炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【掌編・二次創作】新たな旅立ち・AN IMMORTAL FANG【ボウケンジャー】

 うらぶれた、場末の酒場。
 その片隅に、一人の男がうつろな表情で手の中のグラスを遊ばせていた。

「…………」

 口元にグラスを持っていき、中身が無いことに気付くと、テーブルのボトルからウォッカをなみなみと注ぎ、一気にあおった。

「……飲みすぎだよお客さん、ちょいと控えた方がいいんじゃないかね?」

 壮年のマスターに窘められるが、男はそれに応えることなく、グラスをたたきつけるようにテーブルに置くと、そのまま突っ伏した。


「紫郎…キョウコ………」


 弱弱しく開く口から零れるのは、喪った仲間の名前。


 名うてのトレジャーハンターとして活躍していた彼と彼の仲間は、あるとき、突然に引き裂かれた。
 死というカタチで。

 それ以来彼は、トレジャーハンティングから離れ、こうして日々を、ただ生きていた。
 何をするでもなく。胸に残る、仲間への想いをひたすら募らせたまま。


「……明石暁(あかし・さとる)さんですね?」

 ふと、声がした。よろよろと上体を起こすと、黒髪の少女が、じっとこちらを見つめていた。

「ようやく見つけました。……<不滅の牙>」




   轟轟戦隊ボウケンジャー Task:0.5 あるいは Task:50
   EPISODE:SATORU-新たな旅立ち・AN IMMORTAL FANG-




「……なんだキミは? ここは子供の来るような所じゃない」
 帰れ、といいかけた口を、少女の言葉が止める。
「貴方に、トレジャーハントを依頼したいのです」
 不滅の牙・明石暁の名は、冒険者の間のみならず、好事家の間でも広く知られていた。行き着くまでの冒険が楽しめるのならば、どんな依頼でも請け、どんなシロモノであろうと必ず見つけ出す。
 そんな彼を、宝物を得る為に仕事を依頼する金持ちは多く居たし、彼もそんな依頼を、かつては楽しみにしていた。

 今回もその類だろうと高を括った暁は、小さく溜息をついた後、ぴしゃりと言い放った。
「断る。……俺は、もうトレジャーハントはやらない」

 あの一件以来、彼はこうやって依頼を断って来た。
 そして、断られた側も、何度かやりとりしたのち、最終的には納得し、去っていった。

「……なぜ、ですか?」

 少女が問う。この質問もいつものことだ。だから暁もいつものように答える。

「仲間が……死んだ。俺の為にな。あいつらだって、ずっと冒険したかったはずなんだ。……なのに、俺だけ生き残って、冒険を続けるなんて……そんなことは、できない」

「……そうでしょうか」
「!?」

 少女の言葉は、今までには聞かないものだった。

「私は、貴方の仲間のことは良く知りません。ですが、貴方にとっては、最高の仲間だったんだと思います」
 頷く暁。
「そして、仲間もまた、貴方を最高の仲間だと思っていた。…違いますか?」
 言葉に詰まる。

「そんな彼らが、自分たちの為に冒険をやめた貴方を、どう思うでしょうか?」
 少女の言葉が、心の敏感なところを抉る。

「それに……」
「それに?」


「貴方の目は、まだ死んでいない。その瞳の奥に、貴方の冒険魂<ボウケンスピリッツ>が、くすぶっています」
「……」
 少女の言葉を、心の中で反芻する。

 仲間を失い、冒険者を辞めることを決意したものの、次の職を決めるわけでもなくいたのは、結局まだ、自分は冒険から離れられないのだと、心の中では判っていた。

 それを、認めたくなかった。

「……ボウケンスピリッツ、か……」

 虚空に呟く。

「もしも、貴方がまだ冒険をしたいと思うのなら、サージェス財団に行ってください」
「サージェス財団?」

 その名には聞き覚えがあった。探す―Search・守る―Guard・受け継ぐ―Successor…を行動理念とした、世界各地の貴重な宝を集め、保管する民間団体である。
 暁本人も、かつて数度、宝物の回収依頼を請けた事がある。

「サージェスミュージアムの、牧野という人物を尋ねるといいでしょう。貴方の力に、きっとなるはずです」
 少女が、柔らかく微笑んだ。
「そう、か……」
 ふと、暁は眼を閉じる。瞼の裏側に、かつての仲間たちの顔が浮かぶ。


 ―――俺は、まだ冒険を続けていいのか?


 心の中で問いかけると、紫郎もキョウコも、笑顔で頷いた。


「……あの」
 少女に声をかけようとする暁。しかし、いつの間にか少女の姿はどこにもなかった。

「……依頼、あったんじゃなかったのか?」
 そう呟いて、はたと気付く。

 ひょっとしたらあの子は……

 自分の中に埋もれていた、自分自身のボウケンスピリッツをもう一度見つけることを依頼したんじゃないのか、と。

「………まさか、な」


  *


「では、これからキミは、<ボウケンジャー>として、プレシャスの回収を主な任務としてもらいます。主な装備はおいおい支給するので、マニュアルをしっかり読んどいてくださいね」
 恰幅のいい男性…かつて憧れていたトレジャーハンターであった牧野につれられ、サージェスミュージアムの地下、秘密組織・ボウケンジャーの秘密基地へとやってきた。牧野氏にはすでに話が通っていたらしく、自分の名を名乗るとすぐにここまで案内してくれた。

