シーン6:喰/Collect
「くそッ……やっぱ効きがイマイチだぜ」
義手の魔戒銃は早々に全弾を撃ち切り、しかし全身に魔戒剣の刃を生やしたルメーズはソウルメタル製の鎧をまとっているも同義であり、有効打を与えるには至らない。
「手持ちの義手もあと1コか……」
換えの銃弾もなく、そもそも構造的に再装弾が不可能な義手銃を放り出し、最後の一つを付け替える。
「これ何の義手だっけ? ええい後だ後!」
脳裏の魔戒刻……99.9秒を刻む砂時計は間もなく鎧を纏うタイムリミットを告げようとしている。早々に決着をつける必要があるのだ。
「っだらあ!」
義手で握った柳葉の魔戒剣が弧を描き、ソウルメタルの槍衾ならぬ剣衾との激突が火花を呼ぶ。
刃と刃の隙間を縫って、刀身が僅かに魔獣の肉を裂いた。
「! ボル……」
「へっ……届いたぜ! このままなます斬りにしたらぁっ!」
雄たけびを上げて突撃する猛竜の耳に、ルメーズの独り言は届かない。
「“トメ”ノリリノオゲツエ……リカガシナツヲ!」
突き立てる切っ先が、ルメーズの腹に届く。その身体から、刃の鎧を引っ込めたのだ。
「な……っに?」
義手越しに伝わる違和感。突き立てた剣を引き戻そうとする猛竜だったが、思わぬ手ごたえがそれを阻んだ。
「っこいつ……剣を呑み込もうってのか!?」
「……フフ」
含み笑いを浮かべる魔獣に、ぞわりと背中が冷える。歯を食いしばって愛剣を引っ張る猛竜だが、その意思と力に反し、魔獣の腹はズブズブと刀身を飲み込んでいった。
「ぐぐぎぎぎぎ……」
いっそ押して串刺しにしようかと考えたが、目の前の魔獣の胴の太さでは、その切っ先すら飛び出さない。思考している間にも剣は魔獣の腹に消え、鍔も飲み込まれ、柄を握っている義手もが腹の切れ目に触れた。触覚の無いはずの義手に、ぬるりとした厭な感覚をおぼえる。
「こ・ん・にゃ・ろ・ぉ……っ!」
迫るホラーの腐肉と鎧のタイムリミット。手首まで飲み込まれたところで、猛竜が義手の接続を切り、引っ張っていた勢いのまま後ろに転がっていった。
「っう……」
地面を転がりながら鎧を返召し、自分の剣と義手が完全にルメーズに飲み込まれていく様を見る竹竜。やがて大きく嚥下する音と下品なゲップ音が悪臭とともに撒き散らされ、ルメーズがするすると人のカタチを成した。
「ふむ……魔戒の鋼の喉越しというものは、いつもながら甘美なものだな。そもそもが我らが同胞(はらから)の身体より生み出されたものと聞くが、それも納得のいくというものだよ。コレを生み出した人間というものは実に素晴らしいね」
白スーツの男に姿を変えたルメーズが慇懃に哂う。
「お褒めに預かり光栄だね……まぁ俺じゃねえけど」
荒く、肩で息をしながら、猛竜が口を開いた。
「そして魔戒騎士。お前もまた素晴らしい。私に勝つために幾つもの鋼の腕で立ち向かい、剣を振るう姿、敵ながら美事。お前のその魂、その生き様も、我がモノにするにふさわしい」
革靴が地面を鳴らしながら、人型のホラーがゆるりと猛竜に近づく。
「光栄に思い給え。お前は魔戒騎士としては初めての――我がコレクションになるのだ」
また一歩、ルメーズが猛竜に歩み寄る。と、その耳朶が猛竜の口から漏れる声を捉える。
「おや、念仏ですか? 敬虔な教徒とも思えませんが……」
「……ん、さん、に……」
言葉の意味を理解できぬまま、ルメーズの口がヒトのそれを超えて開く。目の前の隻腕の魔戒騎士を喰らうために。
「……いち、ゼロ!!!」
最後の一言が猛竜の口から放たれた瞬間、ルメーズの腹が突然膨張を始めた。
「な……に!?」
その奥が、白いスーツ越しにもわかるほどに赤く、熱を帯びていく。
「悪食趣味も程ほどにしといたほうがよかったな……さもなきゃ、腹ァ壊すぜ?」
猛竜がそう呟いたのと、ルメーズの身体が爆発を起こしたのはほぼ同時であった。
「……そんな風にな♪」
猛竜の不敵な笑みが、深紅の爆炎に照らされた。
-つづく-
※たぶん義手喰われかけの時点でようやく義手の能力思い出したクチ(ぇ
当初の予定では魔獣態のままでドカーンするつもりが、ヒノモトコトバ喋らせたかったので人型に。
結果的にかなーりグロいネタになったやうな(滝汗
まぁ原典からして(お察し下さい←
無論、これで終わるようなもんでもないんでご安心下さい(?
だって未だタイトルの具現化してないしw
まぁとりあえず、待て次戒!ってことでひとつ。