炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【#DG2】7日目(朝):わたくしを個室に連れてって

ラッキーの朝は存外早い。

ぱっと窓を開け、部屋の空気の入れ替えがてら外へ出て軽い柔軟と素振りを数百本ほどやるのが彼のモーニングルーティンである。
記憶はないのに滞りなく行う一連の流れは、プリムいわく記憶を失う前からの日課だったらしい。相変わらず身体だけが覚えていることばかりで少々戸惑うラッキーであったが、やらなければやらないでどうも座りが悪い感じがするので、そのまま継続はしている。

「…っは!」

そんなわけで禁域で拾った木刀をつかって素振りをしていたさなかに、事件は起こった。

「いい加減にしてくださいましッ!!!」

耳をつんざくヒステリックな大声と、ステラ座が揺れんばかりの大きな衝撃と音が轟く。

「っと…な、なんだ…?」

聞こえたあたりからして、2階…デモンたちの相部屋だろう。なにやら嫌な予感をおぼえながら、ラッキーはステラ座へと戻るのであった。

 

 ・

 ・

 ・

 

「いったい何の騒ぎだよ朝からよォ…」

相部屋に顔を出したラッキーが目の当たりにしたのは、ドリル天を…もとい、怒髪天を衝くリコカプリコーンの姿であった。

 

カプリコーン「わたくし、朝は優雅にお茶をいただきたいんですのよ」

 

「わたくし、朝は優雅にお茶をいただきたいんですのよ」
「…お、おう」

ギヌロっと睨みつけられながら、彼女なりのモーニングルーティンを語られる。

「それなのにそこのペガッソさんが掃除を始めて…埃が立つからやめるようにと言いましたのに一向に控える気配がないんですのよ!」
「えー、だって朝のお掃除は大事だよ?リコちゃんだって、お茶にするなら階下したの酒場でやればいいって、ペガッソ言ったよ?」

ラッキーの後ろに隠れて、ペガッソも自分の言い分をぶつける。

「いやですわよ面倒くさい。だからわざわざティーセットを持ち込んだというのに…」
「それわざわざ自分で持ち込んだのかよ…」

ちょっとしたお茶会が開けそうな規模である。

「ともかく!こんなことが続くようでしたら、わたくしステラ座には住めませんわよ!?」
「いや、住めないつったって他にアテあんのかよ…」
「それは…ないですけど」

彼女たちはデモンであり、この町の人間ではない。住民登録もされていない者に、部屋を貸すような奇特な人間はそうは居ないだろう。

「しゃーねぇなぁ…ミュゼの奴に相談してみるか」

 

 ・

 ・

 ・

 

「相部屋をどうにかしたい?」

ステラ座の面々ではおそらくプロメスに次いで朝遅い方のミュゼは、突如支配人室になだれ込んできたデモンたちとラッキーを見て寝ぼけ眼をパチクリさせた。

「まぁ、デモンを片っ端から捕まえて仲間にするのはいいけど、相部屋だってそんな広いわけじゃあねーしな」

部屋に置いてあるベッドの数を踏まえれば、寝泊りなどに支障はないが、彼女たちとて自我の確立された存在である。お互いに干渉されたくない領域はあるのだ。

「そうか…わたしたちは自分の部屋があるからいいけど、デモンのみんなは相部屋なんだよね。同じ革命団の仲間なのに、ちょっと不公平かも」

ミュゼを起こしに来ていたプリムが頷いて、進言する。

「お姉ちゃん、2階って確かいくつか個室あったよね?」
「ええ…もう随分前から空き部屋だけど…使えるかしら?」
「うん、お掃除すればいつでも使えると思うよ?」

ふむ…とミュゼが考え込むそぶりをして、やがてよし!と手を叩いた。

「だったらあなたたちデモンに、2階の空き部屋を貸してあげる!」

支配人の言葉に、両手を上げてペガサスたちが喜ぶ。

「た・だ・し…」

が、それだけでは終わらないのもミュゼなのだ。

「部屋の掃除に寝具の入れ替え…何かと物入りになるのよねぇ…というわけでラッキー、デモンに個室貸すなら経費を払って頂戴ね♪」
「うえ!?金取んのかよ…おなじ革命団だぞ?」
「親しき仲にも礼儀アリってやつよ。まぁ、払うのは初回だけだしそこまで高くしないから安心なさいな」

