「いやー、笑いが止まらないわ。こんな大量の星力が得られるなんて」
支配人室にて、ミュゼは悪役もかくやな雰囲気でほくそ笑む。
禁域にてライブラを下し、ボイスクリスタルを破壊した(というか自壊しただけだが)ことで、周辺の住人の意識が変わったようだ。
「ええ、速報値ですが…リスナー数は過去最大!今までで最高の星力が集まりました!」
「過去最高!?すごい…」
ミュゼと同じくらい喜びを大いにあらわすトマの報告に、プリムも目を丸くした。
「これで、はっきりしたわね」
今までどれだけミュゼたちがラジオを通じてマグナスターの悪事を糾弾し、人々に語り掛けても暖簾に腕押しだったのは、ボイスクリスタルが原因だったのは間違いないだろう。
「よく、”心を奪われる”などといいますが…まさにその通りのことが、ボイスクリスタルによって引き起こされているわけですね。何かに心奪われた人は、魂から力を抜き取られ…崇拝の対象にあらがうことができなくなってしまうのです」
プロメスの説明によると、”星力”とはアステリア周辺に降り注ぐ土地固有の魔力のようなものだが、同時に生きとし生けるものがその身に宿している力でもあるという。
マグナスターは、人々を錬星炉に落とすほか、ボイスクリスタルを媒介に生きている住人からも星力を奪い、その力を以ってデモンを駆使し街の支配を着々と進めている。人々をこの呪縛から解放するためには、ボイスクリスタルの破壊は最優先事項ということだろう。
「これでこっち側の星力が高まれば…ラッキー、あなたのデモンゲイザーとしての力も強くなるわ」
ミュゼ曰く、革命団はラジオを媒介にしてリスナーから星力を少しずつ分けてもらっているとのこと。こちらも星力を集めることで、マグナスターに対抗するというわけだ。
「あれ…それって要はラジオを使ってマグナスターと同じようなことをしてるってことか?」
「人聞き悪いこと言うんじゃないわよ。あたしたちの場合はあくまで少しずつ借り受けるだけ。マグナスターみたいに搾り取るようなことはしないわ。まぁ、その分たくさん街の人の支持を集めないといけないんだけど」
とにかく、当面の革命団…というよりラッキーの行動指針は、禁域の探索とデモンの討滅及び魂の捕獲。ならびにボイスクリスタルの破壊による人々の解放だ。
「そうそう、すっかり忘れたけど…預かっていたデモンの魂、あなたに返すわね」
ミュゼがスタジオの外に声をかける。ややあって扉を開いて出てきたのは…
「はじめまして、デモンゲイザー。ライブラと申します」
ついさっきまで死闘を繰り広げていた、エルフのデモンであった。
「わーい!これからよろしくね、ライブラちゃん!」
ペガサスがライブラにとびつきじゃれる。
「この子の力を使って、どんどん革命を進めてちょうだい。期待してるわよ、デモンゲイザー!」
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「改めて自己紹介しますね。私はライブラ。前線での荒事にはあまり向きませんが、魔術の心得があります。後方支援はお任せください」
プリーツスカートのすそを軽くつまんで会釈する。
「ああ。オレもペガッソも回復魔法は使えるが、戦いながらはなかなか使えねーからな。頼りにしてるぜ、ライブラ」
「ペガッソ…?ペガサス、あなたそんな風に呼ばれてるの?」
「うん!」
「…いいなぁ」
「ん? なんか言ったかライブラ?」
「い、いえ!なんでも!そ、そんなことより私の実力を見ていただきたいですし、さっそく出かけるとしましょう!ええ!」
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アステリアの北東にに、竜の大樹と呼ばれる巨大な古木が存在する。
プロメス曰く、この地に降り注ぐ星力がこの樹に影響を与えたらしい。一応、害はないとのことだが。
次なる禁域はこの樹の洞の奥だ。
「竜樹の夢…と私たちは呼んでいます。なんでも、竜の大樹の夢の世界が反映されたものらしく…オルム街に比べるとかなり複雑で迷いやすいのでお気を付けください」
「随分詳しいんだな」
「…私、ホントはここの担当になりたかったんです。でもマグナスターの命で、あんなごみごみした路地裏に配備されて…」
よほど嫌だったのだろう、頬を膨らませながらライブラがぼやいた。
