道具屋・レゼルムにしこたま飲まされた翌朝。ラッキーは彼の足音と暑苦しい挨拶にたたき起こされた。
「おはよう!ふひひっ、今日も爽やかな朝だねえ!」
「…ああ、今しがた爽やかじゃなくなったがな」
「ふむん…言われて見ればこの部屋は、なんだか空気が悪いねぇ…ちゃんと喚起した方がいいよ」
誰のせいだよとツッコミたいが、昨夜の深酒のせいで頭が痛くて声が出せない。
「やれやれ、あれくらいの酒量でヘロヘロになっちゃうとは、デモンゲイザーもさほどでもないのかねぇ?ほら」
自分とは対照的にすっかり酒の抜けているようなレゼルムがラッキーに渡したのは、一粒の錠剤だった。
「その薬を飲みたまえ。五日酔いまでは対処可能だよ」
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おっかなびっくり飲んだ錠剤はあっさりとラッキーの身体から酒精を抜き取っていた。自称ながら、稀代の錬金術師というのは伊達ではないようである。
「さぁ、ついたよ」
準備ができたというレゼルムの案内で、地下スタジオの隣の部屋を開ける。
「なん…じゃあこりゃあ…?」
そこは魔法の機器が所狭しと並べられた不気味な部屋となっていた。
「ふっふっふ…まえまえからここを実験室として少しずつ改造していたのが、ようやく日の目を見そうだよ!」
「…ってことは昨夜ミュゼに許可を取る前から私物化してたんだな」
「…あ、これオフレコね」
焦りながらもレゼルムは、ここをメンテナンス室としてラッキーに貸し出すことを提案した。
「メンテナンス?」
「ああ。メンテとは調整の事。ここでは、君が連れているデモンの調整をすることができるのさ!」
レゼルム曰く、この部屋は件の魔導書の条件をほぼ満たしているのだという。
「あと、メンテナンスをするための魔法素材がいるんだけどね。心当たりはないかい?」
「それって…こいつのことか?」
ようやく例のローブ男の言葉がつながってきた。砕けたボイスクリスタルの破片を見せると、レゼルムはそれをひっつかんでしげしげと見つめ、ややあって大きく頷いた。
「うん、コレだね。こいつを使うことでデモンを調整できる。この魔導書によれば…目覚めたばかりのデモンは厳密には完全な存在とはいいがたいみたいでね。それをこの結晶の魔力と、デモンゲイザーの力で調整することで、力を引き出し、真のデモンに近づけるようにできるってわけさ」
「ふむ…」
「ま、物は試しさ。せっかくクリスタルを持ってるんだし、メンテナンスをしてみるといいよ」
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というわけで、ペガサスをメンテ室に呼び出し調整をしてみる。
「痛くしちゃ、やだよ?」
「いやまあ、痛くはないと思うが」
レゼルムが翻訳してくれたメンテナンスの手順書にしたがい、ペガサスを処置用のベッドに横たわらせる。
「ちょっと触るぞ…」
ボイスクリスタルの欠片…改め<メンテクリスタル>を握り、その中に自分の魔眼に宿る星力を移すようなイメージで意識を集中させる。
そして空いた方の手でペガサスの身体に触れていく。力を引き出すスポットのようなものに当たれば成功というわけだ。
「ひゃん!お、おにいちゃん…変なとこ触っちゃだめだよう…」
「人聞き悪い!」
ともあれ、ひときわペガサスの反応が大きかった場所に、意識を向ける。今度は、メンテクリスタルの魔力と星力を合わせたものを、デモンの身体に流していくイメージだ。
「んぅ…」
妙になまめかしい声色とともに、ペガサスの身体が熱を帯びて…
「ふわぁ…なんだか身体が軽くなった感じ!」
「そうなのか?」
「…たぶん?」
「おい」
傍から見た分にはわかりにくいが…一応メンテナンスは成功したようだ。
「おーい、ラッキー」
力を失って消滅していくメンテクリスタルを眺めていると、メンテナンス室の戸が開いた。
「カッスルか、どうした?」
「おう…って、なんだこの部屋?…まあいいや。支配人が探してたぜ。早いとこ行ってやりな」
伝えたからな。と言って、カッスルは武器を仕入れに出かけて行った。
-つづく-
というわけで、メンテナンスとデートパートの実装でございます。
今回のリプレイでは、1日を3パートにわけて展開していきますが、このデートを1パート消費するアクションに入れ込みます。
メンテナンスを入れるとちょっとややこしいことになりそうなのでこれは買い物や倉庫整理と同様に片手間扱いでどうかひとつ。
今回ペガサスがデート可能な状態にはなっていますが、ストーリーも進めないとなので、ちょっと後回しにします。