と言いつつミュゼが弾いていくソロバンの内容は、禁域の探索1回分以上の稼ぎが平気で吹っ飛んでいきかねない額だが。

 

ミュゼ「別に毎日家賃取ろうってわけじゃないんだから大騒ぎしないでよ…」

 

「別に毎日家賃を取ろうってわけじゃないんだから大騒ぎしないでよ…」
「どこの魔窟だよ、毎日家賃払うとこってよー…」

そのぼやきの前後で、地下室からくしゃみが二つ聞こえたとか聞こえないとか。

「部屋数に限りはあるけど、ばんばん借りてちょーだい。その方がウチの経営的にも助かるし!」
「本音出てんぞミュゼェ…」

 

 ・

 ・

 ・

 

とりあえずお試しということで一部屋は無料で貸してくれることとなり、代わりにとデモンたちが部屋の掃除を手伝う。
古くなった家具や寝具を取り払い、大星堂の近くでやっているノミの市で買ったものと入れ替えると、埃っぽかった一室もそれなりに見られるようになった。

「やったー!じゃあ、ここはペガッソのおへやね!」
「お待ちなさいこの!」

しれっと自室宣言したペガサスの襟首を、カプリコーンがむんずと掴む。

「最初に個室を要求したのはわたくしですわよ!?個室一番乗りはわたくしにきまっているでしょう?」
「そんなことないもん!いちばんおそうじがんばったペガッソが最初だってお兄ちゃんが」
「いや言ってねえよ!?」

ラッキーを挟んでカンカンガクガクの2人に業を煮やし、両者の頭を軽くチョップして黙らせる。

「いたっ」
「あうっ」
「あーもー、喧嘩すんなお前ら!追々全員分借りるんだからいいだろーが」

でも…と唇を尖らせる二人に、それじゃあ…と興味なさそうに読書していたイブライブラを呼び出す。

「ここは公平に…じゃんけんで勝負しろ」

 

 ・

 ・

 ・

 

ライブラ「ふふふっ…なんかごめんなさいね?」

 

「ふふふっ…なんかごめんなさいね?まぁでも、私も騒がしいのは苦手なので助かりますが」
ぐぬぬ…っ」
「あーあ、ざんねんだなぁ」

無欲の勝利…というべきか、最初の個室持ちになったのはイブであった。早速禁域で拾っていた百年樹のシェリフを持ち込んで本棚にしていく。

「こうなったら…デモンゲイザー!はやく禁域に行きますわよ!わたくしが入る部屋代を稼いでくださいまし!」

「あ、ずるい!ペガッソのおへやもだよー!」

「わ、ちょっ、こらまて引き摺るな!」

その後丸一日かけて、二人分の部屋代稼ぎに駆り出され、有り金全部賃料に持って行かれたのは言うまでもない。

 

 

   -つづく-

 

 


今回はシステム面がらみの二次創作。相部屋の他に、別途部屋代を払うことで個室を借りることができ、そこにデモンを入居させておくと色々恩恵があるよ…というお話。

前作と同様に家具によるステータスアップや、本来はメンテナンスをすることで上昇する好感度も個室にいるデモンは戦闘に参加するごとにわずかではあるが上がっていく。メンテクリスタルは希少なのでこの効果は存外侮れないんですよ。

今回のエピソードではライブラが一番乗りでしたが、6日目終了時点で資金に余裕があったので残り2人分の個室も確保。レベル上げがてらイブとリコの好感度も上げていくよーと。

 

8日目は朝パートでレオ戦予定。そこから色々動きますわよ!