「ごーめーいーわーくーをー、おーかーけーしーまーしーたー」
一夜明けて、すっかり元気を取り戻したウールが深々と頭を下げた」
「気にしないで〜、ウールちゃあん。元カレが闇落ちしてたら〜、取り乱しもするわよねぇ〜?」
「ふぁ!? ち、ちーがーうーよー! わたしとジークさまはー、そんなんじゃー…」
クスクス笑うディーネに、慌てたウールがぽかぽかと抗議。よくわからんが妙に和む光景だ。
「ま、なんにせよ復活してくれて良かったぜ。なぁアノン?」
「なんでオレに振んだよ」
「だーって、あんたがどうにかしてくれたんだろ?チュッケのおっちゃんから聞いたぜ?」
あの豚親父いらんことを…
「な、な、あの状態からどーやってウールのこと元気にしたんだ?教えろよ〜♪」
「大した事ァしてねーよ…おにぎり作って食わせたぐらいだ」
「おにぎり?なんだお前飯作れんの?今度食わせろよ〜」
なんなんだ今日のキリクはウザ絡みが過ぎんぞ…
「…むぅ」
「どしたの〜ウールちゃん?」
「…なーにーもー」
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ビスヘイムに入り、昨日ジークと遭遇したエリアまで到着した。
「さて、今日はどうすんだ?」
「この界層全域の探索だな」
魔物退治と武器探しは一旦後回しにして、地図を埋めることを優先する。地図の虫は既にいるから、歩き回るだけで地図は書き込まれていくのだ。
「隠し扉探しはあたしに任せろー!」
「壁ドンしてーだけだろそれ…」
追いかけてくる荒くれ魔物との戦いは避けきれずにこなしつつ、ぐるっと一周回る形でビスヘイムを巡る。
「あ、ここって〜」
「うむ、入口近くにあった開かなかった扉でござるな」
カンヌキを抜き取って扉を解放する。これで概ね地図は埋めることができたわけだ。
「そういや、魔王とは結局カチ合わなかったな」
「魔王の寝ぐらっぽいとこはあったけど…いなかった」
「まぁ無対策でいきなり魔王に遭遇しても全滅がオチだろ。死にはしねーけど」
前の界層でもそうだったが、魔王にたどり着くためにはいくかの段階を経る必要があるようだ。あっちではボスモンスターを倒して鍵を手に入れたことでそれを成すことができたが…
「まー実際、鍵かかってる扉あったもんな。だったらボスモンスター探してみるか」
キリクいわく、それらしいモンスターの気配を感じていたらしい。その辺りの嗅覚はさすが戦士ってとこか。
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「なるほど、ここか」
近くに立っていた看板には、フェンリルの狩り場だという案内があった。魔王が狩りに使うのならそれなりに強い魔物である可能性は高いだろう。
「いたぜ、あいつだ…!」
息を押し殺したキリクが顎でしゃくる先には、一回り大きなカラスの化け物がゆうゆうと食事の真っ最中であった。
「よし、じゃあちょいと仕掛けてみるか。一番槍は任せたぜ、イヅナ!」
「合点承知!!」
不意をつくのは狩りのセオリーだ。こういうときは初動の早いサムライが適任と言えるだろう。
「はっ!」
食事中に飛び込んできた闖入者に、巨大ガラスが泡を食って羽ばたく。二刀が閃き、翼とかち合った刹那に鈍い金属音が走った。
「む…硬い羽でござるな!」
「なら…隙間を狙う!」
霧に紛れてカラスの背後を取ったナナシが手裏剣を放つ。肉に食い込む音が聞こえたが、カラスの羽ばたきは微塵も乱れない。
「だったら、羽の上からまるごと衝撃を叩き込めば…ッ!」
次いでキリクが飛び上がり、金棒のフルスイングをカラスに見舞う。どう聞いても生き物を叩いてなるものじゃない類の音が響き渡った。
「いってぇ…なんつー頑丈なからだしてんだあのバカラス!?」
金棒からの衝撃をダイレクトに浴びて痺れた手を振りながらキリクがぼやく。その間に、今度はこちらのターンだとばかりに大カラスが襲いかかってきた。前衛組が揃ってダメージを受けるが、回復魔法でフォローできるなら安い。
「物理がだめなら〜魔法はど〜お〜?」
「ディーネ、やつは雷の魔力を纏ってやがる。岩の魔法で攻めろ!」
「は〜い、かしこま〜!」
練られた魔力が岩塊となって降り注ぐ。が、カラスは苦もなくそれを翼で払い除けてしまった。
「え〜嘘でしょ〜??」
続いてオレも銃撃を試みるが、それすらも翼に阻まれ受け流される。
「こいつは長期戦になりそうだな。全員、腹ァくく…」
銃を握り直して今一度攻撃を繰り出そうとした瞬間、カラスは翼を大きくはためかせ──
「えっ」
「あっ」
「…にっ」
──逃げたぁっ!!?
突風をこちらによこし、自らは一気に遠ざかっていく。
「んにゃろめ、いきなり逃げるたぁいい度胸してんじゃあねーか!」
金棒を背負い、キリクが一歩踏み出してからこちらを振り返る。
「追っかけんぞ、いいなアノン!?」
「いいも悪いも追っかける気満々じゃあねーか…」
とはいえ現状、次に繋がるであろう唯一の手がかりではある。逃がすよりはぶっちめたほうがいいのは事実だ。
「見失うんじゃあねえぞ、キリク!
