炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【ゼロワンSS】おとうさんをナオして【滅】


 早朝の飛電製作所に現れた“訪問者”に、社長である飛電或人は文字通り目を丸くした。

「ほ、(ホロビ)っ!?」
 それは滅亡迅雷.netのリーダー、<滅>と同じ顔のヒューマギアだったからだ。

「お願いします!父を……父をなおしてください!!」
 そのヒューマギアを抱え、必死の形相で縋る青年に、はっと我に返る。滅には無いデバイスを装着し、ありふれた洋服を身にまとった姿は、顔こそ似ていたものの、それが別個体であることを示していた。

「或人社長、こちらは旧式の父親型ヒューマギアです」
 社長秘書のイズに助け舟を出されて思い出す。滅は、そのうちの一体がアークのハッキングを受けたものなのだ。

「それにしても、大事にお付き合いしていただいたようですね」
 イズの言葉に、依頼人の青年が深く頷く。現行タイプのヒューマギアが大半を占める現在、旧式を愛用しているユーザーは少数派であった。
「子供のころから、ずっと一緒でした。ヒューマギアでしたが、僕にとっては本当の父……いえ、それ以上の存在なんです」

 そんな彼の言葉に、或人の脳裏に父・其雄との思い出がよぎる。

「……そうでしたか。では、必ず私たちが復元します」

 イズに“父”を横たわらせ、或人はジョブキーから該当のものを探し出して、再起動をかけた。
 電子音声が鳴り、デバイスが明滅する……が。

「あ、あれ?」

 微動だにしない身体を前に、或人が焦りながらもう一度ジョブキーをかざす。

「っかしいなぁ……シャットダウンされてるだけなら、これで復旧するはずなんだけど……?」
「或人社長、この個体は旧式です。現行型より処理速度が遅いので、起動にも時間がかかるのです」

 あ、そうなんだ。と胸をなでおろし、依頼人にその旨を告げる。

「ええっ? どれくらいかかるんですか?」
「概ね、半日ほどかと」
「そ、そんな……!」

 悲観する表情を浮かべる。どうかしたんですか?と或人が尋ねると、実は……とぽつぽつ話し始めた。


  ――今日は結婚式で……父にどうしても出席してほしくて。


 半年ほど前に日取りが決まり、いよいよ……となった最中のシャットダウンだったらしい。

「延期や、あるいは中止も……と考えました。でも……」

 諸事情によりそれは難しいらしかった。
 ずっと一緒に過ごしてきた“父親”に、自分の人生の晴れ姿を見てもらいたい。
 それは、人であってもヒューマギアであっても同じに違いない。

「……もし」
「?」
「もし、私の父が健在だったら……自分も同じことを思ったと思います」


  ――俺に、任せてもらえませんか?


 依頼人の涙に濡れた瞳に、或人の決意に満ちた表情が映った。


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    人工知能搭載人型ロボ・ヒューマギアがもたらすのは、人類の希望か、絶望か。
    AIテクノロジー企業を新たに立ち上げた若き社長が、夢に向かって、今……飛び立つ!


     0101010101010101……

 

      仮面ライダーゼロワン/EXTRA EPISODE

      -おとうさんをナオして-

 

 

     0101010101010101……

 

『あるわけないだろうそんなもの……』
『旧式のフレームはデイブレイク事件を機に、稼働しているものを除いて全部破棄されているんです。サポート期間もとっくに終了してるんですよ?』

 ライズフォン越しに、福添と山下の呆れた声が届く。ひとまずの代役として、飛電インテリジェンスに同型の在庫が残っていないか尋ねてみた結果だ。

「やっぱり……ですよね」
『仮に存在していたとしても、やはり再起動に半日はかかってしまう。君が何を考えてるかは知らんが、急の案件には対処できんぞ?』
『それ以前に、天津社長によって全てのヒューマギアの廃棄処分が言い渡されています。旧式が残っていても同じことでしょう……』

 二人に礼を言って電話を切り、或人がため息をつく。

「まぁ、ダメ元っていえばダメ元だったからなぁ……」
「或人社長、どうするのですか? ひとまず依頼人の方には結婚式場に向かってもらってはいますが……」

 ……考えが潰えたとしても、或人のやることに変わりはない。依頼人の“父親”に、笑って結婚式に立ち会ってもらうことだ。
 それは依頼人の夢であり、彼の父の夢でもあると信じているからだ。

