「ナダ!ナダ!?」
霧散した鎧の下で、傷だらけのナダの素顔が露になる。ウデンとの一人きりの闘いは、相当なダメージを彼にもたらしていたらしい。
「カガヤキソウル!」
すかさずコウが癒しの力を駆使するが、その傷口は一向にふさがる気配を見せない。
「どうして!? これはウデンから受けた傷だろ?」
「いや、確かにウデンの攻撃だが、それは俺たちの技をコピーしたものだ。つまり……」
「リュウソウ族の力で傷つけられたのと同じってこと?」
カガヤキソウルの力は、根源を同じくするリュウソウ族の力で受けた傷を癒すことを想定していない。かつてナダがコウを斬った時と同じ状況に、今度はナダ自身が陥っていたのだ。
「このままじゃナダが!」
「早く病院に! ういに連絡しなきゃ!」
しかし事態は一刻を争う。救急車を待っている時間は無い。
「どうすれば……」
焦るメルト。と、その視界の端で何かが光った。ナダが持っていたガイソーケンの切っ先であると気づいた瞬間、その輝きが目の前いっぱいに広がり、6人はまばゆさに目を閉じた。
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「一体、何が……?」
一面真っ白な世界で、コウたちと倒れたナダ。そして……
『若き騎士たちよ……久しいな』
「あ、あんたは……!」
年老いた男性が、音もなく現れた。
「ヴァルマ!」
「……誰だ?」
カナロだけが首をかしげる。
「あ、そっか。カナロはあの時居なかったっけ」
男の名はヴァルマ。一億五千年前の地球に生きていたリュウソウ族であり、ガイソーグを生み出した科学者である。
生み出した力に囚われ、心を失ってしまっていたが、現代から時を超えてやってきたコウたちとぶつかり合い、心を通わせたことで元のやさしい心を取り戻したのだった。
「でも、なんでヴァルマが?」
『ガイソーグは、それを纏ったものの記憶を宿す力を持っている。この私はガイソーグから呼び出された残存思念に過ぎない』
そして、記憶のヴァルマは訥々と語りだす。ガイソーグが生まれ、多くの騎士の手に渡り、そして今に至るまでを。
『お前たちのおかげで、ガイソーグは本来の役割を取り戻した。感謝してもしきれん』
その礼だ……と、ヴァルマがナダを見やる。
『不屈の騎士ナダ……強きリュウソウ族の男よ。そのソウル……今消えてしまうには惜しい』
ナダの手からガイソーケンを取り、天高く掲げる。
『ガイソーグに宿りし、数多の騎士の記憶よ! 気高き英霊の魂たちよ! 今ここに消えゆかんとする若き騎士に、再び生きる力を!』
高らかに叫ぶヴァルマの背後に、無数のガイソーグが並び立った。
「これは!?」
『ガイソーグに宿った騎士の記憶は、すなわち彼らの魂のひとひら。そのすべてを、この強き騎士に託す』
――われらのソウルをひとつに!!!
騎士の魂の叫びが重なり、世界を震わせる。ひとり、またひとり。ガイソーグの鎧をまとった英霊が、ナダの身体の中に吸い込まれるように入っていき……そのたびに、ナダの傷がいえ、冷えた体に熱が戻っていく。
「……えっ?」
ふと、そのうちの一人が不意に足を止め、トワを見た。
「まさか……あなたは……?」
それは彼にとってよく知る人物であるらしかった。言葉を交わすことはなく、ただ互いに頷き、そのガイソーグもまた、ナダへと入り込んでいった。
百、二百、五百……千を超える魂の一片が、ナダに命を与えていく。
やがてその数が目に見えて減っていき……ついにヴァルマ一人になった。
『コウ……そして現代に生きるリュウソウの騎士たちよ』
眠るナダを一瞥し、ヴァルマはガイソーグを纏う。
『もし彼が、騎士としての闘いを続けるのならば……その時はこう伝えて欲しい』
――“鎧装竜のソウルに会え”と。
そう言い残して、最初のガイソーグは光となり……
次に気づいたとき、コウたちは元の場所で。
傍らではナダが、静かに寝息を立てていた。
* * *
――“あぁ……どうも、まいどです。ナダです。”
“えー……まあ、別に改まって言うようなことじゃないんやけど……”
“オレ、みんなの足引っ張りたないから、ちょっと修行の旅に出ようと思ってます。”
“だから、まあ、ちょっとおらんようになるけど、まあ、寂しがらんといてな?な?”
「だーっ! もう流すなやその動画! もう12回目やろ!?」
「えー? だって……ねぇ? あはははっ!」
ういのタブレット端末に仕込んでいた別れのビデオレターを繰り返し再生され、顔を真っ赤にして追い掛け回すナダと、大笑いしながら逃げ回るアスナの姿があった。
あれから息を吹き返したナダは、大事をとって尚久の手配した病院に入院することになった。とはいえリュウソウ族らしく強靭な体の持ち主であった彼の回復は早く、一昼夜もかからず起き上がれるようにはなっていた。
「クッソ……誰にも言わんと出ていくハズやったのに……あ、こらリピートすな!」
病室を飛び出そうとした矢先、看護師につかまったナダの頭上にカミナリが落ちた。
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「あーもー、エライ目おうたわ……って、なんやねんコウ。ニヤニヤしおってからに」
「んー? なんでもっ!」
満面の笑みを浮かべるコウに、ナダが怪訝な視線を返す。
「……なぁ、ナダ」
「うん?」
「……ありがとな」
「は? ありがとなはこっちやで。助けてくれたんやからな」
「ううん、それもだけど、それじゃなくてさ……」
――生きててくれて、ありがとうって。
その言葉をコウは、笑い声とともに飲み込んだ。
-第1話・了-
……というわけで、原作33話における、ナダの死を回避するルートと相成りました。
あの時点での死は免れたものの、ガイソーグに散々振り回されてたダメージも蓄積されてたんだろうなぁ……というのと、ちょっと思うところがあって、ガイソーグの鎧にはここで原作通り(?)退場してもらうことになりました。
この展開については、あるいは賛否あるかもしれません。ナダがチェンジできなくなるし。
まぁ、これについては、リュウソウジャーの展開についてちょっと考えてたネタがあって、それをナダの生存ルートに組み合わせて出してやろうと思った次第で。
……ええ、続きますとも。ナダの活躍は。
何のために「第1話」ってやったと思ってるんですかっ!(キリッ
一方、マックスの力のないままのリュウソウジャーの前に立ちはだかる、ドルイドン最強幹部・プリシャス。このあたりのフォローも一応、ね。
原作34話、本来の歴史ではいないはずのナダの存在は、物語にどんな変化をもたらすのか……
それはまた、次の頁ということで(ぱたり