炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

第1話/シーン6

 機体後部、浮力を生み出す要たるGCSを破壊され、シンジロウのファイターフォースが失速していく
「空気が…“裂けた”だとぉッ!?」
 シンジロウの表情が驚愕に歪む。
「GCS出力低下…ちっ、仕方ねぇ! 前方の小島に胴体着陸を慣行するッ!」
 黒煙を上げながら、シンジロウ機は怪獣から少し離れた位置に点在する珊瑚礁群のうち、島程度の規模のそれに不時着した。

『あーもうっ、だから迂闊に近づいちゃダメって…!』
「分かったのか、あの攻撃の正体が?」
 問いかけるコウイチに、サブモニターのイオリが頷く。
『あの怪獣は口から空気を急激に吸い込むことで、一定の距離・範囲内の空気を抜き取って“真空状態”にしているの』
「真空…?」
『カマイタチって、知ってるでしょ?』
「カマイタチって言やぁ、日本の妖怪だろうが。それがあの怪獣と何の関係があるってンだ?」
 小破したファイターから降りたシンジロウが問う。
『その妖怪伝承の元となった現象よ。急激に空気が薄くなる、つまり気圧の極端な変化によって皮膚や衣服が裂ける現象だけど、その強烈なモノって思っていいわ』
「なるほど。台風を出現させる怪獣だ。空気を操ることはたやすいってことか」
「感心してる場合かよエド。おいイオリ、どうにかできねえのかよ」
 珍しく自分を頼るシンジロウに、イオリは少々優越感を感じながら答える。
『元から断つしかないわね。見た限り、口以外の機関から空気を吸い込んでるようにはないから、口さえ封じれば…』
「よし、やってみよう!」
『やってみようと簡単に言うがな…迂闊に近づけばシンジロウ隊員の二の舞になりかねないぞ』
 アルベルトがはやるコウイチに釘を刺す。
『せめて近づく一瞬だけでも怪獣の気をそらせればいいんだけど…』
「O.K.じゃあその役目は俺が任された」
 イオリの呟きに、シンジロウが口を開く。
「どうするつもりですか、シンジロウさん?」
『要するにヤツの気を逸らせばいいんだろ? ここから俺が攻撃を仕掛けて、怪獣の注意をこっちに向けさせる!』
「危険だ、シンジロウ隊員。第一、攻撃を仕掛けられるようなものが無いはずだろう?」
 確かにアルベルトの言うとおり、シンジロウの乗っていたファイターフォースは現在使い物にならない。仮に使えたとしても弾薬を全て撃ちつくしている。
『まるっきり丸腰ってワケでもねぇだろが?』
 そう言ってシンジロウは腰のホルスターから掌サイズ程度の小銃型の道具を取り出した。
「“コアシューター”!? いくらなんでもそれじゃ攻撃できるわけ無いじゃないですか?」

 コアシューターとは、F.O.R.C.E.隊員に配備されている小銃型多機能ツールである。
 先端部に様々なカートリッジを装填することにより、その発射機構を利用し、無針インジェクター(注射器)や特殊消火液弾、高圧スタン・ガンなどに利用できる。
 つまり、全くの補助用具であり、武器としての運用は単体では不可能なのだ。

『道具は使いよう…ってな♪ …信じろ。俺が絶対に怪獣の気をそらしてやる。その隙に強烈な一撃をヤツのでけェ口に叩き込んでやりなっ!』
「はいっ!」
 コウイチの返事に、シンジロウは満足げに頷く。
「さァて…さっきのお返しだ。目にモノ見せてやるぜ、怪獣野郎!」
 コアシューターを構え、シンジロウの目が怪獣をにらみつけた。




  -つづく-




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 前回のモトネタ問題。答えは「甲賀忍法帖」の筑摩小四郎ですた。
 コミカライズされた「バジリスク」でのひゅるるるる…が大好きでしたw