―――誰だ……
誰だ、オレを呼ぶのは……?
沈んでいた“意識”が急速に浮上する。ぼんやりとした光が、やがて鋭くなって……オレは目を醒ます。
「……おう、ようやっと起きたか」
『うおわああああああっ!!?』
とつぜんぶつかった視線に驚き、次は馬鹿でかい自分の声に驚いた。
「……なんだ、人の顔見るなり悲鳴上げるとは。礼に欠けるやつだの」
『目ッ……目の前にいきなりそんなイカツいじーさんのツラがありゃ、誰だって驚くわぁ!!』
カチカチ、と金属がぶつかり合う音が響く。じーさん……と呼べる見た目の割にはえらく生気にあふれた禿頭の男は「違いないわな」と言ってニヤリ、と笑った。
「しかしお前……なぜにあんなところに転がっておった。パートナーはどうした?」
『あんなところ? パートナー……?』
なにを言ってるんだこのジジイは。
「何をすらっトボケとるか。お前は魔導具……魔戒騎士の相棒だろうが」
『魔導具……魔戒騎士……? なんだ、ソレは?』
なにやら会話がかみ合わない。……と言うかだ。
『オレは……誰だ?』
オレが“オレ”である、という<意識>はある。だが、それを証明する事柄……すなわち、オレの立場であり、何より、オレの<名前>が出てこない。
「お前……寝言は寝て言うものだぞ。パートナーとはぐれることは魔導具にとって不名誉なことぐらい儂にもわかる。だからといってとぼけるのは良くないのぉ」
『ちょ、ちょっと待て! さっきから言ってる魔導具だの魔戒騎士だのってのは一体何なんだ!? っていうかオレは何だ? つーかさっきからギシギシいってるのはなんなんだよ!?』
しゃべってるときにギシギシガタガタうるせーったらねえ!
「……記憶が無いのか?」
『どーやらそうみてーだな!』
「わかったわかった。とにかく落ち着け」
こつん、とジジイの指先がオレの額を小突く。……今気づいたが、このジジイ、でかくね?
「お前が小さいんだ」
そう言って、鏡をオレの目の前に突きつける。
『……あん?』
視界に飛び込んだのは、髑髏とも悪魔ともつかねえデザインの金属製の頭。と、そいつは俺の上げた声に合わせるように口を開いた。
『……ま、まさか……コイツがオレなのか?』
「そうじゃ。……おぬしは<魔導具>。魔戒騎士と行動を共にする相棒じゃよ」
嘘だろ……と開いた口がカタカタと鳴る。ヘンな音はオレから出てたようだ。
「それにしても……記憶喪失……<名無しの魔導具>、とはな」
『おいじーさん。その<名無し>っての、やめてくれ。ヘンなアダ名つきそうだ』
「名前も無いくせに偉そうに言うな。本当にゴンベエと呼んでやろうか」
それがヤだっつんだろうがよ。
「ふむ……仕方があるまい。名がなければ呼ぶことも難いからの。ここはひとつ、この阿門がお前に名をつけてやろう」
<阿門>と名乗ったじーさんは、ニヤリ、と笑って見せた。
……あ、悪い顔だ。
物事には須らく“例外”が存在する。
たとえば、魔獣<ホラー>。
人を殺め、その命を喰らうがゆえ、忌み嫌われ、狩られる存在。
が、その魔獣たちの中にも、人との共存を望み、ともに歩むことを願う者達がいた。
いつしか“彼ら”は、それを実現する術を得た。
彼らは己が魂を<ソウルメタル>の装飾具に封じ、守りし者―――<魔戒騎士>の導き手となったのだ。
騎士たちは、尊敬と友情を以って彼らをこう呼ぶ。
―――<魔導具>と。
牙狼<GARO>/異聞譚-無銘の友誼-
「血錆の兇刃」もほっぽらかして新シリーズスタートという暴挙。
だ が 私 は 謝 ら な い 。
基本的なスタンスはBLEACHの二次創作案のころからあんま変わってないです。記憶喪失なトコとか。
さて、この名無しの魔導具。如何なる名前がつけられるのか……
なんかもうバレバレな気がしないでもないんですが、それでも待て次回!!