炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【SS】三浦あずさ誕生日記念【書きまして候】

「お疲れ様です」
 遊園地内の特設ステージでのライブを終えたあずささんに、僕はそう声をかけた。
「はい。プロデューサーさんも。お疲れ様です~」
 常に笑顔を崩さないあずささん。こういうところは見習うべきところだよなぁ…。
「これから、スケジュールはどうなってますか~?」
「あっと…今日はこれで終わりですよ。このまま直帰してもらっても構わないです」
 仕事が少ないわけではない。今日は彼女にとっても特別な日であるわけで。
 なら、彼女の自由になる時間をすこしでも提供できれば、という想いからだ。
「あら~。…それじゃあ」
 と、あずささんが僕をみてニコニコと笑う。
「?」
「これから、遊園地で遊びませんか~?」
 その疑問符には、独特のニュアンスが含まれていた。
「僕と一緒に…ですか?」
 という問いに、
「はい、そうですよ~」
 あずささんが、満面の笑みで頷いた。



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     フェリス・ホイール・ランデブー



「…で、待ち合わせですか…」
 あずささんとの会話を思い出す。

『ちょっと着替えてきますので、中央広場の噴水の前で待っててもらえませんか~?』

 と言われて、すでに数十分経過。
「またどっかで迷ってるんじゃ…?」
 充分にありえるから困る。
「む…でも探しに出て入れ違ってもいけないしな…」



「あの…こ、困りますぅ…」
 …ん?
 聞き覚えのある声が耳の端に聞こえる。
「わたし、ちょっと待ち合わせをしてまして~」
「いいからいいから。暇なんだ、付き合ってよ」
 軽薄そうな雰囲気の男が強引に女性の手をつかんで引張っていこうとする。
 まったく、ナンパにも礼儀と言うものがあるだろうに…って、あれ?
 なすすべなくおろおろとする女性に見覚えがあった。
 深々と被った野球帽でその素顔ははっきりとしないが、まとう雰囲気は常に傍に居た僕だから分かる。
 僕はつかつかと女性の傍に歩み寄り、引張る男の手を押さえる。
「…僕のツレに、何か用かな?」
 できるだけ凄みを効かせてみせる。男は一瞬たじろぎ、
「ちっ、男連れかよ…」
 と悪態をついてそのまま去っていった。
「プロデューサーさん~…ごめんなさい、助かっちゃいました~」
「あ、やっぱりあずささんでしたね」
 頭を下げたあずささんが野球帽のつばを少しだけ持ち上げた。
「分かっちゃいます?さすがですねぇ…。あの人はちっとも私だって分からなかったみたいですけど~」
「まだアイドルランク低いですからね。その辺は、まだまだこれからですよ」
 まぁ、高くなったからってナンパされるのはご勘弁願いたいけどね。
「それでは、さっそく行きましょうか~」
 そう言って、あずささんは僕の手を取る。
「え?あ?」
「どうかしました?」
 …やれやれ、無防備なんだか鈍感なんだか…。
「いや、その…手を」
「はぐれないように、ですよ~」
 …あ、そう。他意はないのね。他意は。


「…で、いきなりコレですか…」
「ええ~。私、こういうの結構好きなんですよ~♪」
 眼前に聳え立つのはこの遊園地の名物アトラクションであるジェットコースター。
 なんでも数年前は世界一の規模だったとかなんとか。実際デカい。
「それじゃあ、れっつごーです~♪」
「えっ、ちょ、ま、こ、心の準備が…」

 それからは完全にあずささんのペースだった。
 アップダウンを散々繰り返されてグロッキー状態な僕はすっかり振り回されてしまったわけで。

「うふふ、白馬の王子様みたいですね~」
 恥ずかしがる僕にむりやりメリーゴーランドの白馬に乗せたり…
「回しますよぉ…そ~れっ」
 コーヒーカップを全力で回され…
「きゃああああっ!!!」
 オバケ屋敷で驚いたあずささんに全力でしがみつかれ…
 …いや、それは良かったんだけどね。色々と。

