炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【闇照】ZEN~炎刃の鋼腕~/シーン1【スピンオフ】

  シーン1:僚/Mate 



 数日前のことだ。 

 愛剣と義手を引っさげ、指令書のままにホラー殲滅の任に向かった猛竜は、思わぬ強敵に苦戦を強いられていた。 
 もとより、利き腕ではない方で剣を振るうのだ。猛竜が想像するよりも遥かに、彼の戦力は低下していた。 
 無論、利き腕を喪ってから鍛えてこなかったわけではないが、如何せん一朝一夕で元の動きを取り戻せるものではない。 
 かといって、義手はソウルメタルを拳の形に削り出しただけのもの。その手を開いて剣を握ることも出来ない。 

 歯噛みする猛竜に、ホラーの牙が迫る。咄嗟に右腕を突き出し、義手のもう一つの姿……炎を象った盾を発現させた。 

 魔獣の顎門が盾を噛み、動きが鈍った一瞬を逃さず、柳葉の刃を振るう。悪臭漂う肉が飛び散り、ホラーが事切れたことを猛竜に告げる。 
 どっと湧いた疲労感に、未だ喰らいついたままだった魔獣の牙を振り払うと、ソウルメタルの軋む音が1オクターブ跳ね上がり、盾を砕かせた。 

「な!?」 

 慌てて鎧を返還し、義手を元の姿に戻すと、ギリギリのところで完全な崩壊は免れたものの、いたるところに亀裂が入ったそれは、もう実戦では使えないと声なき声で訴えていた。 

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「よう、どうした猛竜? シケた顔しちゃってさ?」 
「……なんだ、お前ェか」 

 そんなある日。エレメントの浄化作業……ホラーの現出を未然に防ぐ、魔戒騎士のもう一つの任務である……をしながら町をうろつく猛竜の背中に、不意に重みがのしかかった。 
 西の管轄に移ってから知り合った僚友に、猛竜はため息混じりに応える。 

「なんだとはご挨拶だな。俺じゃダメって?」 
「どーせのしかかってくるなら可愛い女の子がイイに決まってんだろ?」 

 ふむ、と思案する同僚。懐っこい笑顔が不意に不敵なそれに変わる。 

「可愛い女の子だと思った? 残念、俺でした~」 
「声色変えてまでやってんじゃねえ気持ち悪ぃ」 

 顔をしかめる猛竜に、「悪い悪い」と笑いながら手にしていたエクレアを頬張る。 

「不機嫌の原因は……あぁ、それか」 
「……まァ、な」 

 コートの懐に隠された右腕を見やって、僚友が呟く。 

「ま、遅かれ早かれぶっ壊れるとは思ってたんだよな。こっち来る前にも、一度ボロボロになってるしよ」 

 ゼドムとの最終決戦の中、義手を盾に転じて振りかざし、仲間を守った猛竜。 
 苛烈な攻撃の中、砕けながらも仲間たちのために道を斬り開いた彼の“相棒”を、別れ際に修繕したのが、ともに戦った魔戒法師・莉杏であった。 

「応急修理しかしてないから、ちゃんと直してもらっとけって言われてたんだけどなぁ……」 

 出会った頃と比べて、ずいぶんといい女になった戦友を思い出し、頭を掻く。 

「今からでも遅くないんじゃないか? 修理してもらえばいいじゃん」 

 そう言って彼は、3つ目のカップケーキを取り出しながら、一人の魔戒法師の存在を猛竜に教えた。 

「義手とか義足とか? まぁそーいうのを専門で扱ってる魔戒法師がいるんだ。造り手なら、直すのだってわけはないでしょ?」 

 俺の名前出せばわかるようにしとく、と屈託なく言って、彼は猛竜の背中を軽く叩く。 

「元気だせよ!」 
「いや、別に元気ねえわけじゃ……むぐ」 

 シュークリームを押し付けられ、口が強制的に噤まれる。息が詰まる前にどうにか飲み込んだ頃には、僚友の背中はあっという間に遠ざかっていた。 



   -つづく- 




 タイトルこそ「炎刃の鋼腕」にしてたり、原典でも符礼法師から「新しい腕だ!」とか言われてますが、猛竜の義手、ほぼ手首から先程度の長さ……ってか短さですよね?w 

 さて、実際肉体の一部が欠損した状態になると、重心が変わり、身体のバランスが崩れ、体幹の維持が難しくなるそうで。 
 たとえそれが手首から先程度のものでも、仮にソウルメタルの重量操作で本来の手と同じ重さを再現したとしても。 

 本来あったものがなくなるって事は、肉体的にも精神的にも相当“くる”ものなんじゃないかなぁ、と。 

 まぁ、僕自身はそう言った経験がないので、憶測でしかありませんが。 

 原典では、精彩を欠くことなく動いているようにも見えましたが、やっぱり本来のポテンシャルは出し切れてなかったのかもしれません。 
 あるいは、出せていたとしたら、いわゆる火事場のバカ力状態にあったのかもしれませんが。 

 一応本作においては、こういうことにしています。 
 鍛え上げられた魔戒騎士でも、体は人間ですからして。 

 さて、僚友から義肢職人を紹介された猛竜。運命の出会いが待つ……のか? 

 次回をお楽しみに。