「とりあえず…追い出されずには済んだよ」
戻ってきたリーダーは、部屋にわたしたちを集め…そう告げた。
「今まで通りの生活をしてほしいってさ」
「…随分と無茶を言うものだね、管理人殿は」
ノアルが腕組みをして大袈裟にため息をついた。
「まぁ、いきなり大将ともどもここを追い出されてもアテはないからのぉ…正直、助かったというべきじゃが」
「それは…まぁ」
オヤカタの呟きに、ビアンカも遠慮がちに相槌を打つ。
「とりあえず、それだけ」
まだフランからの用事があるからと、この場を解散させて、リーダーは階上へ向かった。
・
・
・
…なんとなく、後をつけてしまった。隠行の法で悟られてはいないからって、多分わたしは随分と酷いことをしているのだろう。
流石に管理人室には入らず、悪いとは思いつつ壁越しに耳をそば立ててしまう。
…そこで聞いたのは、ローナさんのことと、それからリーダー…デモンゲイザーのこと。
“ヒト”元に生み出されたデモン…デモンとなるべく生み出された人間。
ローナさんは、彼との戦いの中で邪眼の力を使い果たし…今回の悲劇のきっかけとなった。
けれどそれは、決して悪いことだけじゃない。
彼女との出会いが、そのデモンに人間としての魂を芽生えさせた…それがリーダー。
「ローナを殺したのはあなたじゃない。デモンよ」
管理人さんは言う。
「デモンを狩り続けなさい。あなたをこの地上へと、導いてくれた人のために…」
・
・
・
「…いつまでそこにいるつもりなのかしら?」
ふと響いた声が、自分に向けられたものだと気づいてハッとなる。いつの間にかリーダーは管理人室を出ていたらしい。
隠行の法は切れていない…リーダーですら気付かない気配遮断を見抜いた?驚きつつも、大人しく術を解き、彼女の前に姿を見せる。
「…盗み聞きとは、いい趣味ね」
──貴女よりはマシよ。
「どう言う意味?」
──デモンゲイザーは…うちのリーダーは貴女の道具じゃない。
「…!」
──貴女が何者で、誰に自分の力を示そうとしてるかなんて知らないし興味ない。けれど、その為にリーダーを利用するのはやめて。
「……」
──しかも、そのためにローナさんまで利用して…!
「…ちょっと待ってよ。どうしてローナのことがそこで出てくるの?」
──彼があの人のことを好きだったからに決まってるでしょうっ!!
「…っ!?」
どうやらこの女は気付いていなかったらしい。…まぁ、わたしだって気付いたのはつい昨夜のことだ。
考えてみればわかることだ。人としての意識が芽生え、初めて出会ったのはローナさんだったと聞いた。何も知らないまま、闇の中にいた彼を引き揚げたのは。彼を導き、時に助け、時に褒め、労い…
彼のたった数日の人生の中で、一番心を占めていたのは…紛れもなく彼女だったのだ。
──デモンを狩り続けることがローナさんのため?違うでしょう!貴女は自分の目的のために…誰かに力を示すためにデモンを狩りたい。そのためにデモンを狩ることができるデモンゲイザーを利用してるだけ!
「違…!」
言い訳をしようとする管理人の口が止まった。いや、自分が止めたのだ。
ひりつく手のひらが、わたしが彼女の頬を張ったのだと気付かせた。
「…なんと言おうと、彼はデモンを狩り続けるわ」
──ええ、そうね。何も知らないリーダーにとって、それは最後の生きる意味だもの。だけど…
カチリ、腰に帯びた刀を握る手が震える。
──これ以上リーダーを苦しめるなら…その首、叩き落とすから。
「……」
──たとえ貴女が、神様の類いだったとしても。
踵を返し、管理人室を後にする。
「…あなたも、そうなの?」
壊れるくらいの勢いで閉じられたの向こうで、管理人が何か聞いてきた気がした。
−つづく−
この考え方は、マイコの立場としてフランの(この時点での)言動を踏まえた際に思いついたものであり、解釈はそれぞれにあるものです。
まぁ、こののちに主人公と◯◯する(一応ネタバレ回避)するとは、初見プレイじゃ間違いなく思わないのはそうですが(ぇ
次回からは冒険再開予定…