「フーム……ユナイテッドサンクチュアリもキナ臭くなってきたもんだなぁ……」
「ただの小競り合いで済みゃいいんだがな」
……うん、たぶん。
「そんなことより……そろそろ出るか」
頭の中身を切り替えつつ、部屋着を脱ぎ捨てる。
クローゼットの奥に仕込んだ隠し扉を開き、化粧直しとしゃれ込むのだ。
「今日も一張羅はパーペキっと」
赤を貴重としたボディースーツを身に纏う。そして――
「変身……ってね」
顔も頭も全てを覆うヘルメット……あるいは、マスクを被り、俺は……いや“私”は、ヒーローになる。
バイト代をつぎ込んで大改修を施したマイルームの隠し扉から表に飛び出し、屋上に上る。外はとうの昔に日が落ちていたが、街から明かりが絶えることはない。まさに、『眠らない街』だ。
吹きすさぶビル風が私の全身を通り過ぎ、首に巻いたマフラーをたなびかせる。
「さて、摩天楼が呼んでいるぜ……」
などと気障りに呟いて、ぱっと両腕を広げる。そのままビルディングの大海にダイブ――
「……できりゃあいいんだけどなァ」
哀しいかな、このコスチュームはただの作り物であるし、中の人の“私”も、所詮ただのヒューマンに過ぎないわけで。
そそくさと階段を伝って下に降りるヒーローなのであった。
エピソード・オブ・ディメンジョンポリス~勇者たちの凱歌~
TURN-1:勇者との出逢い/ヒーローの目醒め
ヒーローコスチュームを纏った“私”が街を行く。
行きかう人々は一瞬こそ注視するものの、さして興味もなさそうに通り過ぎていく。
まぁ、仕方あるまい。
このスターゲートにおいては、こーいう格好をした連中など常にいるのだから。
たとえば、中央部から少しずれたところにある巨大コロシアム。クレイ最大の格闘技集団・ノヴァグラップラーの所属選手にも、ロボットヒーローじみたバトロイドがいるし、実はディメンジョンポリスの秘密捜査官じゃないかって噂のファイターだっている。
私のこの姿は、かつて子供だった頃に思い描いた、ヒーローそのものの姿を具現化したものなのだ。
「……数年分のバイト代を引き換えにしたわけだけどな」
小さく呟く。
子供の頃から、ヒーローにあこがれていた。
……と言えば聞こえはいいのかもしれないが、まぁつまるところ、その憧れを抱えたまま大人になってしまったのが“俺”であり、“私”だ。
端から見ればかなりアレな人だろう、という自覚はないでもない。
まぁ、でも好きだからな。それ以上でも以下でもない。
そんなわけで、こうしてヒーローのカッコをして、街に繰り出してきているわけで。
幸いにして、似たような格好の連中が多くいるから、あんまり目立たないまま現在に至るわけだが。
「……それはそれでちょっと寂しい気もするけどなぁ」
ため息混じりにぼやいた次の瞬間。
「きゃあっ!?」
これは! 女性の絹を裂くが如くの悲鳴!?
声のしたほうへと駆け出す。転んだらしい女性のもとへたどり着き助け起こすと、よろよろと前方を指差す。小走りにかけていく男の背中を示しているようだ。
「私の……バッグ……」
「ひったくりかっ! 貴方はここで待っていて! なぁに、すぐに俺……もとい、“私”が、取り戻してきますからっ!」
言うが早いか地面を蹴る。先も言ったとおり、中の人は所詮ただの【種族:ヒューマン】ではあるが、ヒーローを志してそれなりに鍛えてきた身である。引ったくり程度の走力、物の数ではない。
「うおおおおおおおおおっ!!!」
自己ベストを更新するペースで激走し、引ったくり犯を追い越し、即座に回れ右。
「うおっ!? な、なんだてめーは!?」
「私か……? 見た目どおりの、ヒーローだよ!」
さぁ、今こそ名乗りのとき!
「マスクドポリス……グレンダーッ!!!」
半年かけて鏡の前で特訓した決めポーズが、今まさに悪党の前で炸裂した。
-つづく-
さて、ヴァンガSSも本格的にスタート。
今回、グレード2のユニット「マスクドポリス グレンダー」を物語全体の狂言回し的なポジションに据えて、彼の視点から物語を追いかけていくスタイルをとっておりやす。
シャーロック・ホームズにおけるワトスンみたいなもんだと思っていただければ。
え? なんで彼かって?
俺がDポリユニットで一番好きなキャラだからですが何か?(爆
名前も他人とは思えないしねぇw
難点と言えば、こいつを中心としたデッキを組む際にどうしたもんか、くらいで(滝汗
さてさて。
そのグレンダー、ユニット設定は一応存在するものの、物語を組むに足るほど情報があるわけじゃあないので、かなり二次設定を盛っています。
序盤から匂わせている……というかしっかり言及している(?)「ヒーローにあこがれてるただの人間」というのもその一環。
もっとも、プロローグやユニット設定ではしっかりヒーローしているので、そこにいたるまでの展開も物語の肝になればいいなーなどとなどと。