オレが阿門のじーさんトコに厄介になってから、数ヶ月が経った。イカついじーさんとの二人(?)暮らしってのも存外悪くは無いもんだね。
ボロボロだったオレの“身体”も修復が終わった。鏡で見せてもらったが、ずいぶんとイケメンになってて驚いたもんだ。
「おう、そうだアルドよ」
『ん?』
「お前に新しい相棒がつくぞ」
……なんですと?
『何、オレのパートナー見つかったのか?』
「そうじゃあない。今度新しい魔戒騎士が系譜に名を連ねることになったんだが、その先代が殉職した折に魔導具も破壊されたそうでな。番犬所にアテがないか尋ねられて、お前のことを話したのだ』
おいおい、ソレはありなのか。
「無論、儂も考えなしにお前さんの話をしたわけじゃない。ここにとどまって情報を待つより、動き回る魔戒騎士に付いて、情報を得たほうが効率も良かろう?」
『……なるほど』
じーさんの言うことにも一理ある。記憶はないが、オレももし相棒本人を見かけるようなことがあれば、それがキッカケで思い出すかも知れねえしな。
「それに、こう言うのもなんだがな……魔導具もちょいと不足気味での。番犬所の神官も“記憶が無くとも魔導具として機能していれば問題ない”とな」
魔導具を造れる魔戒法師というのもそれほど多くないらしい。そりゃオレみたいなのにもお声がかかるってわけだワ。
『わかったぜじーさん。オレが魔導具だってンなら、魔戒騎士と組んでナンボってヤツなんだろ? なら、オレは応えるしかねえ』
「そうか。すまんな」
『いーってことよ』
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そんなわけで話は決まり、オレは阿門のじーさんに釣れられて番犬所にやって来た。
仏頂面の若い男……こいつが番犬所のエライ奴、<神官>らしい……に簡単な説明を聞いたあと、不意に扉が開いた音がした。
「おや、到着したようですね」
振り返ったじーさんと一緒に扉のほうを見る。くすんだ白いロングコートに包まれた細身の身体は、贔屓目に見ても戦う男のそれには見え難い。
「立神、貴方のパートナーが到着しましたよ」
「!」
神官の言葉と視線に促され、そいつはおずおずとじーさんの前に立つ。「ええと……」となにやら声を口に含ませながら目を泳がせる。気弱な優男って感じだな。
……ホントに魔戒騎士か、こいつ?
「立神」
「は、はいぃ!」
神官の強張った声に、勢いよく“気をつけ”をする。大きく深呼吸をした後、そいつはじーさんの手元、その手の中にいるオレに視線を合わせて腰を落とした。
「……きみが、新しい魔導具ですね。ボクは……」
ようやく目が合い、オレはこいつの瞳の輝きの力強さに、知らずはっとなった。
「ボクは、立神……立神獅子丸です」
よろしく。と、そいつ……獅子丸は小さく笑みを浮かべた。
-つづく-
もう一人の主人公、登場。
ところで、記憶喪失に実際なったことが無いのでなんともなのですが、自分自身に関することを全て記憶から抜け落ちたら結構パニくるんじゃないかなぁと思いきや、ドラマとかだと割りとそうでもないですよね。
アギトの翔一クンとかは、一時ふさぎこんでたみたいですが。