炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

VERSUS SPACE PIRATE/プロローグ

 ――宇宙。 

 無限の広さと輝きを秘めた……神秘の世界。 


 若者たちは……いや、若者に限った話ではないが……夢や望み、そしてロマンを求めるものは、我先とこの漆黒の大海原へ繰り出してゆく。 

 <ゴーカイガレオン>と銘打たれたその紅い帆船もまた、そんな冒険者たちの居城のひとつであった。 


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「……ふふっ、コレで名実ともに海賊の仲間入りね、アイム」 
「そうですね……なんだか嬉しいです」 

 自らの顔写真と、その下に記された金額……50万ザギン。賞金首となった自らを省みて、<アイム>と呼ばれた少女は、漸く自分が<仲間>に入れたと自覚して破顔した。 

「しかもハカセよか高いわよー。すごいすごい」 
「……いちいち僕を引き合いに出さないでよ、ルカ」 

 焼きたてのローストチキンを運びながら、<ハカセ>なる――<ドン・ドッゴイヤー>という本名があるが、ここは仲間に倣い渾名で記そう――青年が口を尖らせる。反論を「うっさい」と一蹴したもうひとりの女海賊……<ルカ>はテーブルに置かれた瞬間の肉を早業で掠め取っていった。 

「あーもう、つまみ食い禁止ー! それ最後の肉なんだからさぁ」 
「もう食料切れか。そろそろどこかの星で補給しておかないとな、マーベラス」 

 日課の腹筋を終えたばかりの長髪の青年……<ジョー>が、サロン中央の椅子にどっかりと座り込んだ“船長”に声をかける。一呼吸置いて「おう」という生返事だけが戻ってきた。 

「っていうか、今あたしらどこに向かってンの?」 
「<地球>とかいう星に行くんじゃなかったっけ?」 

 ルカとハカセからの問いかけに「まだ足りねえんだよ」と呟きながら船長こと<キャプテン・マーベラス>がローストチキンの半分を一息に頬張る。その視線がちらり、と小さな宝箱へと向かい、4人もそれに倣った。海賊の持つ調度品にしては妙に小ぶりなその宝箱には、彼らの目的……<宇宙最大のお宝>へと導く、文字通りの“鍵”が入っている。 

 <レンジャーキー>と呼ばれるそれは、かつて地球を守ったとされる34の<スーパー戦隊>の姿を象ったものだ。しかし、象っているのはカタチだけではない―― 

「随分集めたものだと思ったんだがな」 
「いや、これでもようやく半分ってとこだ」 

 そう言って宝箱をあけ、おもむろに手を突っ込む。指先に摘まれたレンジャーキーは、紅い戦士の形をしている。 

「レンジャーキーってのは、だいたい5本で一組だ。だがこいつは、“まだ1本しかない”」 

 多少の例外は存在するものの、形状やそれに秘められた“力”によってグループに分けられるレンジャーキーであったが、現在手の内にある80本余りの中で、その括りが弱いものも多々ある。 
 マーベラスが手にするそれも、そのうちの1本だ。 

「……うん?」 

 と、マーベラスの表情が怪訝に曇る。手の中の紅いレンジャーキーがほのかに光を発し始めたのだ。 

「何なに? それもレンジャーキーの力なの?」 

 突如起こった現象に、ハカセの目が興味津々とばかりに見開かれる。ともすれば飛びつこうとする金髪を開いた手ではねのけ「おいトリ!」とマーベラスはもう一人……もとい、もう“一羽”の仲間を呼んだ。 

「んー? 呼んだー? っていうかナビィって呼んでよって何度もガッ」 

 止まり木で惰眠をむさぼっていたオウム型のロボットが、間延びした声でそれに応える。マーベラスはレンジャーキーをその口に突っ込み、「占いの時間だぜ」と笑みを浮かべた。 

「むぐぐ……へっふ・おふぁふぁらなひへーほー」 

 本人(本鳥?)は「レッツ・お宝ナビゲート」と言っているつもりの声が、咥えたレンジャーキーに阻まれる。鳥型ロボット<ナビィ>のお宝ナビゲートは、彼らの本懐である「宇宙最大のお宝」に通じる道しるべになりうるものだ。 

「ふうむ……“星の獣のふるさとで汝らを待つ……”だってさー」 

 ……もっとも、精度はともかく内容が難解すぎるのが玉に瑕、であるが。 

「星の、獣……?」 

 聞きなれない単語にアイムが首をかしげる。「ま、行ってみりゃわかる」とマーベラスが操舵輪をぐっと握りしめた。 

「ナビィ、方角は判るか?」 
「もちのロン! この<レンジャーキー>が教えてくれてるよ~」 

 あっち! と翼で指した先へ衝角の切っ先を向け、ゴーカイガレオンが加速する。 

「そんじゃ、腹ごなしに宝探しといくか」 
「……いや、僕たちまだ食べてないんだけど」 

 ハカセの小さな訴えを聞き流し、マーベラスはモニタ越しに漆黒の宇宙を睨みつける。その先に待つであろう、お宝の“鍵”を目指して。 

 未だナビィが咥えるレンジャーキー――22番目のスーパー戦隊星獣戦隊ギンガマン>の<ギンガレッド>のキーである――は、何かに引き寄せられているかのように、少しずつその輝きを増していった。 



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  ――冒険とロマンを求めて、宇宙の大海原を行く若者たちがいた。 
    宇宙帝国ザンギャックに反旗を翻し、海賊の汚名を誇りとして名乗る豪快な奴ら。 

    その名は……! 







     海賊戦隊ゴーカイジャー/BEGINS 
     EPISODE:BARBUN/VERSUS SPACE PIRATE 






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 時を同じくして、ゴーカイジャーと同じ目的地を目指す“海賊たち”の姿があった。 

「……あれ、か」 

 漆黒の宇宙空間で、なお光の届かない暗礁宙域。 
 ともすれば巨大なスペースデブリと見間違いかねないほどに損傷の目立つその船より、低い声が小さく呟いた。 

「間違いないようだ。そして……おそらくはあれが、奴らの星だろうよ」 

 奴ら。その単語に秘められた憎悪という感情が、ぞわり、と船内の空気を濁らせる。 

「いくぞ、野郎ども」 

 薄暗い船内で、4つの人影が揺らぎ、闇へ溶け込んだ。 

 ……冷たくも鋭い眼光を、一瞬閃かせて。 



   -つづく- 




 


 それは、勇気あるもののみに許された、銀河の大海原を往く宇宙海賊たちの称号であるッ!(若本ボイスで 

 色々お待たせいたしました(ぇ 
 予告編から1年近くたってましたよ。ははははは(乾 

 さて、今回のお話はゴーカイジャーがまだ地球に来る前。時系列的には、冒頭のシーンからアイム加入直後あたりということで。 
 一話と最終話でがらっと変わった、彼らの心象をうまーく再現できればなぁ、と。 

 再現といえば。 
 いままでゴーカイジャーのSSについては、TVシリーズの後日談ばっかりやってたので、過去戦隊への豪快チェンジが出来なかったんですよね。 
 今回は前日談なので、しっかり豪快チェンジできますよー♪ 

 とはいえ、作劇の都合上レンジャーキーが本編より少ないのでどうしようかなーってところですが。 

 ともあれ、幕は開きました。 

 そんじゃまいっちょ……派手に行くぜっ!


※初出:mixi日記・2014.4.16