「うーん…」
おや、どうした隊長殿?地図を前にうんうん唸って。
「やあノアル。次のデモンがいる所を調べてるんだけど…どうにもこのあたりの廃墟は粗方探し尽くしちゃったよなぁって」
ふむ…そうだねぇ。
「赤の旧市街でマルスを、奴隷墓場でクロノス…」
星樹のとばりでヘルメスを倒して…コメットも含めて討伐数は四体だ。まだいる…のだろうねぇ?
「うん。でも何処にいるのか…」
確か、奴隷墓場と星樹のとばりにはまだ探索してない箇所があったね。
「そうなんだけど、どっちも扉が塞がっててどうやったら開くのかわかんないし」
「…もうひとつ、探索できるところを知っているよ」
ふと、ぼくたちの会話に道具屋のレゼルムが割り込んできた。
「赤の旧市街の先で、炎に包まれていないエリアがあったのを覚えているかい?もともとデモンの影響下で燃え盛っていた街並みが、一角だけ燃えていないどころか水浸しだったろう?」
そういえば…
「その理由は単純明快。その近くに、別の力を持つデモンが潜んでいるからさ。赤の旧市街を支配していたのは、火を司るマルス。そのマルスの力が及ばないとなれば…」
なるほど水のデモンか。
「ご明察だよノアル君」
隊長、確かあの先には湖があったね。よもやその中に…。
「水の中にデモンがいるって?だとしてもどうやって行くのさ。泳ぐのだって限界はあるし、そもそも水の中じゃ戦えないよ?」
「ふっふっふ…そこでボクが造り上げた護符の出番というわけさ」
レゼルム曰く、その“海竜の護符”は、水中で自在に呼吸ができるという代物らしい。
「…まぁ今は手元にないんだけれどね」
だめじゃないか薬屋。
「あれ?護符って…もしかしてこれのこと?」
「え?」
隊長が懐からヨレヨレのお札を見せる。
「あぁ、これだよこれ…恥知らずの賞金稼ぎに盗まれちゃってねえ…ときに、これを持っていたやつはどうしたんだい?」
「多分だけど、土左衛門に…」
「!!!?」
・
・
・
レゼルムがとんでもなく取り乱し始めたので、隊長と二人で道具屋へと押し込む。ひとしきり呻いた後、深呼吸を一つしてぼくたちに向き直った。
「護符の件は仕方がない。天才、レゼルム・ランティールにも失敗はままあることさ…」
「でもその護符がないと水中探索はできないよね…」
レゼルムは少し考え込んだ後、「アテがないわけじゃない」と呟いた。
「“息吹のヴェール”という魔法具がある。これはさっきの護符なんかよりずっと強力なアイテムなんだが…作るのがとても難しくてねぇ」
でも…とぼくと隊長の顔を交互に見て、大きく頷いた。
「うん。君たちの力があればきっとこれを作れると思うよ」
本当かい?
「ああ。この道具には高い錬金技術もさることながら…なによりデモンの力が必要なのさ」
この世界には大きく分けて火・水・土・風の力が働いている。件のアイテムは、水の中で息ができるように、水を避けるための結界を、他の属性で作るというわけだ。いうは易しだが、行うは難しだ。
…理解できてるかね、隊長?
「ちょっと怪しい…」
「まぁ単純な話、君の持っているデモンの力をちょっと借りたいのさ」
つまり、火…マルス、土…クロノス、風…ヘルメスの力が必要ということだね。
もちろん断る理由はない。隊長も二つ返事で頷いた。
「じゃ、決まりだね。フフフ…久しぶりの魔法実験だ。心が躍るねぇ…♪」
−つづく−
まるっとクエストイベントだけで一本書いてしまった…
さすがに日数カウントするのもアレなので番外編扱いで。ノアルくん出番マシマシ。
次回からようやく青の旧市街入り。