炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

Happy birthday,dear Iori.

日付変わったばっかりですけどー。
5月5日ってことで、伊織の誕生日記念SS…おっ届けだいっ!





 5月を向かえ、いわゆる長期連休という行事に、多くの人が思い思いの休日を過ごす中。
 僕…穂村廉太郎はというと―――

「…分かってくれよ、アイドルにGWなんか無いってコトは、今更だけど良く分かってるだろう?」
 連休そっちのけでアイドルのプロデュースという仕事に奔走しているわけで。
 この時期はGW特集とかなんとかでアイドルも引っ張りだこだ。トップアイドルと呼ばれるようになった、僕のプロデュースする水瀬伊織も、例外にもれずである。
「分かってるわよっ、それくらい」
 あんまり分かってくれてるとは思いづらい口調で、伊織がボヤいた。

「でも、なにも今日って日に仕事入れなくてもいいじゃない……」

 僕にだけ聞えるように小さく呟く。うう、耳が痛いなぁ…


 5月5日。
 世間一般的に「こどもの日」で通っている今日この日は、伊織の誕生日でもある。
 彼女自身、アイドルになって始めての誕生日だ。パーティとか、やりたいこともあったんだろう。
「なるべく早めに終われるようにはするから、機嫌直してよ伊織…」
「そーいう問題じゃないのっ!」
 プロ意識は高いんだけど、そこはまだ14歳。遊びたい盛り…って言うと「子ども扱いしないでっ!」って怒鳴られるんだけどね。
 ともかく、ウチのお姫様は依然ご機嫌ナナメのようだ。
「『C@NDY☆』さ~ん、そろそろスタンバイお願いしまーす!」
「あ、は~い♪」
 スタッフの声に、一瞬でアイドルの仮面を被り笑顔を振りまく。…改めて、やっぱこの娘プロだわ。
「じゃ、行ってくるわね、プロデューサー」
 …でも、言葉の端々にトゲが入ってる気がするのはきっと気のせいじゃないと思う。


「お疲れ様、伊織」
「ホントに疲れたわよ、まったくもぉ…」
 やれやれ、まだおかんむりだな。まぁ、無理も無いけど。
 結局スケジュールが押してしまい、随分と遅くなってしまった。
 それ自体はいつものことなんだけど。今日は特別な日ってこともあるしね。
「社長への報告、終わったんでしょ? じゃ、私帰るわね」
「あーっと、ちょっと待って」
 とっとと帰ろうとする伊織を呼び止めて、僕は奥に引っ込んで小さな箱を持ち出す。
「?」
 怪訝な表情を向ける伊織。僕はちょっと大げさに両手で箱を差し出した。

「誕生日、おめでとう」

 僕がそういった途端、伊織の大きな目がまん丸に見開かれる。
「知ってたの?私の誕生日…」
 あのねぇ…
「仮にも君の担当プロデューサーだよ僕は…。だから、本当はスケジュール調整してでも今日をオフにしてあげたかったんだけど…ごめん、僕が不甲斐ないばっかりに…」
「…いいわよ、もう」
 頭を下げる僕に、伊織はそう言った。
「どうせ休みでも、パパや兄さんは忙しくて、私の誕生日なんて忘れてるだろうし。…あんたに祝ってもらっただけでも、その…嬉しい…から」
 こころなしか、頬が桜色に染まっているようにも見えるのは、僕のうぬぼれだろうか。
「ね、開けてみてもいい?」
「どうぞどうぞ」
 細い指が包みを解き、箱を開く。
「…わぁ」
 細いチェーンに、深緑色の鉱石が填め込まれたヘッドが取り付けられている。
 波状の紋様が不思議な印象を与えるそれは、伊織の瞳に映り、神秘的な輝きを放つ。
マラカイト。和名だと…孔雀石だね。悪意とか嫉妬とかから身を守るパワーストーンなんだって。そして、5月5日の誕生石」
 伊織はじっとマラカイトを見つめる。
「石言葉は…たしか『護身』だったかな? お守り、ってことで。…宝石じゃなくって鉱物だから、安物で申し訳ないけどさ」
「そ、そんなことない!…わよ
 語尾がかすれてよく聞えなかったけど、喜んでもらえてるのは確かなようだ。
「…でも、やっぱり足りない」
「え?」
「お守り。これだけじゃ、足りないわよ」
 うーん。やっぱり、不足だったかなぁ…
「あんたも…。あんたも、一緒に…私のこと、守ってよ」
「伊織…」
 上目遣いに見上げる瞳が、心なしか潤んで見える。
「そ、それよりっ!」
 と、伊織が箱から取り出したペンダントを僕の前に突き出した。
「着けてくれない?」
「あ、あぁ…うん」
 手渡されたペンダントのチェーンを外し…って、
「なんで前向いてる?」
「?」
 いや、まぁ…いいけど。
 腰を落として、視線の高さをあわせる。チェーンを首に回すという動作が、必然的に顔を近づけさせて、少しドキドキする。
「ん…と。これで、いいかな」
 後ろ髪にチェーンが引っかからないように細心の注意を払いつつ、着けたペンダントを彼女の胸元に静かに下ろす。不思議な模様を持つ緑色が、柔らかくきらめいた。
「どう、似合う?」
「ああ、バッチリだ」
「まぁ、とーぜんだけど。にひひっ♪」
 くるっと目の前で一回転して、伊織は得意そうに微笑む。そして、僕に近づいて、耳元でこうささやいた。
「…ありがと、プロデューサー」







ちなみに、マラカイト…孔雀石ですが、他にも恋愛系のパワーストーンという一面を持ってるそうです。
…別に狙ったわけじゃないんですよ。いやホント。