俺……こと魔導具<アルド>が、魔戒騎士・立神獅子丸の“相棒”となってから、一週間が経過した。
未だ任務には当たってないものの、こいつの“人となり”的なものはだんだんわかってきた。
『獅子丸よぉ……なんで一言の言い返しもしねえんだよ……言われたい放題だったじゃねえか……』
「いやまぁ……事実ではあるし……ねえ?」
――ねえ? じゃねえよ。
まずひとつに、こいつおもっくそ気が弱い。
つい先刻のことだ。<元老院>……騎士の総本山みたいなトコだ……に使いに行った折に、ハデな魔法衣をまとった3人組がニヤニヤしながらこいつに話しかけた……っつーより、悪口の類をこれでもかってほどふっかけてきたンだが、獅子丸のやつ、否定するでも言い返すでもなくってヤツだ。
……まぁ、聞き流してたとすりゃ、それはそれでたいしたタマだとは思うけどな。
にしたって、仮にも騎士なら激昂してもいいレベルの雑言だったんだが……
――曰く、立神の系譜は我ら黄金騎士からの分家筋である。
――曰く、黄金騎士を守る“影武者”としての歴史がある。
――曰く、出しゃばらずに、いざとなったら我ら黄金騎士の盾となって果てろ……
まぁ最初の二つは獅子丸の言うとおり事実としてもだ。
騎士が騎士に自分の盾になって果てろたぁ……な。
「もともと、そういう“役目”を仰せつかってたんだよ。ウチの系譜はね」
とはいえ、歴史も古くなりすぎてて厳密にどの黄金騎士の系譜から分かたれたのかまではわからないんだけど。
そう言って、獅子丸は微苦笑した。
『だとしてもだ。“仰せつかってた”ってことは、今となっちゃそのお役目とやらはとっくに解かれてるんだろう?』
「まぁね。いろいろあって、分家筋からも独立したのは、もう何十代も前の話らしいし」
『じゃあなおさら、あのボンボンどもにどーこー言われる筋合いなんてねえじゃねえか』
まぁそうなんだけど、と呟く獅子丸が、遠くを見る。
「いいんだよ。今がどうあれ、過去は過去だし、過去がどうあれ、今は今なんだから」
消え入りそうな声だったが、はっきりと俺の耳……いや魔導具に耳なんてモノは無いんだが……に届いた。
それは、ともすれば記憶のない俺でさえ忌憚なく受け入れてくれたような気がして、なんとなくむずがゆさを感じた。
……訂正しようか。
こいつは気弱なんじゃねえ。底抜けに人が良すぎるンだわ。
もっとも、訂正したところでこいつが騎士に向いてるとかは、これっぽっちも思わねえんだが。
『っと、そろそろだぜ獅子丸』
不意に俺の体を構成するソウルメタルがぞわり、と震える。
その魂がホラーである俺は、同族であるホラー……人に仇なす魔獣は、<プリズンホラー>とかいうらしい……の存在を察知できる。
そういった能力を買われて、俺たち魔導具ってのは存在しているわけだ。
そうそう。さっき“任務には当たってない”と言ったが、半分嘘だ。
元老院への使いの帰り際に、指令書を受け取ったばかりだったのさ。
つまり俺……厳密には、“俺と獅子丸のコンビ”は、今夜初めて――ホラーと対峙する。
『獅子丸、後ろからだ!』
邪悪な気配を感じ、檄を飛ばす。刹那、獅子丸の足が地をけり、白いコート……もとい、魔法衣の裾が翻る。
着地の隙を逃さんとばかりに突撃するホラーに、それよりも素早く、鞘に納まったままの魔戒剣を振るい、魔獣の顎を打ち抜いた。
ヘビのようなトカゲのような姿のホラーは、飛ばされたものの、その勢いを利用し獅子丸から間合いを広く取り対峙する。
魔戒騎士には向いていない性格ながら、その身体能力は相棒びいきを差っ引いてもそれなりのものだと思う。普段のたたずまいからして、あの黄金騎士崩れどもに比べれば段違いってヤツだ。
立ち合いさえしちまえば実力差に凹むのはあいつらのほうなんだろうが……人のいい獅子丸のことだ、立ち合いなんぞ善しとはしないだろう。
「……まぁそれ以前に騎士同士の私闘は禁じられてるんだけどね」
『人の心を読むな! つかホラー前にしておしゃべりたァ余裕だな』
そんなでもないけどね。と獅子丸がわずかに震えた声で言う。
「嘘でも余裕ぶってないと呑まれそうでさ」
『……おめー、つくづく騎士に向かねえタチだな』
「……よく言われる」
じゃあなんで騎士を目指した? と問いかけようとした俺の脳裏に、妙なビジョンが浮かび上がった。
なんだこりゃあ? 俺と……騎士? 獅子丸じゃねえ? 俺の、前の相棒……昔の記憶か?!