「おうともよ!」
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…と簡単に指示をしたはいいがここからが大変だった。
「だーっ!あんにゃろ柵飛び越しやがった!」
「そりゃまトリだからな…」
まず追いかけるにも一筋縄ではいかない。
「地図上だと…こっちでござるな。迂回して追いかけようぞ!」
「あぁっ、イヅナちゃぁん!前、まえっ!」
追いかけることを意識しすぎて徘徊する魔物と事故ったり、進路上どうしても戦い自体が避けられなかったりと、ここへきて魔物をスルーしてきたことが大きく仇になってしまった…
「はーっ、はーっ…ようやっと追い詰めたぜこのクソカラス…!」
数度の戦闘を挟みつつ、界層内を大きく半周はするハメになり全員が満身創痍だ。オレたちと扉に挟まれて身動きできない化けガラスは威嚇するように嘴を鳴らす。ただの化け物ゆえに扉を開け閉めできる知性を持ち合わせていなかったのは正直助かったな。
「正直さっさとぶっ飛ばしてーとこだけどよ…どーする、アノン?」
キリクがオレに問いかけてきたのは、いつぞやの二の轍を踏まない為か。こいつも成長してんのかね。
「状況としてはボスゴブリン相手にしたときに近いが…ここは攻め時だ」
一度塔から脱出して再び突入すると、どれだけ魔物どもを蹴散らしていても再びピンピンした状態で復活している。恐らくはこのカラスもそうだろう。つまり、同じ追っかけっこをもう一度する羽目になりかねない。
「確かに迷宮一周弾丸ツアーを二度もやるのは御免被りたいでござるな…ウールどの、回復を!」
「おーまーかーせー」
とはいえウールやディーネの魔力も、オレたちの精神力も底をつきかけている。回復用のアイテムも少々心許ない。やってやれないことはないが、苦戦は必至だろう。
「全員、今度こそ腹ァくくれよ!」
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・
・
「こいつで…ぶっ倒れろやぁっ!!!」
キリクの渾身のフルスイングがカラスの脳を揺さぶり、意識が薄れた刹那にイヅナとナナシが飛びかかる。
「──疾ッ!」
幾合と交わした剣戟の果てに、羽と肉の隙間を見出した両者の刃が深々と食い込み…ついに巨鳥は倒れ伏すのであった。
「うひー、やーっとこ倒れやがったぜこん畜生…あーもーだめ、一歩も動く気がしねえ!」
「気を抜いてんじゃあねーよ…仮にも魔物の巣窟だぞ?」
とキリクを嗜めてはみるが、オレ自身もかなり疲労困憊だ。できればとっとと警戒を解きたい…というか帰りたい。
「あら〜…?アノンちゃん、あれ何かしら〜?」
宝箱を開けていたディーネがオレを手招きする。化けカラスの倒れた後に、赤黒い塊が転がっているのを見つけた。
「魔物の死骸…にしては小さすぎるわよねぇ〜?」
内臓の一部だろうか?それにしても奇妙ではある。竜王の塔に生息する魔物どもは倒されると文字通り霧散して、基本的に死骸は残らない。最初こそ面食らったが、そういうものだと割りきってきたものだから逆に一部とはいえ肉片が残るのは違和感極まりない。
「鳥の肝の肉…のようにも見えるでござるな。それがしの故郷では、よく甘辛く煮て喰うでござる」
うまいでござるよ〜、とイヅナが思い起こしたのか腹を鳴らす。同じ鳥とはいえ魔物の肝が美味いかはわからんが、せっかく残ってるんなら喰えないもんじゃあ無いのかもしれない。
「じゃあ持って帰って、チュッケのおっちゃんに料理してもらおーぜ。あたしも腹減っちまったよー」
腹が減ったのは同感だ。戦闘後処理も終わったところで全員を集めて帰還魔法を帯びた水晶を起動する。
「…うん?
ふと、背後から異様な気配を感じた。さっきまで戦ってきた魔物とは明らかに質の違う殺気は、十中八九魔王のそれだろう。今襲われたら流石にひとたまりもないが、既に帰還魔法は発動している。悪いがそのままトンズラさせてもらうとしよう。
「…どした、アノン?」
「なんでもねえよ。鳥の肝でチュッケの旦那に何作ってもらうか考えてただけさ」
「なんでぇ、食い意地はってんなぁ」
「お前にゃ言われたくねー」
燐光に包まれた視界は、やがて塔から妖精の街へとその光景を変えていった。
ーつづくー
さて重要なボスモンスターの撃破に成功。まさか初回で戦闘打ち切って逃げ出すとは思わんかった…
これだから完全初見プレイは面白いw
最終的には8ターンで撃破完了。毒食らわせてくるのに対策尽きて焦りながら戦いましたとさ💧
ところで今回のエピソード、執筆開始が11月12日だったんですよね…放置しすぎもいいとこである。
ビスヘイム編が終わらないと他のゲームのリプレイもままならんのよ…がんばろ。