『…やあ、はじめまして』

 と、壁面のモニターが切り替わり、円錐を基調としたCGモデルが声をかけてきた。

「…?!」
『やはり、来てくれたようだね。…ああ、ボクの名前は<ミスター・ボイス>。キミの上司…のようなものだ。ワケあって人前には出れなくてね。こんなカタチで出てくることをまずは謝っておくよ』
 ひょうひょうと軽い口調で円錐…もとい、ミスター・ボイスが喋る。
『さて、来てもらってすぐでなんだけど、キミにミッションを与えるよ』
 プレシャスの回収。決して楽なものではないことは、以前にもプレシャスというものに触れたことのある暁は重々理解していた。さて、何を回収するのか……

『まずキミには、仲間を集めてもらう』
「……仲間?」
 思いもかけないミッション内容に、暁は面食らう。

『プレシャスの回収が難しいものであるということは、キミ自身良く知っているはずだ。もちろん我々もバックアップを惜しまないが、実際に回収するのはキミだ。やはり手は欲しいだろう?』
 ボイスの言い分はしごく真っ当だった。
『ここに我々が厳選した、メンバー候補のリストがある。キミはこの中からこれは!って思うのを選んで、スカウトに行って欲しい』
 牧野から手渡された紙束をざっと眺める。結構な数だ。
『これからキミの仲間になるメンバーだ。しっかり選んでくれ給えよ』
 書類を捲りながら、暁は我知らず笑っていた。
「……仲間探し、か」
 紫郎とキョウコと、初めて逢ったときの事を思い出す。

「……ちょっとした、冒険だな」

 暁の胸の中のボウケンスピリッツが、エンジンのように熱く回りだすのを感じた。


  *


 ・
 ・
 ・

「…どうしたんですが? 黙り込んでしまって」
 同僚の声に、遠ざかりかけた意識が戻る。
「いや……昔のことを、思い出しただけだ」

 あれから、数年。
 暁が集めた仲間は、暁にとって何にも代えがたい、まさに自分だけの宝物<プレシャス>となった。
 プレシャスの回収や、その中での戦いの中で、宇宙にもプレシャスがあると確信した彼は今、そのボウケンスピリッツを宇宙へと向けていた。
 信頼できるサブチーフ・西堀さくらとともに、果てしない銀河を、巨大艦・ゴーゴーボイジャーで進む。アテの無い冒険の旅が、暁のボウケンスピリッツを、これ以上無いほどに、熱く熱くさせる。

「昔の話ですか……私、チー…明石さんの昔の話、聞きたいです」
 さくらが、頬を上気させながら言う。
「?…まぁ、そのうちに、な」
 そんなさくらの雰囲気に気付かず、暁は目の前の星の海を見つめ続ける。
「……いくぞ。宇宙は広い。俺たちの知らないプレシャスが、きっとたくさんあるはずだ。こいつは……」
「ちょっとした、冒険ですね」
「お、おい…」
 決めのセリフを取られ、イマイチ締まらない暁と、くすくすと笑うさくら。


 ゴーゴーボイジャーのパラレルエンジンが、ボウケンスピリッツを燃やし、新たな旅立ちの帆を上げた。



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 なんか唐突にボウケンネタ思いついたので勢いで。
 ネタ元は超全集にて「暁(とさくら)はミスター・ボイス本人に会った事がある」という矛盾より。
 ボイス本人=レオナ(劇中では名前明かされず)と劇中で出会ったのはさくらだけど、彼女がボイスであるとは気付いてなかったみたいだし、このぶんだと暁も会ったことがないんだろうなぁと。
 …いや、実は会ってるという可能性も否定は出来ないんですが。

 で、この矛盾を保管する為に「実はボウケンジャー加入のきっかけがレオナと会ったことだった」にしてみた。
 これなら「本人には会ったことがある」が、「正体まで知らない」ということも可能だしw(ぉ

 暁は残りのメンバー(映ちゃんやズバーン含む)を自らスカウトしているけど、暁本人はどういう経緯で?という疑問にセルフ回答。
 多分時期的に、紫郎&キョウコを亡くした後なのは間違いないし。

 …とまあ、書きたい事を詰め込みすぎたせいでびみょーにgdgd感が否めねえorz

 だが私は謝らない(こら


 ときに、このネタが浮かんだのをきっかけに、他のメンバーの小ネタも思いついたので、いずれ書く予定。

 さくら姐さん→TVシリーズ~ゲキVSボウのミッシングリンク埋め。いかにあの堅物鈍感チーフをオトしたか(ぉ
 そうそう蒼太→完全オリジナル。風のシズカラブロマに挑戦(ぇ
 ツンデレ真墨→ゲキVSボウ後日談。暁が宇宙に行ってる間の、自分がチーフとしての報告(自慢話?)。


 映ちゃんは…ごめんあんま細かくネタ浮かんでない(汗
 一応、パパン戦死→ボウケンジャー加入までのミッシングリンクのどっかを埋める形。どっちかというと加入(劇中初登場の)直前?


 ま、他に優先すべきネタも多いので、筆休めくらいに書くつもり。
 そんくらいのペースだと思っちゃってくださいw