また誰かが、突然ドアを叩く。
「はーい!」
<鳴海探偵事務所>の所長…と自称している少女・鳴海亜樹子がドアを開くと、住人達にとってよく見知った顔が現れた。
「あれ…ジンさん」
「…よぉ」
英文タイプライターをがちゃがちゃ叩いていた青年が気づくと、ジンさんと呼ばれた男は軽く手を上げて応えた。
「珍しいね、こっちに来るなんて」
部屋の隅でラジオ番組に興じていた青年が笑顔で男に近づく。
「ドーパントがらみの事件でもあったのか? 刑事さんがわざわざ来るってことは、急ぎで?」
「うんにゃ、今回は個人的な用件だ。……ちょいとお前らに依頼をしたくてな」
「依頼?」
タイプライターを叩く指を止め、青年―――左 翔太郎がジンさんこと、刃野 幹夫の渋そうな表情を見た。
*
「名前は、<正木忠義>。俺の…元部下だ」
警察手帳から、顔写真を取り出して見せる。
「へぇ、結構イケメンじゃない」
翔太郎の肩越しに亜樹子が覗き込む。
「なるほど。こーいう顔立ちのことを<イケメン>と言うのか。憶えておこう」
その隣でもう一人の青年―――フィリップがうなづいていた。
「おまえら、背中に寄りかかるなっつーの!」
重たそうに呻く翔太郎だが、二人はそ知らぬ顔だ。
「で、いつから行方不明なわけ?」
「…半年だ」
ぐりぐりと肩をほぐしながら刃野が呟く。
「それはまた…ずいぶんと前からですね?」
仮にも刑事だ。自分なりに探しても見たのだろう。所々痛み、角の丸まった写真がその経緯をものがたっていた。
「警視庁からの出向できたヤツでな。最初はいけすかねえエリート野郎かと思ってたんだが、正義感の強い奴でな。まさに、刑事になるべく生まれてきたようなやつなんだよ」
目を細め、当時のことを述懐する刃野。
「だが、それが仇になったのかもな。ある時ヤツは、上層部の人間が、とある事件の加害者であることを突き止めちまった。当然、捕まえようとしたんだが、その直前でヤツは事件の担当からはずされ、事件そのものももみ消されちまった」
「…ま、よくある話だな」
「あってもらっちゃこまりますよ。警察なんですから」
ため息混じりに呟く翔太郎に亜樹子のツッコミが入る。刃野も「まぁ、そうなんだがな…」と苦笑した。
「それでアイツ、警察ってモンに失望しちまったんだろうな。何度となく俺と辞める辞めないで言い争ってよ。…で、ある日俺の机の上に辞表置いて、そのまま居なくなっちまったのさ」
事務所内に、重い空気が立ち込める。
「…すごい、刑事ドラマみたい」
その空気を読めず、フィリップがどこかズレた発言をした。
「それから連絡も取れねえ、探しても手がかり一つみつからねえときたもんだ。…で、半年たってようやくお前らっていう存在を思いついたわけだ」
「…遅ぇよ」
ま、それは冗談としてだ。と笑い、ふと真顔に戻る。
「頼めるか?」
「……この都<まち>は俺にとっちゃ庭みたいなもんだ。安心して待ってな、ジンさん」
いつもどおりの決め台詞を舌に乗せ、不敵な笑みを浮かべてみせる翔太郎。
「そーそー。私達が“ハーフボイルド”に解決してあげるからさ!」
「“ハードボイルド”だ!」
茶化す亜樹子に、翔太郎が声を張り上げて反論した。
-つづく-
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さて、まずは探偵事務所。
この依頼から、彼らも動き出すのです。
ハーフb…もとい、ハードボイルドにね。
ところで、翔太郎が劇中で読んでる「ザ・ロング・グッドバイ」が読みたくなった。
…最近読む時間とれないけどねー(トオイメ
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