『……獅子丸!』
意識を取り戻した瞬間、獅子丸は魔戒剣を抜き、今まさに鎧を召喚しようとするところだった。
「何?」
『俺を右手に嵌めろ!』
「えっ、今?」
『そうだ今だ! 鎧は俺を右手に嵌めてから召喚しろ!』
急げ!
獅子丸に問いかけさせる暇を与えず叫ぶ。釈然としないながらもうなづいた獅子丸が首からネックレスチェーンを外した。
首から下げられていた俺……メリケンサック型の魔導具を、獅子丸が右手に嵌め、ぐっと握りしめる。
「!」
左手に持ち替えた魔戒剣を天に掲げ、その切っ先で輪を描く。
次の瞬間、“俺”の前身に激痛が走り――
気が付くと、俺は鎧の……真鍮騎士・牙央<ガオ>の一部になっていた。
-つづく-
仕事の合間に執筆する芸風(←おい店長仕事しろ
お久しぶりの・・・・・・というか、前回から2年以上経ってますた(滝汗
魔導具が主役(?)の異聞譚シリーズ最新作、お届けでゴザイマス。
獅子丸君に難癖つけてるのは、牙狼外伝コミュでもお馴染み(?)の彼らです(爆
どっかで使いたいと思ってたのが漸く出せましたw
真鍮騎士・牙央に関する情報はまた追々……
未だ任務には当たってないものの、こいつの“人となり”的なものはだんだんわかってきた。
『獅子丸よぉ……なんで一言の言い返しもしねえんだよ……言われたい放題だったじゃねえか……』
「いやまぁ……事実ではあるし……ねえ?」
――ねえ? じゃねえよ。
まずひとつに、こいつおもっくそ気が弱い。
つい先刻のことだ。<元老院>……騎士の総本山みたいなトコだ……に使いに行った折に、ハデな魔法衣をまとった3人組がニヤニヤしながらこいつに話しかけた……っつーより、悪口の類をこれでもかってほどふっかけてきたンだが、獅子丸のやつ、否定するでも言い返すでもなくってヤツだ。
……まぁ、聞き流してたとすりゃ、それはそれでたいしたタマだとは思うけどな。
にしたって、仮にも騎士なら激昂してもいいレベルの雑言だったんだが……
――曰く、立神の系譜は我ら黄金騎士からの分家筋である。
――曰く、黄金騎士を守る“影武者”としての歴史がある。
――曰く、出しゃばらずに、いざとなったら我ら黄金騎士の盾となって果てろ……
まぁ最初の二つは獅子丸の言うとおり事実としてもだ。
騎士が騎士に自分の盾になって果てろたぁ……な。
「もともと、そういう“役目”を仰せつかってたんだよ。ウチの系譜はね」
とはいえ、歴史も古くなりすぎてて厳密にどの黄金騎士の系譜から分かたれたのかまではわからないんだけど。
そう言って、獅子丸は微苦笑した。
『だとしてもだ。“仰せつかってた”ってことは、今となっちゃそのお役目とやらはとっくに解かれてるんだろう?』
「まぁね。いろいろあって、分家筋からも独立したのは、もう何十代も前の話らしいし」
『じゃあなおさら、あのボンボンどもにどーこー言われる筋合いなんてねえじゃねえか』
まぁそうなんだけど、と呟く獅子丸が、遠くを見る。
「いいんだよ。今がどうあれ、過去は過去だし、過去がどうあれ、今は今なんだから」
消え入りそうな声だったが、はっきりと俺の耳……いや魔導具に耳なんてモノは無いんだが……に届いた。
それは、ともすれば記憶のない俺でさえ忌憚なく受け入れてくれたような気がして、なんとなくむずがゆさを感じた。
