「…よしっ」
手の中のカートンボックスを確認する。出来る限り丁寧に包んだ包装紙には、キズ一つついてない。
落とさないようにしっかり手で包む。折角結んだリボンがくしゃくしゃにならないように、慎重に、慎重に。
「…喜んで、くれるかなぁ…」
ありったけの想いを込めた、私の手作りチョコ。
unbreakable emotion
「…あら? 春香ちゃんじゃない。どうしたの?」
「あ、えっと…その…プロデューサーさん…は…」
プロデューサーさんが私のプロデュースを終えてからもう随分経ったけど、私は今でもプロデューサーさんと呼んでいる。今では別のプロデューサーさんがついているのに。
…やっぱり、私にとってのプロデューサーさんは、プロデューサーさんしかいないんだ。
「あ、ちょうど良かったわね。ついさっき営業から戻ったところよ。今は書類整理中」
「本当ですか? …えっと、私行っても大丈夫でしょうか?」
「うーん…… あ、そうか。今日はバレンタインだったわね」
私の手の中のボックスを見て、小鳥さんは柔らかく微笑んだ。
「だったら問題ないわね。春香ちゃんの想い、しっかり届けてあげちゃいなさい♪」
見透かしたように、小鳥さんが可愛くウィンクしてみせた。
な、なんか照れちゃうな…
*
プロデューサーさんは机に向かって書類とにらめっこしてる。
小鳥さんは問題ないって言ってたけど…なんか、声かけづらいな…
…ううん、折角小鳥さんも応援してくれてるんだもん。がんばらなきゃっ!
「…プロデューサー…さん」
私の声に気付いて、こっちを向く。プロデューサーさんの顔を見るのは久しぶりで、なんだか気恥ずかしい。
「おお、春香か。…久しぶりだな」
やりかけの仕事を放り出して、プロデューサーさんが向き直ってくれる。こういう何気ないやさしさが、プロデューサーさんの、プロデューサーさんたる所だと思う。
「で、急にどうした?」
っと、そうだった。
「あ、あの…ですね?」
「うん?」
ボックスを持った手を伸ばして、
これ…バレンタインのチョコですっ!
…そう、言うだけ。
「これ…うひゃあっ」
急に足元が不安定になり、自分の体がぐらりと傾く。
もぅ、何もこんなときにいつもの癖が出なくても…
「危ないっ!」
プロデューサーさんの声が響き、いつもならそのまま地面に激突するはずだった私の体は、寸前で受け止められた。
「…ふぅ。何も無いところで転ぶのは、相変わらずみたいだな」
うぅ、なんか呆れられてる…
「そういえば、何かを渡そうとしてたみたいだけど…どこだ?」
…え?
そう言われて、慌てて手の中を確認する。
「…無い!?」
え? え? どこ? どこにいったの?
「っと、これか?」
プロデューサーさんが「ほら」と私に見せたのは、間違いなく、渡そうとしてたチョコの箱だった。
「あー。そういえば今日はバレンタインだっけか。俺にかい?」
頷く。
「そっか、ありがとな。開けてみても良いかな?」
もう一度、頷く。
「じゃあ早速…」
リボンを解き、包装紙をめくって、箱のフタを開く。
「…あぁ」
自分でも嫌になるくらい、悲痛な声が出た。
がんばって作った特大ハート型チョコが…
バラバラに砕けていた。
「あっちゃぁ。落ちたときに割れちゃったんだな。まぁいいさ。割れてても美味しいことには変わらな…って、春香?」
つーっ、と。
涙が、零れ落ちた。
「お、おい、春香? 春香!?」
ぽろぽろと涙を零す私に、プロデューサーはおたおたと声をかけ続けた。
*
「…落ち着いたか?」
応接室に移動した私に、ハンカチが手渡される。涙の跡をぐしぐしと拭って、私は小さく頷いた。
「…悪かったな。一生懸命作ってくれたのに、ちゃんと受け取れなくて」
「プロデューサーさんのせいじゃないですよ」
そう、私のドジのせいだ。
「落ち込むなって。また、作ってくれれば良いからさ」
「…?」
「そりゃ、今年のバレンタインは今日で終わりだけどさ。春香の想いのこもったものなら、俺はいつでも受け取るから」
プロデューサーさんの暖かい言葉が、私の胸を温めてくれる。
「…はい。そのときは、ちゃんと食べてくださいね」
「ああ」
プロデューサーさんの手が、私の頭を軽くなでた。
「じゃ、これ飲んで、元気だしな」
プロデューサーさんがマグカップを差し出す。中には黒く甘い香りの液体。
「これ…」
「さっきのチョコ、溶かしてホットチョコにしてみたんだよ」
口に含む。ほんわかとした暖かさが、さっきのプロデューサーさんの言葉と、手のひらの温度に似ていた。
「流石に、砕けたハートのチョコ食べるのは、ちょっと縁起が悪そうでさ」
「もぅ、プロデューサーさん意地悪です」
「ははは」
私の表情に笑みが戻ったのが分かった。
プロデューサーも笑っていた。
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つーわけで、アイマスDEバレインタインSS。
絶対伊織メインで来ると予測していたであろう読者諸氏の期待を真っ向から打ち破って春香メイン。
…いずれ伊織メインはやりますが。ええ。
タイトルの「unbreakable emotion」
和訳すると「壊れない想い」(多分)
チョコは砕けても、そこに込められた想いは砕けないよ…と。
…って、何態々説明してるんでしょう俺は(汗
さて、来月はホワイトデーですか。
3倍返しとか怖いですねー。
…いや、俺はもらうこと無いでしょうから縁の無い話なんですけどね(蝶トオイメ
http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=homurabe
↑プロデューサーさん! web拍手ですよっ、web拍手!