プロローグ:幻/Pain
――右手を穿つ、痛み。
突き立てられた巨大な針のようなモノが、じわじわと蠢いて俺の肉を掻き回す。
中に入ってくるナニカが……オレヲ……変エ……
……変えられて、たまるか!
「うあぁぁぁぁぁ……クソッタレェェェッ!!!」
地面に刺していた刃に右手を当て、躊躇いごと切り落とす。刺された痛みすら吹き飛ばす更なる激痛が全身を駆け巡り、薄れかけた意識が一気に浮上した。
既に“魔導ホラー”に変わりかけている俺の右手を、黄金騎士に託す。
「斬れ! これで魔導ホラー1体殲滅だろ! ……流牙ァッ!!!」
へへっ……ざまあみやがれ金城滔星……
悔し紛れに飛び掛ってきた滔星を殴り飛ばして、俺は降って沸いた眠気に身体をゆだね……
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「……っは!?」
“男”が跳ね起きる。
全身汗だくになった彼が辺りを見回すと、それはようやく見慣れてきた自分の新しい寝床であった。
「……夢、か」
ほっとため息をついたのもつかの間、“右手”に疼痛が走る。
「ぐっ……うぅぅ……」
しかし、その右腕……その先に、痛みを訴える“右手”は無い。
“男”の名は蛇崩猛竜。
かつて、<ボルシティ>と呼ばれる仮初の理想郷で、“魔導ホラー”と呼ばれる魔獣と戦った、3人の魔戒騎士の一人である。
さまざまな試練……出会いも、別れも経験し、激闘の果てに、原初の魔導ホラー・ゼドムを討ち倒した猛竜たちであったが、その代償は、決して小さくは無かった。
「やっぱ、義手つけて寝るか……」
戦いの最中、戦友を庇ったことで喪った右手を見やりながら、独りごちる猛竜。
無論、そのことを後悔はしていない。むしろ、最強の騎士を守った名誉の負傷だと、時折軽口交じりに嘯くほどだ。
枕元に置いた義手……今は亡き、恩師とも言うべき男が遺した……に手を伸ばす。
これまでも、時折ありえない痛みを訴える右手だったが、この義手をつけているとずいぶんと和らいだ。ソウルメタルを削りだしただけの急拵えであったが、ゼドムとの戦いでも共にあったこの“相棒”は、いまや猛竜にとって、無くてはならないものであった。
文字通り、握り拳大のソウルメタルの塊を右腕につける。と、走っていた亀裂がさらに伸び、厭な破砕音が耳朶をなぞった。
「……あぁ、そうだっけか……」
未だ収まらぬ幻肢痛に顔をしかめながら、猛竜がやっちまった、と呟いた。
牙狼<GARO>~闇を照らす者~スピンオフ
ZEN~炎刃の鋼腕~/ENZIN_NO_KAINA
「サブキャラが主役のスピンオフを作りたい病」に新たに罹患しました。
……と思ったけど、もともとそーいう傾向があったような気がする。
(リメイク準備中)
で、今回の生贄(マテ)に選ばれたのは、「闇を照らす者」の炎刃騎士ゼンこと蛇崩猛竜。
彼がどんな目に……もとい、どんな活躍をしてくれるのかは、これからの物語を読んでやってくださいまし。