「……こうなったら」

 再起動を待つ“父親”ヒューマギアに視線を向け、イズに向き直る。

「イズ、新型ヒューマギアのシステムとバイパスを組めないかな? システムを最適化させて、可能な限り再起動を早めさせるんだ」
「理論上は可能ですが……或人社長は?」
「ちょっと出てくる」

 そう言って、或人はオフィスを後にした。

 

     0101010101010101……

 

「……俺が、代役……?」

 丁度オフィスを訪れていた不破を連れ、或人はデイブレイクタウンにやって来ていた。“滅”に会うためである。

「おいおい社長さんよ……事情は道すがら聞いたが、正気か?」
「正気も正気。もうこの手段しか無いんだ」

 滅の前に立った或人が、正面から彼の眼を見つめ、語り掛ける。

「お願いだ滅。俺たちの準備が終わるまで……半日……いや、ほんの少しだけでもいい」

 

  ――少しだけほほえんで・・・・・・・・・くれてればいいから……っ

 

「……莫迦か貴様は」

 滅が、冷たい視線を一ミリも動かすことなく言い放ち、或人の手を振り払った。

「頼む! お前と同じ、父親型ヒューマギアのために……!」
「断る。同型だからなんだというのだ。俺は滅亡迅雷.netの滅だ。その父親とやらではない」

 そもそも……と、滅が刀を抜き、或人の喉元に突き付けた。とっさに銃口を向ける不破を、しかし或人は手で制した。

「今はZAIAという共通の敵が存在しているだけで、我らと貴様らは本来相容れぬ存在のはずだ。頼みごとを聞いてやる筋合いは無い」

 もっともな意見に或人が目を伏せ……

「……頼み事で駄目なら、契約(ビジネス)ならどうだ?」

 ふと、不破が口にした言葉に、目を丸くして振り向いた。

「……俺じゃねえぞ。“亡”がそう言った」
 憮然と呟きながら、ショットライザーを懐に戻す。

「契約って……」
「例えばだ。滅、てめぇ刃に復元されたっつっても、ずっと戦い続けてフレームも相当ガタ来てんだろ」

 不破の内にいる亡曰く、滅のボディの修理を報酬に、或人の依頼を聞く……というのはどうか。ということだった。

「それこそ莫迦な話だ。敵に理を与えてまで……」
「いや、それでいこう!」
「……何?」

 或人がライズフォンのアプリを起動し、契約書を出力する。言葉を選びながら文章を書きだし、自分の直筆のサインをしたためると、滅に突き出した。

「飛電製作所の社長として……滅、お前の修理を請け負う」
「……正気か?」
「ああ、正気だ」

 二人の視線が交錯する。ややあって、滅が刀を収めた。

「……いいだろう」
「……契約成立だな」

 滅から契約のサインを受け取り、或人がにやりと笑った。

 

     0101010101010101……

 

 果たして滅と或人たちは式場へと向かい、イズから連絡を受けたデルモの協力によって、手早く“父親”の姿に変えられた。

「……奇妙な感覚だな」
 バンダナを外され、旧型のヘッドデバイスのレプリカを付けた滅がしかめっ面で耳元を弄る。
「イズから連絡があった。3時間後ぐらいには再起動が完了するらしい。どうにかそれまで……頼む」

 そんな或人を一瞥することなく、会場へ向かおうとする滅。
「ストップ!その顔のまんまで出ないでくれよ。ほら、笑って笑って」

 にーっ、と口の端をこれでもかと広げて笑顔を作って見せる或人に倣い、滅も不承不承ながら笑顔を作ろうと……


  ……ギギ、ギィ……


「……おい、なんか変な音してねえか?」
「修理内容に、表情駆動系の改善も入れとくよ」
「……要らん」

 試行錯誤しながらも、どうにか笑顔を作り上げる。控室では依頼人とその花嫁が父を迎え入れ、感謝とともに頭を下げる彼に、真実を告げることができず、或人もまた作り笑いで応えた。

「俺は残る。契約関係とはいえ、相手は滅だ。何が起こるかわからねえからな」
「……お願いします」

 不破に後を託し、或人は踵を返して会社へと戻った。


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 或人と契約した“仕事”の内容は以下の通り。
 一つは、依頼人の“父親”の復元が完了するまで、その代役として式場に座ること。
 もう一つは、ボロが出ないように必要以上に動かないことと、最後に笑顔を忘れないこと。

 先だって或人が依頼人に「復元は間に合ったが一部機能が一時的にダウンしている」という方便でカバーしているが……

(何事もなきゃいいがな……)

