かってきそうな印象さえあった。
「斬さーん。置いてくよー?」
「ああ、今行く!」
血錆の浮いた剣を抱え、斬があかねの背を追う。
その背後で、一日の始まりを告げる陽光が、最初のきらめきを地面にもたらした。
-血錆の兇刃・了-
09年9月から始まったこの作品も、ついにエンドマーク。
……まぁ、1年以上放置してたんで足掛け2年とかかっこよく語る気はありませんが(滝汗
ひとまずは完結できて一安心、といったところでしょうか。
やはりバトル描写や、登場人物が増えることによる描写不足は今後の課題ですねぇ。
紅牙、そしてあかねの出演を快諾いただいた小笠原さん、かぼさん両名にあらためて感謝の意を。
さて、今後の「牙狼<GARO>」の二次創作ですが
現在放置中の「無銘の友誼」の連載をこれまた近日中に再開予定。
さらに前々から呟いていた、生まれ変わったバラゴのエピソードなどを予定しております。
思えば長い付き合いになってしまった牙狼。これからもまだまだ派手に行くぜ!(違