「しばらくは武器の強化を優先すべきだな」
「強化ったってどうやんだよ…鍛冶屋に頼んで鍛え直すとかか?」
残念ながら勇者ギルドにそう言う施設はない。
「簡単に言えば、同じ装備を使い続けるってことだ」
武器を持ち替えて改めて実感したが、同じ装備で戦闘を繰り返すことで武器が手に身体に馴染み、敵に与えるダメージが少しずつだが変わってくるのだ。ここ最近のビスヘイム探索での戦利品を踏まえると、おそらくだが今の手持ちを超える武器が手に入る可能性はかなり低いだろう。
「そう言われりゃそーだな…いまあたしが使ってんのも、チュッケのおっちゃんにもらったレアもんだし」
「とはいえ、限界はあるのでござろう?今それがしが持つ刀は、もう長らく使っているがこれ以上使い熟せる気がしないでござるよ」
まぁ際限なく強くなるなら宝箱も要らんからな。武器ごとに引き出せる力の限界があるのは間違いないだろう。
「ただ、それ以外の武器はオレの見立て通りならまだ強くなる余地はあると思う。威力が増せばその分ザコ散らしには役立つし、アホみてーに仲間を呼んでくるフェンリルへの対策にもなるはずだ」
「技能抜きですぐ倒せるなら、精神力の温存にもつながる…」
そういうことだ。
「ちょっと悠長にしすぎじゃあねーか?あたしらがそこでモタモタしてる間に、他の勇者隊に先越されたら…」
「そん時ゃそん時だ。まぁ、他の勇者隊だって条件は同じだろうし、そうそう追い越されはしないんじゃあねえの?」
実際、オレたちには他の隊には無い、“魔王を倒したことがある”という実績…経験を持ち合わせている。フレイとフェンリルの強さは比べるべくも無いが、同じ魔王に変わりはない。そういう“ハク”はあるとないじゃあ大きな違いになる…と、思う。
「事を急いて、魔王に返り討ち喰らうのも御免だしな」
オレがそう言うと、キリクも不承不承ながらうなづくのだった。
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「ん飽ぁぁきぃぃぃぃたぁぁぁぁぁぁっ!!!」
おおよそ一週間ほど経ったあたりで、ついにキリクが根を上げた。
「いくらなんでものんびりしすぎだバカアノン!これ以上フェンリルの野郎をほっといたらホントに他の勇者隊に獲られっちまうぞ!?」
別にそれは構わんっちゃあ構わんのだがな。他の勇者隊がオレたちが入手したミョルニルの力を使えてるように、逆に他の勇者隊がフェンリルを倒して秘宝をゲットしてもそれはオレたちの糧にはなるはずだし。
「そー言う問題じゃあねえんだよ!勇者は魔王を倒すモンだって相場が決まってんだろーが。だったらアタシが倒さねえと意味がないんだよ!」
…さいですか。
「わーったよ…じゃあ明日だ。明日、フェンリルに挑む」
「なんで今日じゃあねえんだよ?」
「元々の目標が、今日あたりで達成できそうだからだよ」
首を傾げるキリク。…忘れてやがんなオメー。
「私たちの武器を、使い熟して強くする…ための?」
代わりにナナシが答える。よしよし、よく覚えてたな。
「…えへへ、褒められた」
まだ伸び代がある武器もあるが、概ね限界まで武器もこなれてきた。ついでにオレらの今使える技能もな。改めてオレたちの戦い方を見直した上で、勝ち筋もうっすら見えてきた。少なくともこの間みたいにあっさりやられることにはならんだろう。
「まぁ、魔王に挑む時は基本万全の状態で行くわけでござるからな」
前回は精神力ほぼ尽きてたからな。まぁ探索がてらになるからそのへんは仕方ねえ。
「魔王を倒したきゃ、全力で備えろ。英雄譚ってのは華々しいところしか見せねえが、結局は勝ちに行くための準備の結実だ。お前の親父殿だって、勇者と呼ばれたからには強くなるための努力は怠らなかったはずだぜ?」
それを娘の前で見せてたかまでは知らんが。
「…そうだな。確実に勝つなら、化けガラスどもに遅れを取ってる場合じゃあねーか!」
金棒を担ぎ上げ、「おら、さっさと塔に行くぞ!」と踵を返す。やれやれ。世話の焼けるヤツだ…
「たのしそうーだねー?」
ふと、ウールが呟くように言って。
「…楽しそうに見えるか?」
「んー、わりとー?」
そんな面してるか…?と顔を捏ねるオレを、羊人の少女はころころと笑って見ていた。
−つづく−
というわけで、8日分(8回分)のプレイをダイジェストで(ぇ
ここらへんはほんと作業感あるので…過去作みたいにランダムエンカウントがないから1回のアタックでの戦闘=経験値獲得タイミングが限られるし…
エクスペリエンス作品では、さまざまな手段で装備を強化することができるんですが、大体において対価(単にお金だったり、装備のエネルギー?だったり)を払えば即座に強化ができます。
が、本作においては「当該装備を装備し続けて、戦闘をこなす」という一風変わったもの。端的に言えば、装備も戦闘ごとに経験値を得てレベルアップをする、と言う感じ。強化する方法が原則として戦闘以外にないので、結果的にこうなっちゃうんですよね。
まぁ一戦一戦がなかなかにヘビーなので、戦闘コレくらいでいいやってなるのも事実ですがw
気を抜いたらすぐ落ちる…お前のことやぞイヅナァ!
武器の強化は、各々に設定されているランクが限界値なんですが、武器によっては地味に高いやつがあって、現行だとナナシが装備してる“雷の精のシュリケン”が13とかキリクに持たせてるエルフェンブレードが18とか。ここまでいくと上限まで上げるのも一苦労…というか、結局24日目終了時点で上げ切ってないし。
まぁ数値的にはだいぶ強くなってるのと、23日目くらいで戦闘パターン見直そうと思って軽く再戦したときに、結構いけそうな気がした(けど全滅はした)ので、キリよく(?)25日目でキメようかなってことで。
というわけで、次回ビスヘイム篇クライマックス!
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