 さすがに式場に入り込むわけにもいかず、不破は外側から様子をうかがうにとどめていた。

「……おい、滅。表情戻ってんぞ」

 気づくと真顔に戻ってしまっている滅を無線越しにフォローしつつ、式の進行を見届けていく。

「……んっ?」
 と、不破の無線にノイズ交じりの通信が飛び込む。
『どうした?』
「お前は気にすんな。黙って笑ってろ」

 そう言って式場を離れる。すぐ後に、タイヤのブレーキ音がアスファルトを削りそうな勢いで不破の前で止まった。

「……ZAIAか」

 見慣れたAIMSのロゴ……今となってはZAIAの私兵と化した古巣のバンから二人の隊員が躍り出る。着眼したザイアスペックの機能で、式場にヒューマギア=滅の存在を感知し、二人は即座にプログライズキーを取り出した。

「……結婚式場にヒューマギアが座って笑っている、という“善意”の通報で来てみれば……」

 その間を縫うように、やたら純白の装いを纏った男がゆったりと現れる。ZAIAの社長にして、飛電インテリジェンスの現社長でもある、天津該その人であった。

「そこにいるのは滅亡迅雷の滅ときたか。新手の余興か何かな?」
「……さぁな」

 ランペイジガトリングのキーを取り出し、相対する。

「まぁ、相手がただのヒューマギアであれ、滅亡迅雷であれ……」

 一方、サウザンドライバーを起動させながら、天津がにじり寄る。

「廃棄処分に変わりはない……変身!」

 天津……否、<仮面ライダーサウザー>の出現と同時に、AIMS隊員もバトルレイダーに実装を果たす。矢襖の如く飛び交う機関銃の弾丸をかいくぐりながら、不破はプログライズキーをこじ開け、ショットライザーにセットする

「変身ッ!」

 <仮面ライダーバルカン>にチェンジした不破の応戦が始まった。

 

     0101010101010101……

 

(……騒がしいな)

 式場で父親役に徹する滅が、物音に身じろぎする。式は厳かに進み、いよいよ誓いの言葉を述べるところまで進んでいた。

「新郎……」

 初老の神父が口を開いた刹那、その言葉は轟音にかき消された。

「な、なんだ!?」

 新郎……依頼人の青年がとっさに新婦をかばい、音のした方を見やる。粉塵の向こうから現れたのは、バトルレイダー……AIMS隊員であった。

「あれって、ヒューマギアを処分して回ってるっていう……!」
「ターゲットを確認、処分する」
 その銃口が冷酷に滅を狙い……

「……やめろぉっ!!!」

 駆け込んだ青年のタックルが、バトルレイダーを押し出す。予想外の方向からの圧力にたじろいだ隊員を横目に、青年は「逃げよう!」と滅の手を取って走り出した。

 バトルレイダーによって破壊された会場の入り口を飛び出し、外へ躍り出る。しかし、そこもまた戦場となっていることを、彼はまだ知らない。
 立ち込める土煙を抜けると、そこではバルカンとサウザーが対峙している真っただ中であった。

「おや、態々こちらに来てもらえるとはね。さぁ。おとなしく破壊されなさい……!」

 サウザーがサウザンドジャッカーを滅に突き付ける。と、その間に青年がばっと割って入る。

「……なんのつもりです?」
「それはこっちのセリフだ!」

 ジャッカーの切っ先を掴んで、青年が激高する。

「あんたに何の権利があって、父さんを壊そうとするんだ!」
「権利?私は飛電インテリジェンスの社長です。わが社の製品をどう扱おうと自由なのですよ」

 掴んだ手を振り払い、再びジャッカーを構える。しかし青年は、離れることなく、父の……滅の前を離れない。

「父さんは……壊させない!」
「……理解できませんね。偽物相手にそこまで本気に……」
「偽物なんかじゃない!本当の父さんだ」
「そういう意味で言ったのではないのですが……まあいいでしょう、なら――!」

