炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【牙狼SS】無銘の友誼:シーン4【真鍮騎士篇】

「な……なに、これ?」 

 敵前であることを忘れているかのような、獅子丸の素っ頓狂な声が転がる。 

『どうした!? ぼさっとしてんな!』 

 そんな相棒に喝を入れると、うなづきながら剣を握り直し、跳んだ。 

「うわっ!?」 
『む!?』 

 その跳躍に、俺のみならず当人までもが驚く。間合いを詰めるべく肉薄するつもりが、獅子丸の……いや、ガオの身体はしれっとホラーを飛び越しちまいやがった。 

『おいおい、なにやってんだ?』 
「いや、なんか……力が……出すぎてるっていうか?」 

 なんだそりゃ? 

『とにかく、こまけー事ァ後だ。まずは目の前のホラーだろう!?』 
「わかってる……よ!」 

 呑気にくっちゃべってるところを好機と見たか、ホラーが強襲を仕掛ける。とっさに“右手”に牙央剣を持ち替えた獅子丸がその爪による攻撃を受け止め―― 

『なにっ!』 

 刃に阻まれる前に、ホラーの掌が“斬られ”ちまった!? 

「くっ!」 

 しかし、ホラーは攻撃の手を緩めない。ひょっとしたら、コイツ“斬られたことにすら気づいていない”のか!? 
 受け止めているうちに、刃すら返すことなく魔獣の爪が、牙が文字通り削がれていく。 
 やがて、ホラーの攻撃がぱたりと止んだ。……いや違う。 

 ――武器が、尽きたんだ。 

『今だ、斬れ!』 
「はあっ!」 

 腹の底から息を吐き出し、獅子丸が正眼に構えた牙央剣を大きく振りかぶり――真下に振るう。 

 牙央剣の刃はホラーを切り裂いてなお止まらず地面を裂き、斬撃の衝撃波が草木を薙ぎ払っていった。 

「……っはぁ」 

 四散するホラーを一瞥したのち、獅子丸が鎧を返召し、荒く息をついた。 

『……はっは。なかなかどうしてすげえじゃねえか』 
「いや……確かに……全力で斬った……けど……あんなに……斬れるはず……ないんだけど……な」 

 俺の感嘆の声に、肩で息をしながら、獅子丸が返す。やれやれ、褒めてんだから喜んどけよなー。 

「それより……今の、鎧召喚した時のアレ……なんだったの? 大きな手甲みたいなのが右腕についてたけど……」 
『あー……それな。不意に思い出しただけで、俺もよくわからねえんだ。まぁ、元老院に報告ついでに聞いてみようぜ。俺の元持ち主の手掛かりになるかも知らん』 
「そう、だね……でも、ちょっと待って……」 

 あん? 

「なんか……力……入んなくて……ちょっとだけ……休んだら……動けると……思う」 

 どさり、と片膝をつき、魔戒剣を杖代わりに体を支える獅子丸。その情けない面構えは、さっきまでホラーと渡り合っていたヤツと同一人物には見えない。 

『しょーがねえなぁ』 

 とはいえ、俺自身も妙な疲労感が……肉体なぞ持っちゃいないはずなのにな……? 


 ・ 
 ・ 
 ・ 

 この時。 
 疲弊していたからか、それとも相手のほうが一枚上手だったからなのか…… 


 俺たちの様子を陰で伺っている“ヤツ”の存在に、俺も獅子丸も、ついぞ気づくことはなかった。




「……ようやく見つけたぞ。“騎士殺しの魔導具”……!」 



   -つづく- 




 自分で考えといてなんですが、“騎士殺しの魔導具”とかまた中二臭いネタをw 

 その辺の謎も、シーンを追うごとに明らかになる・・・・・・よね?(ぉぃ 

 「闇を照らすもの」もスタート、スピンオフ映画もと、未だ衰えることの知らない「牙狼」シリーズ。 
 異聞譚もまだまだやっていくぜー!

※初出2013年4月9日・mixi日記