炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【ダブルSS】JとF/イーヴィル・カラーズ:シーン1

 また誰かが、突然ドアを叩く。

「はーい!」

 <鳴海探偵事務所>の所長…と自称している少女・鳴海亜樹子がドアを開くと、住人達にとってよく見知った顔が現れた。

「あれ…ジンさん」
「…よぉ」

 英文タイプライターをがちゃがちゃ叩いていた青年が気づくと、ジンさんと呼ばれた男は軽く手を上げて応えた。

「珍しいね、こっちに来るなんて」

 部屋の隅でラジオ番組に興じていた青年が笑顔で男に近づく。

ドーパントがらみの事件でもあったのか? 刑事さんがわざわざ来るってことは、急ぎで?」
「うんにゃ、今回は個人的な用件だ。……ちょいとお前らに依頼をしたくてな」
「依頼?」

 タイプライターを叩く指を止め、青年―――左 翔太郎がジンさんこと、刃野 幹夫の渋そうな表情を見た。


   *


「名前は、<正木忠義>。俺の…元部下だ」

 警察手帳から、顔写真を取り出して見せる。

「へぇ、結構イケメンじゃない」
 翔太郎の肩越しに亜樹子が覗き込む。
「なるほど。こーいう顔立ちのことを<イケメン>と言うのか。憶えておこう」
 その隣でもう一人の青年―――フィリップがうなづいていた。

「おまえら、背中に寄りかかるなっつーの!」

 重たそうに呻く翔太郎だが、二人はそ知らぬ顔だ。

「で、いつから行方不明なわけ?」
「…半年だ」
 ぐりぐりと肩をほぐしながら刃野が呟く。
「それはまた…ずいぶんと前からですね?」
 仮にも刑事だ。自分なりに探しても見たのだろう。所々痛み、角の丸まった写真がその経緯をものがたっていた。

「警視庁からの出向できたヤツでな。最初はいけすかねえエリート野郎かと思ってたんだが、正義感の強い奴でな。まさに、刑事になるべく生まれてきたようなやつなんだよ」

 目を細め、当時のことを述懐する刃野。

「だが、それが仇になったのかもな。ある時ヤツは、上層部の人間が、とある事件の加害者であることを突き止めちまった。当然、捕まえようとしたんだが、その直前でヤツは事件の担当からはずされ、事件そのものももみ消されちまった」

「…ま、よくある話だな」
「あってもらっちゃこまりますよ。警察なんですから」

 ため息混じりに呟く翔太郎に亜樹子のツッコミが入る。刃野も「まぁ、そうなんだがな…」と苦笑した。

「それでアイツ、警察ってモンに失望しちまったんだろうな。何度となく俺と辞める辞めないで言い争ってよ。…で、ある日俺の机の上に辞表置いて、そのまま居なくなっちまったのさ」

 事務所内に、重い空気が立ち込める。

「…すごい、刑事ドラマみたい」

 その空気を読めず、フィリップがどこかズレた発言をした。

「それから連絡も取れねえ、探しても手がかり一つみつからねえときたもんだ。…で、半年たってようやくお前らっていう存在を思いついたわけだ」
「…遅ぇよ」

 ま、それは冗談としてだ。と笑い、ふと真顔に戻る。

「頼めるか?」

「……この都<まち>は俺にとっちゃ庭みたいなもんだ。安心して待ってな、ジンさん」

 いつもどおりの決め台詞を舌に乗せ、不敵な笑みを浮かべてみせる翔太郎。

「そーそー。私達が“ハーフボイルド”に解決してあげるからさ!」
「“ハードボイルド”だ!」


 茶化す亜樹子に、翔太郎が声を張り上げて反論した。




   -つづく-



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 さて、まずは探偵事務所。
 この依頼から、彼らも動き出すのです。
 ハーフb…もとい、ハードボイルドにね。


 ところで、翔太郎が劇中で読んでる「ザ・ロング・グッドバイ」が読みたくなった。

 …最近読む時間とれないけどねー(トオイメ

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