<アルド>
それがあのじーさん……阿門法師からもらったオレの名前だ。
「なんだお前、旧い魔戒語のことも憶えておらんのか? ……“名も無き者”という意味だ」
『!? っテメー、それ結局<名無し>ってことじゃねえか!!!』
かんらかんらと笑ってやがった。……まぁ、ゴンベエよかマシだし、改めて口にするとなんとなく響きも悪くねえからよしとしておいてやる。
で、とりあえずオレの身柄(?)だが、しばらくは阿門法師の工房でやっかいになることになった。オレの記憶がなくなってる以上、すぐに相棒である魔戒騎士が見つかるわけじゃないからだ。
「東の番犬所に訊いてみたが、お前さんのような魔導具を持つ騎士はおらんそうだ」
言いながら、熱したソウルメタルをフッ、とオレの顔に吹き付ける。心地よい熱が降りかかり、すぐに冷えていくのが感覚として分かった。
見つかったとき、かなりボロボロだったらしいオレの身体は、こんなかんじでこまごまと修復されていく。あと2、3日もすれば元以上にしてやる、と豪語したじーさんはまるでガキのように笑っていた。
「まぁ、お前さんを拾ったときの状況から察するに、相棒は既にこの世には居らんやも知れんがなァ」
『だが、それにしたって見つからん理由にゃならねーぜ。オレを持ってたって情報があるはずだ』
「うむ……確かにの」
明日は西の番犬所に顔を出してみよう、と言って、魔導筆を振るう。細やかな穂先がオレの顔を撫ぜていき、吹き付けられたソウルメタルを慣らす。
「しかし……お前のような特異な魔導具。持っている騎士の情報などすぐに入ってくると思うたんだがな」
『ふぅん……オレの<身体>、そんなに妙なのかい?』
返事の変わりに、阿門法師は鏡をオレに突きつけた。前にオレが見たのは“顔”の部分だけだったのだが、今度は少し離れた位置に鏡が置かれたことで全体が明らかになった。
『……なんじゃこりゃ?』
指輪…かと思ったら指が入りそうな穴がひのふの……4つもついてやがる。
「ナックルダスター……メリケンサックとも呼ばれる、拳につける暗器の一種だ。見つけたとき、ホラーの血がこびりついとったから、直前まで戦っておったのだろう」
じーさん曰く、<魔導具>というものは基本的に装飾具……つまりはアクセサリーの形状を取るタイプがほとんどらしい。
例えば腕輪だったり、ペンダントだったり……中には数珠とかイヤリングってのもあるそうな。
「中でも指輪型は、特に<魔導輪>と呼ばれ、選ばれた騎士にしか着けることを許されぬ代物だ」
『へぇ……』
ソウルメタル製であるゆえにめったなことでは傷つかないが、万一のこともあり、よほど腕に自信のある者が剣に添えつける例を除けば、武器の形状をした魔導具は皆無と言っていい、というのがじーさんの見解だ。
「かく言う儂も、武器型の魔導具なぞ造ったことは無い」
『ふぅん……じゃあ、オレは誰が作ったんだ?』
「それも調べてみたんだが……皆目見当もつかん。お前さんの出来を見れば、かなり名のある法師と見たんだがな」
阿門のじーさんは<魔戒法師>だ。魔戒法師ってのはオレ…つまり魔導具や、騎士の武器なんかを作ったりする錬金術師ってヤツらしい。もちろんじーさんだけじゃなくて、たくさんいる。
「ま、そっちも気長に探すとするさ。騎士も生きとれば、相棒を探して儂のところに尋ねに来るやも知れんしな」
と、そう言い終わったところでじーさんの腹が鳴る。腹減った、と呟き、じーさんが奥から赤酒の詰まった壺と魚の干物を持ってきた。
『ふーむ……人間ってのは不便だねぇ。いちいちメシを喰わなきゃ動けねえってんだから。そこへいくとこの身体は便利だぜ。腹もへらねえし喰う必要もねえときた』
カタカタと、ソウルメタルの歯を鳴らして笑うオレに、じーさんが怪訝な視線を向けた。
『……あんだよ?』
「お前……腹が減らんのか? 食欲もわかんというのか?」
? ヘンなこと聞くじーさんだな。
『あたりめーだろ? こちとらソウルメタルの身体だぜ? 喰おうったってどこに入るんだよ。つーかそーいう風に造ったのがあんたら魔戒法師だろうに』
「……むぅ」
と、じーさん難しい顔をして黙り込んじまった。
……なんかおかしなこと言ったかね、オレ?
-つづく-
阿門法師が感じた疑問点は、牙狼ファンならピンとくるかとはおもいますが、とりあえず伏せときます(ぇ
まぁ、原作における魔導具たちが実際そーいう感覚を持っているのか否かってのはついぞ判別しがたいところではあるのですががが。
次回、彼のパートナー(仮)になる人物が登場しますデス。
※初出:2010年4月27日・mixi日記