ラジオの放送が無事終わり、カッスルたちは昼食をとるべく1階に上がってきていた。
「本当は早いとこ効果を確認したいけど、どうしてもラグが出ちゃうからね」とはミュゼの弁である。
果たしてラジオ組が酒場にやってくると、先客がいた。
「あ、しはいにんだ」
「あれ、ペガサスひとりだけ?ラッキーは?」
「わかんない。プリムお姉ちゃんが連れていっちゃった」
二人で外に食事に出ているのかも知れない。と思ったミュゼはそれ以上の追求をやめて、トマに日替わりランチをオーダーした。
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「ところで、しはいにんってお兄ちゃんとおさななじみ?っていうのなんだよね」
「え?うん、そうよ」
「お兄ちゃんって、どんな子だったの?今、キオクソーシツってやつなんでしょう?」
ペガサスの純粋な興味に、ミュゼがふむと考え込み…「ま、いいか」と呟いた。
「いいわよ。教えたげる」
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「ラッキーはね…赤ん坊の頃、ミルダ叔母さんがここを孤児院にしたその日に捨てられていたんだって」
伝聞口調なのは、彼女はもまた当時物心付く前の話であるからだ。
「邪眼って忌み嫌われてる力でしょ?とはいえ、その全てを知ってる人なんて殆どいないんだけど…ともかく忌むべきものって意識が強いのよ」
ラッキーは、自身を産んだ実の両親にすら怖れられた挙げ句に、ステラ座に置き去りにされたのだ。
「ひどい…」
「ま、邪眼持ちにゃよくある話さ。オレの知人にもいたが、一族中から疎まれてたって言ってた」
カッスルがレモン水を呷りながら、憮然と呟いた。
「うん、まぁそれはステラ座で暮らすようになってからも変わらなくってね。あたしたちは気にしてはなかったんだけど、街の人たちはそうじゃなかった」
あるものは恐怖で後退り、あるものは好奇の視線であることないこと噂を膨らませ、またあるものはハッキリとした悪意を、まだ幼いラッキーに向けるのだった。
「まぁ、そう言うの全部ボッコボコにしてたんだけどね」
「ああ、その頃の話はオレも知ってるな。アステリアきっての悪童。見つかったが最後、邪眼のアンラッキー小僧…とかなんとか言われてたっけか」
「実際札付きのワルみたいな感じで、ミルダ叔母さんも手を焼いてたわ。でもある時…いつものように因縁をつけてきた奴らにケンカを売ったラッキーは、返り討ちに遭って…」
帰ってこないラッキーを探しに街に出たミルダが、虫の息のラッキーを見つけたのだという。
「今でも覚えてる。ラッキーはいくら呼んでも返事しないし、手当てしたミルダ叔母さんはずっと祈ってるし、プリムは体中の水が全部涙になっちゃうんじゃないかってくらい泣きじゃくってて…あ、あたしは泣いてないわよ?…ちょっとは泣いたと思うけど」
一週間ほど生死の境を彷徨っていたラッキーだったが、その後奇跡的な復活を遂げた。
「プリムとあたしで、二度と喧嘩しないって約束しなさいって詰め寄ってね。それこそ、うんって言うまで離さなかった。ただ、叔母さんはちょっと考え方が違ったみたいで…」
──あなたはもう、自分のために怒らないで。あなたを心配してくれる人がここにはいるんだから。
──でももし、怒りを外に出さなければいけない時があるのだとしたら…
──そのときは、あなたの家族のために怒りなさい。
ミルダにそう諭されてから、ラッキーはぱたりと喧嘩をしなくなったそうだ。
「…でね、“そのとき”のために、って翌日からミルダ叔母さんがラッキーに稽古をつけはじめたの。怒りに任せて力を振るうだけじゃなくて、守り方とか躱し方も学べって」
その特訓は想像を絶するものだったらしく、喧嘩に明け暮れていた時期よりボロボロになって、ベッドに倒れ込むこともしばしばあったようだ。
「前に、どんな特訓してたのか聞いたけど…ラッキーったら顔真っ青にして『思い出したくもねー』って」
クスッと笑いながら、ミュゼはデザートのクッキーに手を伸ばした。
「なるほどなぁ…あいつの戦闘センスの高さはそのミルダ叔母さんとやらの指導の賜物だったのか」
記憶を失ってもなお、体に染み付いた戦い方を禁域で目の当たりにしていたカッスルは感慨深げに息を吐く。
「それから、ラッキーは変わった…ううん、怒りを外に出さない分、元々持ってた優しさが現れるようになったのかもね。…まぁ口は悪いけど」
「うん、お兄ちゃん優しい!禁域歩いてる時も、ちょくちょくペガッソの方気にしてくれてるし!えっと…口はちょっと…だけど」
「へぇ…意外と紳士じゃねえか」
「カッスルさん、旦那様は元々紳士ですよ。…口は悪いですが」
「…口が悪いのは共通認識なのな」
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親を知らないラッキーにとって、ステラ座は家であり、ミュゼとプリム、そしてミルダは間違いなく家族であった。
「特にミルダ叔母さんは、ラッキーにとっては本当のお母さんみたいな存在で…だから、ミルダ叔母さんが居なくなってしばらくは、あたしたち以上
に塞ぎ込んでたっけ」
しかし、いつまでも落ち込んでいられないと自らを奮い立たせ、ミュゼとともに革命団の一員として戦うことを選んだのだった。
「…そこからは、みんなも知るラッキーよ。といっても、今は記憶を無くしちゃってるけどね」
「人に歴史あり、だな」
と、玄関のカウベルが鳴る。ペガサスたちが一斉に振り向くと、そこにはラッキーとプリムがいた。
「トマ、昼飯頼めるか…って、なんだよみんなしてオレのことジロジロと?」
「んーん!」
「なーんでも!」
怪訝げな表情を浮かべるラッキーに、ペガサスとミュゼが顔を見合わせて笑うのだった。
−つづく−
ちょっと本編ダラダラと書きそうになったので番外編で筆休み。
デモンゲイズ2では、この手のRPGとしては珍しくキャラメイクできるのが主人公一人のみなんですよね。
まぁ、「円卓の生徒」も似たようなモンですが。
せっかくなので(?)そんな主人公のキャラクターをちょっと掘り下げてみたのが今回の話。一応、即興の類じゃなくてちゃんと設定した上で書いてます。多少軌道修正するかもですがおおむねこんな感じのバックボーンですな。
キャラメイクにあたり、いわゆるアライメントを最初に決めるんですが、今回は「悪」をセレクト。ちょいガラ悪目なのはそーいうことです。ビジュアルは中立ですが(ぇ
まぁ邪眼持ちがどーいう扱われ方してるかってのをなぞれば、こんな感じに育つんじゃなかろうかなと。
あと、ミルダ叔母さんがラッキーの師匠という設定も本作独自です。公式じゃねーです。元々情報少ない人なんで味付けは容易ですなー。
さて、次回からはライブラを加えてのアタックを書ける…はず?