……訂正しようか。
こいつは気弱なんじゃねえ。底抜けに人が良すぎるンだわ。
もっとも、訂正したところでこいつが騎士に向いてるとかは、これっぽっちも思わねえんだが。
『っと、そろそろだぜ獅子丸』
不意に俺の体を構成するソウルメタルがぞわり、と震える。
その魂がホラーである俺は、同族であるホラー……人に仇なす魔獣は、<プリズンホラー>とかいうらしい……の存在を察知できる。
そういった能力を買われて、俺たち魔導具ってのは存在しているわけだ。
そうそう。さっき“任務には当たってない”と言ったが、半分嘘だ。
元老院への使いの帰り際に、指令書を受け取ったばかりだったのさ。
つまり俺……厳密には、“俺と獅子丸のコンビ”は、今夜初めて――ホラーと対峙する。
『獅子丸、後ろからだ!』
邪悪な気配を感じ、檄を飛ばす。刹那、獅子丸の足が地をけり、白いコート……もとい、魔法衣の裾が翻る。
着地の隙を逃さんとばかりに突撃するホラーに、それよりも素早く、鞘に納まったままの魔戒剣を振るい、魔獣の顎を打ち抜いた。
ヘビのようなトカゲのような姿のホラーは、飛ばされたものの、その勢いを利用し獅子丸から間合いを広く取り対峙する。
魔戒騎士には向いていない性格ながら、その身体能力は相棒びいきを差っ引いてもそれなりのものだと思う。普段のたたずまいからして、あの黄金騎士崩れどもに比べれば段違いってヤツだ。
立ち合いさえしちまえば実力差に凹むのはあいつらのほうなんだろうが……人のいい獅子丸のことだ、立ち合いなんぞ善しとはしないだろう。
「……まぁそれ以前に騎士同士の私闘は禁じられてるんだけどね」
『人の心を読むな! つかホラー前にしておしゃべりたァ余裕だな』
そんなでもないけどね。と獅子丸がわずかに震えた声で言う。
「嘘でも余裕ぶってないと呑まれそうでさ」
『……おめー、つくづく騎士に向かねえタチだな』
「……よく言われる」
じゃあなんで騎士を目指した? と問いかけようとした俺の脳裏に、妙なビジョンが浮かび上がった。
なんだこりゃあ? 俺と……騎士? 獅子丸じゃねえ? 俺の、前の相棒……昔の記憶か?!
『……獅子丸!』
意識を取り戻した瞬間、獅子丸は魔戒剣を抜き、今まさに鎧を召喚しようとするところだった。
「何?」
『俺を右手に嵌めろ!』
「えっ、今?」
『そうだ今だ! 鎧は俺を右手に嵌めてから召喚しろ!』
急げ!
獅子丸に問いかけさせる暇を与えず叫ぶ。釈然としないながらもうなづいた獅子丸が首からネックレスチェーンを外した。
首から下げられていた俺……メリケンサック型の魔導具を、獅子丸が右手に嵌め、ぐっと握りしめる。
「!」
左手に持ち替えた魔戒剣を天に掲げ、その切っ先で輪を描く。
次の瞬間、“俺”の前身に激痛が走り――
気が付くと、俺は鎧の……真鍮騎士・牙央<ガオ>の一部になっていた。
-つづく-
仕事の合間に執筆する芸風(←おい店長仕事しろ
お久しぶりの・・・・・・というか、前回から2年以上経ってますた(滝汗
魔導具が主役(?)の異聞譚シリーズ最新作、お届けでゴザイマス。
獅子丸君に難癖つけてるのは、牙狼外伝コミュでもお馴染み(?)の彼らです(爆
どっかで使いたいと思ってたのが漸く出せましたw
真鍮騎士・牙央に関する情報はまた追々……