「ハルくーん、これこれっ」
太くいやになまめかしい声が、ハルくんと呼ばれた青年の耳朶をなぞる。ワゴン車を改造した移動型店舗のカウンターで、いわゆる“オネエ”風の店長が緑色のドーナツを差し出した。
「新作の“秋のモリモリサラダドーナツ”!」
これ以上ないほどのドヤ顔でハルくん……こと<操真晴人>にドーナツを見せる。彼(?)の並々ならぬドーナツへの情熱と自信が表情からにじみ出るようだ。
「ん……プレーンシュガー」
がくっ
そんな意気込みもどこ吹く風と、晴人はいつも通りのお気に入りのみを注文し、店長は店員ともどもズッコケる。
「ちわーっ、野菜届けに来ました~」
と、ワゴンの向こう側から声がかかり、店長が「は~い」と体勢を立て直してぱたぱたと出て行った。
「あむっ」
一方商品を受け取った晴人は、テーブルにつきドーナツを一つ頬張る。かなりのお気に入りらしく、その表情が咀嚼をするたびにほころんでいく。
「――むっ?」
が、その安らぎも長くは続かない。
風を切り、赤い小さな影が晴人の前に現れた。
「出たか!」
その言葉に、模型のような赤い鳥がこくこくとうなづく。が、困惑したように首をかしげながらフラフラと所在なく羽ばたいて見せる。
「どうした、ファントムじゃないのか?」
晴人がいぶかしげに問いかける。鳥はうなづきながらもやはり要領を得ないかのような雰囲気を見せる。
「まぁとにかく、行ってみりゃわかるか」
勢いよく立ち上がり、おもむろに右手に指輪をはめ込んだ。
-CONNECT PLEASE-
指輪をはめた右手を腰にある手を模したバックルにかざすと、どこからともなく電子音声とともに巨大な魔法陣が現われた。
「よっ」
その魔法陣に手を突っ込んで引き出す。と、その手にバイクのハンドルが握られ、魔法陣の向こう側からその車体が顕わとなる。
エンジンを噴かせ、数度タイヤを空回りさせてから不思議なフォルムのバイクが走り出した。
・
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「……うん?」
晴人が走り去った後、ワゴンの裏側で荷物を整理していた男がふと違和感に眉をひそめた。
(今の……魔力?)
「どしたの、“まーくん”?」
「あ、いえ何も。というか、その“まーくん”は勘弁してくださいよ。いい年なんですから俺も……」
苦笑しながら、まーくんと呼ばれた男が立ち上がる。
「いーじゃないカワイイんだし。あぁそれより、あなたのトコのお野菜でできた新作よ。試食してみて~」
カワイイと言われてもなぁ……と内心複雑な心境を抱きながら、男は差し出されたドーナツを口にする。
「あ、うまい……!」
「でしょ? ワタシの腕もさることながら、まーくんのお野菜が美味しいからね。これからもよろしく頼むわね♪」
「ええ! ウチの“アニキ農場”、今後ともごひいきに!」
陽に焼けた太い腕をぐっと掲げ、男は白い歯を見せた。
・
・
・
「変身!」
一方、車上の人となった晴人が、左手の指輪を“ベルト”にかざす。
-FLAME PLEASE-
流れ出す音声に合わせるように左手を前方に突き出すと、進行方向に赤い魔法陣が出現し、一瞬にして晴人の体がそれを通過していく。
-HE→! HE→! HE→HE→HE→!!!-
ハイテンションな叫びがベルトから響き、晴人の体を“魔法使い”へと変えた――!
――魔法。それは聖なる力!
――魔法。それは未知への冒険!!
――魔法、そしてそれは……<最後の希望>!!!
NOVELS大戦 FANTASIA~ファンタジア~
前々から企画していたクロスオーバーシリーズ、「VIVIDONESS」に続く第2弾!
これで残るはゴーバス×フォーゼの「OVERDRIVE(仮題」だけになっちゃいましたねぇ。
多分「OVERDRIVE」がこの3作中もっともストーリー展開をしっかり作ってるんですがw
(暗に2作品を見切り発車と言っているようでアレですなw
マジレン、ウィザードともに「魔法」「魔法使い」をモチーフにした作品と言うことで、僕に先立ってモノカキしてる人も何人もいるだろうなぁ……
ネタがかぶらないことを切に祈る。
さて、時間軸がウィザード側なんで、マジレン側は8年後ということですね。
設定年齢上は最年少だった魁ちんも25歳。うわ晴人より年上やんw
とはいえほぼ同世代なので、そーいう感じの(?)からませ方とか出来たらなーなどとなどと。
※2013年4月4日mixi日記初出