 ともかく…つ、疲れたぁ……。


 ・
 ・
 ・


 いつしか日は傾き、アトラクションが夕陽の赤で染まっていく。
「あの~…プロデューサーさん」
「どうしました?」
 あがる息を整えながら、僕はあずささんの声に応える。佇む後姿に夕陽がさしこみ、彼女をいっそう魅力的に見せていた。
「最後…あれに一緒に乗ってくれませんか?」
 指をさす方向に、巨大な輪が見える。この遊園地の最大の目玉、大観覧車だ。
「…了解です。お付き合いしますよ」
 僕がそう言うと、あずささんは本当に嬉しそうに微笑んだ。

「…今日はごめんなさいね。いっぱい連れまわしてしまいました~」
 向かい合わせに座ったあずささんが、頭を下げる。
「いえいえ、気にしないでくださいよ。僕だって楽しかったですから」
「そう言ってもらえると、少しほっとします~」
 あずささんはそう言って胸をなでおろした。
「今日はずっと、プロデューサーさんといっしょに居たくて…だから私、今とっても嬉しいんです」
 心なしか、あずささんの頬が赤く見えるのは、僕のうぬぼれだろうか。
「とっても、いい想い出に、なりました~」
 にこにこしながら手を合わせる。いつものあずささんの笑顔が、今日はやけにまぶしい。
「プロデューサーさん…」
「はい…っ!?」
 不意に、あずささんの顔が近づく。いつの間にか僕の隣に座っていたあずささんが、僕に寄りかかり…

  かくんっ

「…え?」
「………すー、すー…」
 頭を僕の肩に預け、そのまま眠ってしまった。
「…えーと」
 ど、どうしたもんかな、この状況…

 あ、そうだ。
 今の内に……



「…あずささん、あずささんっ」
「…ふにゃ?」
 可愛らしい声とともに、あずささんがうっすらと目を開ける。
「起きて下さい。もうすぐ観覧車、下に着いちゃいますよ」
「え…?」
 寝惚け眼のあずささんはあたりをキョロキョロと見回し…
「ええっ!?」
 慌てて立ち上がった。
「わ、わわ、私ったら…眠ってしまうなんて…。ご、ごめんなさい~。退屈させてしまいましたよね…?」
「いえいえ。可愛い寝顔を見させてもらいましたし♪」
 僕がそう言うと、彼女は耳まで真っ赤になる。
「そ、そんな…恥ずかしいです~」
 火照る頬を手で押さえる。と、彼女の指が耳に付けられた何かに触れる。
「…あ、あら?」
 ポーチからコンパクトを取り出し、耳元を映す。正体を見たあずささんの目が丸くなった。
「これ…?」
 ガラス細工のイヤリングが、夕陽に反射して小さく輝いている。
「僕からの誕生日プレゼントです。…気に入ってもらえるといいんですが」
 寝ている間にこっそり僕がつけたのだ。…ちょっと気障な演出かな? なんてね。

「綺麗…。とっても素敵です~」
 うっとりとした瞳で、ガラス細工を指で転がす。
「改めて…誕生日おめでとうございます、あずささん」
「はい~。本当に、ありがとうございますね。プロデューサーさん」
 桜色の頬に笑みを浮かべ、あずささんはそう言った。




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 あとがき

 直前回に社長との少々オトナなやりとりを展開したので、今回はいっそ逆にしてみようかと思った。
 ちなみに、社長のを書いてなかった場合、当初の予定はジャズバーでかなりシックな展開を考えてました。
 …まぁ、僕はこーいうの苦手なので結果的にはラッキー?(ぉ


 さぁ、次は八月…真だな。
 こちらは実は既にプロットの大半が出来上がってたりしますよ。お楽しみに!