―――吉備津神社。
ほかにも、腹違いの弟とか子供とか、一族を奉っていたりするが、それはまぁ割愛しておこう。
「……おお」
石段を登りきったダンが感嘆の声を上げた。少し遅れてたどり着いた俺も、その眼前の光景に心奪われる。
荘厳…と一息で語ってしまうのがもったいないくらいの迫力で、本殿が出迎えてくれた。
「なんというか…空気が違うな」
生い茂る木々が日差しを和らげているせいもあるかもしれないが、凛と張り詰めた涼やかな風が、俺達を包み込んでいた。
「ちょっとぐるっと回ってみようぜ」
俺の提案に、ダンがうなづき、まずは敷地内を歩き回る。
などと会話しながら回廊を行く。
と、ダンの足が止まった。
と、ダンの足が止まった。
「ん……」
「どした? …ああ」
ダンの視線の先の施設を見る。
「どした? …ああ」
ダンの視線の先の施設を見る。
「ありゃ、“御竈殿”だな」
「ミカマドノ?」
「ああ。中に湯釜があってな、“鳴釜神事”っつー占いをやるのさ」
鬼神・温羅の首を埋めた場所がここで、後に吉備津彦命の御使いとなった温羅が吉凶を釜の鳴る音で知らせるようになった…という伝承が元になっているらしい。
「まぁ、伝承と片付けてしまうにはかなり古くから続いている神事だけどな」
「ふぅん…見てみてえなあ」
そうだな、といって御竈殿に近づく俺達だったが、その扉は閉ざされていた。どうやら時間が合わなかったらしい。
「あーあ。……ま、しょうがないさ」
「ミカマドノ?」
「ああ。中に湯釜があってな、“鳴釜神事”っつー占いをやるのさ」
鬼神・温羅の首を埋めた場所がここで、後に吉備津彦命の御使いとなった温羅が吉凶を釜の鳴る音で知らせるようになった…という伝承が元になっているらしい。
「まぁ、伝承と片付けてしまうにはかなり古くから続いている神事だけどな」
「ふぅん…見てみてえなあ」
そうだな、といって御竈殿に近づく俺達だったが、その扉は閉ざされていた。どうやら時間が合わなかったらしい。
「あーあ。……ま、しょうがないさ」
さて、もうひと歩きしようぜ、と踵を返した刹那、ボイラーが唸るような音が背後でした。
「!!?」
「お、おい今の音って…」
「お、おい今の音って…」
一瞬だけだったが、確かに御竈殿からしたようだった。
「ま、まさか……なぁ?」
念のために近づいてみたが、中に人の気配はしなかった。
「き、気のせいだ、気のせい」
とは言ったものの、内心は別のことを考えていた。
もし、伝承どおりにここに温羅の首が埋められていたとして。
もし、伝承どおりに温羅の首が釜を鳴らして俺達に何かを伝えようとしたとして……
もし、伝承どおりに温羅の首が釜を鳴らして俺達に何かを伝えようとしたとして……
「仮にそうだとして、何を伝えるってんだ…?」
「あん?」
「あ、いや何でも」
「あん?」
「あ、いや何でも」
御竈殿を離れる際、今一度その建物を見る。
年季の入った木造の壁は、黙して語ることはなかった。
年季の入った木造の壁は、黙して語ることはなかった。
-つづく-
--------------------------------
鳴釜神事は「雨月物語」という江戸時代の小説の一編でも題材にされており、全国的にも有名なようですね。
ちなみに、実際の鳴釜神事では、巫女さんが米を釜の蒸籠(せいろ)の上に入れて混ぜると、大きな炊飯器やボイラーがうなる様な音がするとのことなのですが、これは生米と蒸気の温度差によって生じる振動が、高い音圧を伴って小さな穴から抜けることで発生する、と考えられているそうです。
この現象を利用してラジエーターの研究開発が進んでいるとか何とか。
この現象を利用してラジエーターの研究開発が進んでいるとか何とか。
はてさて、無人の御竈殿から鳴り響いた釜の音。それが意味することとは…?