 プログライズキーをジャッカーに装填する。猛烈なエネルギーの奔流が切っ先に集まり……

「あなたごと、破壊させてもらいましょうか!」


  -JACKING BERAK!-


 無慈悲な一撃が、放たれた。

「……ってめえ!」

 バトルレイダーに足止めされ近づけなかったバルカンが歯噛みする。

「フフフ……」

 勝ち誇ったように笑うサウザー。やがて爆風が晴れ、バラバラになった滅の残骸を見ようとしたその表情が、仮面の下で凍り付いた。

「……なっ!?」

 依頼人ごと貫かんとした一閃は、一体の巨大なサソリのライダモデルによって阻まれていた。さらにその下では……

「父……さん……?」

 レプリカのヘッドデバイスを吹き飛ばされ、その正体を露にしてしまっていた滅が、抱きかかえるようにして青年を守っていた。

「……大丈夫か?」
「……あ、う、うん……」

 自分の知る父とは明らかに違う表情と声色で、しかし全く同じ力強さで。

「……さがっていろ。いつまで花嫁を放っているつもりだ」
「……!」

 その言葉で我に返り、式場に戻る青年を見送り、滅はゆっくりと振り向いた。

「どういう風の吹き回しだ? 人間など滅べばいいと思っているお前が、人間を守るとは」
「……さてな」

 ずたずたになった衣装を脱ぎ捨て、いつもの姿に戻った滅が、すでに装着されていたフォースライザーを起動する。

「……変身」

 仮面ライダーに転じた滅が、複眼越しにサウザーをにらみつけた。

 


     0101010101010101……

 


「お待たせしました!」

 滅とバルカンの活躍によって、ZAIAを撤退させたのとほぼ同じタイミングで、或人とイズが“父親”を連れて戻ってきた。

「……なにかあったんですか?」
「ああ。もう終わったけどな」

 肩をすくめて、不破が呟いた。


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 騒動が落ち着き、式が再開した。不幸中の幸いか、ZAIAの介入のお陰で、再起動した“父親”はしっかりと息子の晴れ姿を見届けることができた。

「記念写真撮りますよーっ!」

 参列者がカメラマンの声に集まっていく中、新郎たる依頼人の青年が或人のもとへ駆け寄ってきた。

「今日はありがとうございました」

 と、青年があたりを見回してから、今度はこっそりと問いかける。

「……あのヒューマギアは、どうされたんです?」
「え?あ、いやその……」

 滅のことを言っているのであろう、というのは想像がついた。依頼人を守った行為であるとはいえ、彼の前で正体を顕しただけでなく、仮面ライダーにも変身して見せたのだから。

「ご、ごめんなさいっ! どうしても、再起動が間に合わなくて代役を……」
「あ……いえ、社長さんを責めてるんじゃないんです。結果論ではありますが、父はちゃんと式場に来てくれましたし、それに……」

  ――姿が違っても、仮面ライダーでも。


「……あの人も、僕の父さんでしたから」

 できれば、一緒に記念撮影したかったんですけどね。
 屈託なく笑って、青年は新婦と“父親”に呼ばれるまま、駆け戻っていった。


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「……迅か」

 その様子を遠くから眺めていた滅が、背後からの気配にぽつりとつぶやく。

「良かったの、残らなくて?」
「正体がバレた以上、契約は不履行だ」

 “本物”が戻った今、自分があの場にいる必要はないしな。と滅が言う。

「ねぇ」
 迅が問う。なぜ人類滅亡を謳う滅が、人間に手を貸し……あまつさえその命を守ろうとしたのか。

「それもアークの意思?それとも滅のベースになった父親型ヒューマギアとしての使命感、かな?」
「どちらも“まさか”だな」

 アークの意思は人類滅亡ただひとつ。そのアークの意を受けて“生まれた”自分に、元々あった使命などとうにハッキングされて喪われているはずなのだ。

「ふうん……でもさ、滅」
「なんだ?」


  ――顔、笑ってない?


「……表情駆動系の誤作動だ」

 帰るぞ。と言い放って踵を返す。「あ、待ってよ!」と迅がそれを追いかけ……

 

 滅が振り返ることは、二度と無かった。

 

 


  -おとうさんをナオして・了-

 

 


 今回は、Twitterに流れてきた二次創作漫画から着想を得ました。

当該ツイートと、そのリプでのコメント等を参考にさせてもらいました。

ひょっとしたら続きを描くかも、ということでしたのでupは少々躊躇われたのですが、5/3放映分からまた滅亡迅雷サイドが動きそうだったので出すなら今か!と思い……

当人にはまったく連絡入れてないので、怒られたら消します。

 

今回は戦闘シーンはほとんど書きませんでしたね。滅に父親の代役をやらせるのが主軸なので、戦闘はちょい蛇足かなとばっさりカット。まぁご多分に漏れず滅(と不破さん)にボッコボコにされてズタボロの社長の退場劇で終わったのは間違いないでしょうが(ぇ

 

コロナウイルスで引きこもってる皆さんの暇つぶしの一助になれば、これ幸い。