ライブラを倒したラッキーたちの耳に、明らかに名指しのラジオの臨時放送が流れ──
気がつくと、ステラ座のエントランスに戻ってきていた。…どこかで見てるんだろうか?
「ラッキーくん、おかえりなさい!」
と、そんなラッキーをプリムが出迎える。
「お疲れさま…よかった、無事に戻ってきてくれて」
明らかに安堵の表情を浮かべる少女の姿に、ラッキーの魔眼の奥で光が瞬く。
同じように自分を出迎え、泣きじゃくる小さな女の子…
心配なんてしていないと言いながら大粒の涙浮かべる姿に、目の前の少女の面影が重なって…
「…ラッキーくん?」
「あ、いや…」
「もしかして…何か思い出したの?」
「多分…」
「それって…!」
プリムが一歩前に出て聞き返そうとしたタイミングで、トマが現れた。ミュゼが痺れを切らせそうなので早く支配人室に来てほしいようだ。
「そ、そうだね…お姉ちゃんもあなたの帰りをずっと待ってたもんね」
戦果の報告をしなければならない。ラッキーはプリムとトマと別れて階段を上がるのだった。
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「お帰りなさい、ラッキー。期待どおりデモンの魂を捕まえてきてくれたみたいね」
さすが革命団のエース!と肩をばしばしと叩く。痛い。
「ふっふっふ…この目に狂いはなかったわね。さすがあたし」
「自分で言うのな」
ラッキーのツッコミにわざとらしく咳払いひとつ。
「とにかく!と言う訳だから、早速デモンの魂を渡してくれる?」
「渡すって…どうやって?」
「え、あなた覚えてないの…?まぁ、あの後すぐ倒れちゃったもんねぇ」
ほら、と手招きするミュゼに近づく。
「もうちょっと近く!」
「や、既に充分近くねーか…?」
お互いの吐息がかかりそうな距離まで。
「照れないでよ!…い、意識しちゃうじゃないの」
目を見て、と言われるままにミュゼの瞳を魔眼越しに見つめる。
「デモンゲイザー…その瞳で、あたしたちを未来へ導いて。革命の光をアステリアに!」
お互いの瞳の間に光が走る。次の瞬間、魔眼の中にいたライブラの魂が居なくなっていることに気づいた。
「ふぅ…何だか頭がくらくらするわね…」
「お疲れさん。しかし、なんでミュゼにこんな芸当ができんだろーな?」
「さ、さぁ?」
ミュゼ曰く、彼女は特段に高い魔力の持ち主で、特にこういった“力”の受け渡しや具現化を得手としている…らしい。
「そんなことより、禁域でなにか見つかったものは無い?」
やや露骨な話題転換である。あまり触れられたくないのかも知れないと感じて、ラッキーもそれに乗ることにした。
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「ふぅん、デモン空間に…うなる奇妙なクリスタルねぇ…」
自分で口にして、ふとミュゼが何かを思い出したようだった。
「ええっと、確か…」
本棚を引っ掻き回し、ややあって一冊のノートを引っ張り出す。
「ね、そのクリスタルってこんなのじゃない?」
「ああ、これだな。ってか、何でクリスタルのことがこんな古いノートに?」
「これね、ミルダ叔母さん…ウチの先代の支配人が残してくれたものなの」
その名前には少しだけ聞き覚えがあった。
「うん、あたしたちの育ての親よ。そして、実質的な革命団の創始者でもある」
このノートには、ミルダを中心とした当時の革命団が、マグナスターの悪事を調べ上げまとめたものが記されている。そのなかでも重要な部分が、件のクリスタルなのだという。
「ボイスクリスタル…っていうのか」
「ええ。この地方には、“スタリカ”って歌があって、歌い手次第で強い力を持つんだけど…このクリスタルは、そのスタリカの力を増幅させて、ある力を拡散させているの」
それは、魅了の力。
神話の時代、かの魔王がその力一つで地上を征服寸前まで追い込んだと言われる脅威の力だ。流石にそのものではないとはいえ、アステリアの人々は知らずこのクリスタルから奏でられる小さなスタリカを日常的に聴くことで、マグナスターの所業に気づくことなく日々を送っているのだ。
「禁域に秘密があるとは思っていたけど…まさかここでボイスクリスタルが出てくるなんてね。でも、デモンが倒されればボイスクリスタルは破壊できる!なら、今が革命の大チャンスね!」
言うが早いか、ミュゼは一気に階段を駆け降りていく。
「トマ、ラジオやるわよ!プリム、プロメスとカッスル呼んできて!!」
−つづく−
とりあえず当面の冒険の目的が明らかになる回。
しばらくはストーリーが進むのでどうやって端折るか考え中…