炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

第1話/シーン3

セガワ・コウイチ」
「タキダ・シンジロウ」
「「只今戻りましたっ!!」」
 オーシャン・ベース内、ブリーフィングルームに飛び込むコウイチとシンジロウを、TEAM-F.O.R.C.E.の面々が迎える。
「よし、全員揃ったところで…イズミくん、現状の説明を」
 金髪碧眼の男性…TEAM-F.O.R.C.E.のリーダー、ロバート・アシュレー…が促すと、イズミは小さく頷いてキィを弾く。

「先ほど、タキダさんがいたフライトエリアに発生した突風ですが、観測の結果、瞬間最大風速80ノットを越え計測不能とのことでした」
 室内中央に立体映像が浮かび上がり、海上と戦闘機の3DCGモデルと、それに向かって吹いた突風のシュミレーション映像が展開される。
「は、80ノットって…」
「風力階級最大の『12』が64ノット以上だから…実際に受けた人間じゃなきゃ想像つかないわね…」
 目を丸くするコウイチとイオリ。
「そして、その突風の原因ですが…」
 立体映像のモデルが切り替わる。
「突風が吹いた現場から約2000キロメートル離れたポイントに、超大型の台風が観測されました。突風の発生は、この台風によるものと推測されます」
 今度は巨大な雲の渦のモデルが表示される。
「あれだけの突風を生み出すとなると、その母体となった台風ってな…」
「ええ、過去観測されたことの無い、超規模の台風です」
 シンジロウの言葉に、イズミが続けて答える。
「最大風速180ノット、強風域半径1200キロメートル、中心気圧812ヘクトパスカル…。これだけの規模の台風が万一上陸した場合、壊滅という言葉すら生易しいほどの破壊がもたらされることは必至です」
「移動してるのか?」
「現在は殆ど移動していません。ですが、いつ動き出してもおかしくありません」
「つまり、今のうちにこの台風を消滅ないし無力化させるのが今回の目的だ」
 ロバートがまとめる。
「台風の消滅…可能なんですか?」
「それは、わたしが説明するわね」
 イオリがイズミのあとを引き継いで説明を始める。
「台風は、強大なエネルギーの塊なの。これに同等以上のエネルギーをぶつければ相殺できるわ」
 言いながら立体映像を用いてシミュレーションを行う。
「ただ、標準の台風で10の18乗ジュールの熱量が存在するの。これは原子爆弾数千個に相当するエネルギーなのね」
「げ、マジかよ…」
「あくまで標準の台風の、ね。今回の場合、その数十倍は軽く越えると思ったほうがいいわ」
「仮に世界中に存在する全ての核兵器をつぎ込んでやっと消滅…といった所だな。もっとも、そんなことをすれば台風の前に地球が滅亡するだろうがな」
 重々しい口調で、ロバートが呟く。
「そんなバケモノ台風、俺たちでどうしろってンだ?。こっちにあるのは戦闘機4機とそれにくっついてるわけのわからねぇ工作ときたもんだ」
 シンジロウがそう言うと、イオリがジト目で彼を一瞥する。
「あーら、その工作ですら巧く扱えないのはどこのどちら様だったかしら?」
「ンだとコノヤロ」
「やめときなってシンジロウさん、口喧嘩でこいつにゃ勝てねぇって」
 互いににらみ合う二人の間に立ち、シンジロウをなだめるコウイチ。その様子を見て、ロバートが軽く咳払いをする。
「もちろん、手はある。さっき君の言った工作…もとい、イオリくんのGCSを用いた方法が、ね」
 ロバートの言葉にイオリが頷き、再び立体映像を操作する。今度はミサイルの3DCGモデルが現れた。
「―――GCS弾頭弾。予備のGCSをミサイルの弾頭に取り付けた簡単なものだけど、これを使用するわ」
「GCSを台風にぶつけるだけで消せるのか?」
「正確にはGCSじゃなくて、GCSによって暴走させた重力エネルギーをね」
 立体映像に台風とGCS弾頭弾のモデルを表示させる。
「まずは無風地帯、いわゆる“台風の目”にGCS弾頭弾を打ち込む。目の中央部で遠隔操作による爆破を行うことで、重力エネルギーを暴走させて、極小規模のブラックホールを発生させるの」
 イオリの説明にあわせて、CGモデリングが動き、発生したマイクロブラックホールが台風を消滅させていくシミュレーションが展開していく。
ブラックホールって…危険とか無いのか?」
「わたしの作ったシステムを甘く見ないでよね♪このマイクロブラックホールには核が存在しないから、時間がたてば勝手に消滅するの。計算上は、台風の消滅とほぼ同時にね」
 その言葉を裏付けるかのように、シミュレーション画面に写っていた台風はブラックホールもろとも完全に消えてなくなった。
「成功確率は92.8%。もっとも、わたしのGCSを使うんだもの、100%以上は確実だけどっ、にひひっ♪」
「なるほどね」
「それではミッション内容を伝える」
 シミュレーション映像の終了を合図に、ロバートが改めて口を開く。
パイロット諸氏は現地に急行。GCS弾頭弾を用いて、目標:超巨大台風を破壊。射撃手は…コウイチ、君がやってくれ」
「俺…ですか?」
 突然指名されて、きょとんとなるコウイチ。
「そうだ。今回のミッションは暴風域での作業になる。よって、暴風に晒される機体をGCSで常に制御する必要がある。そのためには、GCSをもっとも巧く扱う君の技量が必要不可欠なんだ」
「…分かりました、やってみますっ」
 背中にのしかかる責任と言う重圧を感じながら、コウイチは笑顔でロバートの指示に応える。
「シルエットフォース用にロケットランチャーも造っておいたわ。これを使ってGCS弾頭弾を発射するの。急造品だから、1発撃ったらもう二度と使えないと思ってね。GCSの起爆装置はわたしが起動させるから、撃ったらすぐ離脱すること」
「ああ、分かった」
「ファイターフォース各機はシルエットフォースの周囲に散開、GCSで壁を作って暴風から守れ。以上だ」
 一旦言葉を切り、ロバートはチームメイトを順に見た。
「TEAM-F.O.R.C.E.結成以来の大規模ミッションだ。みんな、必ず無事に戻ってくること…いいね」
 リーダーの指示に、思い思いに頷く面々。
「よし、TEAM-F.O.R.C.E.…ゲット・グローリー!」
『ロジャーッ!!!』
 ブリーフィングルームに、若き開拓者たちの声がこだました。


 -つづく-




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 一般的な台風のエネルギー量及びそれを消滅させるのに必要なエネルギー規模はリサーチ済みです。
 参考文献:ウィキペディア
 (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B0%E9%A2%A8
 まぁ、実質上ムリってことですね。 少なくとも、現代の科学力では。