「この禁域には、植物や動物由来の魔物が多くいます。獣人ほど知性はありませんが、その分本能で暴れますので、油断なさりませんよう」
「おう」
「りょうかーい」
ラッキーの魔眼によると、サークルの気配は五つ。とはいえ具体的な場所まではわからないので、しらみつぶしに探し回るしかない。
「このあたりは、竜樹の後悔の念が具現化されているそうです。例えば…」
一歩歩いた先で振り返る。
「あ、あれ?さっきここ、なんにもなかったよね?」
ライブラ曰く、竜樹の後悔が心の壁として顕れ、このような一方通行の壁になっているのだという。
「どんな悪夢見てんだよ…」
とはいえ樹に悪態をついても仕方がない。一方通行は厄介だが、しっかりマッピングしておけば問題はないだろう。
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「おーっほっほっほっほっ!現れましたわね、反逆者ども!」
濃密な星力の気配を感じたと思った次の瞬間、耳をつんざく高笑いが樹海に谺する。
涼やかなワンピースを纏う、緑髪の…
「わっ、ドリルだ!お兄ちゃん、あれドリル!」
「うるっさいですわね!ドリルって言うんじゃありませんっ!」
「…緊張感ないですねぇ」
「オメーの高笑いも大概うるせえからな…っていうか、デモンだな?」
ラッキーの指摘に、デモンなる少女は大きくうなずいた。
「その通り。わたくしはカプリコーン…禁域を冒す者には死をもたらすのが、わたくしの使命ですの!」
手にした槍を振り回し、その切っ先をラッキーたちに向ける。その眼光もまた、槍の如く鋭く。
「我が孤高の槍に、貫けぬものはなし!さぁ、サビとなるがいい!!!」
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「相手はまだ真の姿じゃねえが、油断はしねえ!全員、トランスデモン!」
「りょうかーい!」
「承知しました!」
ラッキーの魔眼が、デモンたちの力を解き放つ。
「へぇ…面白い芸当を魅せますのね。相手にとって不足なし!」
「お互いな! くらえ…っ!」
振るわれた星砕く刃が、カプリコーンの槍とぶつかり合い、小さな超新星爆発を引き起こす。
「お兄ちゃん、さがって!」
手番を遅らせ力を蓄えたペガサスが、半人半馬となった強烈な突撃を放ち、決して大柄とは言えない敵デモンの身体を突き飛ばした。
「やるわね…でもっ!」
地を踏み込んでチャージを抑え込んだカプリコーンは、返す刃でペガサスを突く。
「あうっ!?」
「まだまだっ!」
怯んだペガサスの身体を踏み台に跳躍し、後衛で詠唱中のライブラを狙う。
「しまっ… ファイアボルト!」
「遅いッ!」
ギリギリで放たれた魔法攻撃をかすらせながら、振り下ろした槍の一撃がライブラの杖を弾き飛ばした。
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「ちぃっ…!思ったより、やりやがりますわね!」
苦戦しながらもどうにかカプリコーンを押し切る。
「この勝負…しばしお預けといたしましょう」
捨て台詞を残し、槍使いのデモンは姿を消すのだった。
「っは…やれやれ、何つー馬鹿力してやがんだあの女
…ライブラ、回復頼むわ」
「ええと…そ、それがその」
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「回復魔法を覚えてねえ!?どーいうこったよ。前にオレらと戦ったときちょいちょい使ってたじゃねーか!?」
「え、ええ…なので私も使えるつもりでいたんですが、いざ使おうとすると使い方が…」
ライブラの推測によると、魂を捕まえられ生まれ変わったことで、能力が初期値に戻ったのではないか、と言うことだった。
「そーいうことか…ま、ならしゃあねえ」
「すみません…」
「謝るこたねーよ。元に戻ったんならまた成長しなおしゃいい。もう一度、オレらを苦労させた強さを見せてくれ」
「は…はいっ!」
体力はともかくライブラの魔力が尽きたため、今回の探索はここまでとなった。
−つづく−
ライブラのクラスはセージ。ソードワールドでもお馴染み(?)賢者職というやつですね。
序盤で仲間になる割にはいいクラス…かと思いきや、悪く言うと凄まじい器用貧乏💧
5人目以降に強力なウィザードやヒーラーが仲間になるんで追々ベンチウォーマーになりがちな残念エルフなんですよね…(失礼