朝からいろいろあったが、とりあえず起きてきた他の連中と合流して、竜王の塔の前へと向かう。
出入り口にあたるクリスタルの前に着くと、その輝きが異様に増した。どうやら女王に授けられた第1の秘宝・ミョルニルの力に反応しているらしい。
「新しい界層に行けるみてーだな」
キリクの呟きに頷いて、その輝きに向かって歩き出す。輝きが視界を奪い、次の瞬間、デミヘイムとは違った様相の空間へと到着していた。
「こーこーはー、ビスヘイムー。今はー、魔王フェンリルが支配するー、魔獣のー、すみかー」
…相変わらずの間延びした口調でウールが説明する。妖精の国出身は伊達じゃなく、地理にもそれなりに詳しいようだ。
「聖騎士さまのーうけうりだけどねー。さーすーがーにー、中身まではー、わかんないーけどー」
「そこまで求めちゃいねえよ。ま、地図の虫もいることだし問題はねーだr…あれ?」
さっきまで帽子に乗っかっていたはずの虫の姿が見当たらない。魔物にでも食われただろうか?
「えーっ、それじゃ地図どうすんだよ?」
「最初みてーに自力で書くしかねえだろ。よし…じゃあ今回はディーネが書いてみな?」
新しい羊皮紙を投げよこす。これもいずれこの世界からおさらばする俺の仕事の引継ぎという奴だ。キリクに教えてもいいが、こういうのは前衛より後衛に振った方がいいだろう。
「ふふっ、いちどやってみたかったのよね~♪ ええと、壁に左手、もしくは右手を当てて、進むんだっけ~?」
「おう、よく覚えてるじゃあねえか」
勇んで地図を書き出したディーネだったが、十数分後にはあたりをキョロキョロしながら途方に暮れていた。
「…行き止まりしかないんだけど〜?」
なんならちょっと涙目である。いやもとがスライムゆえか常に目潤んでるやつだから区別がつかんが。
「行き止まりじゃどうやって魔王のトコいくんだよ…どうなってんだ?」
キリクが憮然として金棒で壁を叩く。…ん?
「どうした、アノン?」
「いや…キリク、ちょっとこっちの壁叩いてみてくれ」
「?…おう」
ゴンゴン
「次、この壁」
ガンガン
「あ、音が違う」
気づいたナナシがぽんと手を叩いた。その後も何度か壁を叩いてもらうと、だいぶ法則性っぽいものが掴めてきた。
「よし…じゃあキリク、この壁を思いっきりぶん殴れ」
「アンタ鬼使い荒いな…まあいいけど」
オレが指し示した壁の前に立ち、キリクが金棒を大きく振りかぶった。
「おりゃあぁっ!!!」
鋼鉄の一撃が壁を揺らすと、飛び散った破片の向こうで新たな扉が出現した。
「おお!こいつぁ…」
「なるほど、この界層は多分こんな感じで扉が隠されてんだな。オレらにはミョルニルの加護があるからこうやって壁を叩けば…」
「扉が出てくんだな!よーし、そうとなったら片っ端から壁ぶっ叩いてやんぜ!」
言うが早いか、キリクがものすごい勢いで走り抜け、壁を金棒でガンガン殴っていった。
「あの脳筋…」
「と、とりあえず追うでござるよ!」
・
・
・
「あはははっ!楽しいなこれ!」
何やら変なスイッチの入ったキリクが文字通り嬉々として壁を殴り散らかす。追いかけていく俺たちの視界の端で、崩れた壁から次々と扉が現れていた。
「しかし、これだけ派手に暴れて魔物に気付かれないわけがないと思うでござるが…ちいとも出くわさないでござるな?」
「ビスヘイムのー魔物はー、ナワバリ意識がーつよいーからー?」
「ナワバリにさえ入り込まなきゃっつーわけか?」
理由がアレだが、現状で魔物に遭遇することはできれば避けたいし、今はその恩恵に預かるとしよう。
「おいこらキリク!止まれ──」
「お、宝箱」
「うわぁ急に止まんな!」
慌てて止まったものの勢いが止まらず、盛大にひっくり返る。キリクお前なぁ…
「…あれ?」
キリクが宝箱を開けると、果たして中から出てきたのは地図の虫だった。
「なんだお前、そんなとこに隠れてたのか?」
「いや流石にそれはねーだろ…デミヘイムのとは別の虫じゃね?」
地図の虫は小さく鳴き声をあげて、ディーネの頭に止まる。
「ふふっ。可愛らしいわねぇ〜…って、ちょっと待って〜…ということは〜…」
羊皮紙を広げると、キリクを追って走り回った軌跡がバッチリ地図になって記されていて。
「あ〜ん、頑張って書こうと思ってたのにぃ〜…」
がっくりと肩を落とすディーネであった。
-つづく-
というわけで第二界層・ビスヘイムへ。魔獣…旧シリーズでいうとこの種族:生物カテゴリが主な敵の模様。
今回もデミヘイムよろしく虫の確保に時間がかかると踏んで手書き(Excelだけどね)をしようとしたんですよ。ある程度シンボルエンカウント潰してから…と歩き回ってたら急に虫出てくんだもん…笑うしかないw
まぁ、早めに地図を開示しないと攻略に支障をきたすパターンなのかも?慎重に行きましょう、ええ。