炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【ヴァンガSS】TURN-1/シーン2

「っぅ……引ったくり犯の割りにはなかなか骨のあるヤツだったな……」

 まぁ、私の敵ではなかったがな。……いろいろ痛いけど。
 ともあれ少々の“おしおき”の後、ひったくり犯はディメンジョンポリスの駐在さんに突き出しておいた。
 取り返したバッグもちゃんと持ち主へと戻ったし、言うことはないな。

「しっかし、スーツが傷だらけだぜ……早く帰って直して……うん?」

 ビルの隙間越し、路地裏へと通じる狭い通路で、何かの影が動いた……ように見えた。

「なんだ、今の……?」

 惑星クレイにおける生き物は、当然ながら我々ヒューマン意外にも多く存在する。ヒューマンそっくりだが魔法の力を扱うエルフ。バトロイドやワーカロイドのような機械生命体や、知性を持った獣・ハイビースト。ユナイテッドサンクチュアリなどには、ドラゴンとかもいるらしいが、残念ながらお目にかかったことはない。
 そして、ここスターゲートにおいてはエイリアンなる種族が存在する。その名の通り、クレイの生まれではない惑星外生命体であるが、多くはクレイに対し友好的で、ノヴァグラップラー所属のファイターとして活躍していたり、ディメンジョンポリスの一員として正義のために戦うものもいる。
 しかし、例外も存在する。いわゆる“怪獣”と呼ばれる生物だ。
 意思の疎通こそある程度できるらしいが、破壊衝動を本能とし暴れまわる連中は、ディメンジョンポリスにとっても討伐対象になっている。

「ひょっとしたら、怪獣の幼生ってやつか……?」

 ネットワーク上で、一時期噂になったある事件を思い出す。
 小さな怪生物を発見した、当時発足したばかりのディメンジョンポリスの捜査戦闘員が、全滅したというものだ。
 その怪生物……いうなれば“幼生獣”は、それ以来姿をくらませているらしい……

「ま、まさかな……」

 きっとハイビーストの子供あたりだろう。と自分に言い聞かせ、それならそれで迷子だろうし、保護しなければならない、と意を決して路地裏へと足を踏み出す。

「……あれ?」

 しかし、裏に回った私の視界に、小さなシルエットは映らない。

「なんだよ、気のせいか?」

 きょろきょろと辺りを見回してみる。如何せんヘルメットのゴーグルは視界が悪いから、粗大ごみの類でも見間違えたのかもしれない。誰も見ていないことを確認して、ヘルメットを外してみるが、肉眼でもそれっぽいものを見つけることはできなかった。

「まぁ、気のせいなら気のせいでいいけどさ」

 迷子の子供はいなかったってことだ。それは悪いことじゃあないだろう。
 正義の味方の仕事は、少ないに越したことはないのだ。

「さて、それじゃ帰……」

 踵を返した私の背後で、ビルが爆ぜる。

「何!?」

 振り向きざまに飛び散ったガラスの破片をいくつか浴びる。ああもう、また傷が増えるじゃないか。

「って、傷のこと心配している場合じゃないか」

 爆風の向こう、摩天楼の明かりに照らされ、巨大なシルエットが対峙しているように見える。やがてビル風に粉塵が吹き飛ばされ、そのシルエットの正体を露にした。

「……な、なんだぁ!?」

 一方は、巨大な体躯を破壊のために振り回すエイリアン……怪獣。
 そして、もう一方は……鋼の身体の巨人……つまり、巨大ロボットであった。

「バトロイドか? いや、だが、見たことないぞこんなタイプは?」

 ひとくちにバトロイドといっても、様々な種類がいる。スターゲートで主流なのは、ノヴァグラップラーに属するライザーシリーズや、街のインフラ整備などで活躍している鋼工機(メタルワーカー)だ。

 そして、目の前で戦う巨大ロボットは、そのいずれとも異なっていた。別の星で建造されたものだろうか?

「ぐぅ……っ」

 と、巨大ロボットのほうが口を利いた。というよりは、苦悶の唸りをあげただけではあるが。見れば、彼(?)の身体のいたるところに大小さまざまな傷が刻まれている。ヒューマンで言う口に相当する部分はマスクで覆われ、その表情を読み取ることはできなかったが、満身創痍であろうことは、雰囲気で察せられた。

「グォォ……」

 今度は相対する怪獣が唸る。ふと熱を感じ見上げると、怪獣の口内が赤く光っているのが見えた。……まずい、これは熱光線による攻撃だ!
 ロボットの方に視線を向ける。ひざを突いたまま微動だにしない。このままじゃあいい的だ。

 やられる。倒される。
 目の前で。

 それは、見たことも聞いたこともない巨大ロボット。
 家族でも友でもない、縁もゆかりもない存在。

「うぉぉぉぉっ!」

 だが、私は――俺は、その前に飛び出す。
 一介のヒューマンが、スケールの違う戦場に飛び出して何ができる? 何になる?

 そんな問いかけが頭をよぎるが、それらを「知るか!」で一蹴する。

「……何っ!?」

 突然の闖入者に、巨大ロボットが驚愕の声を上げたが、振り向いている余裕はない。
 次の瞬間、怪獣の口から強烈な熱光線が放たれ――

 俺の視界も、意識も、すべてがホワイトアウトした。


   -つづく-




 グレンダーが「俺」と「私」を使い分けていますが、原則として、仮面のオンオフで両者を使い分けている、という設定です。
 70年代ヒーローなんかは、変身後の一人称が「私」になるようで、それにあやかっての設定ですね。
 尤も、彼の場合は、一種「演じている」部分があるので、素になると「俺」に戻ってしまいますが。

 作中で紹介された「幼生獣」の一件については、ディメンジョンポリスのユニット「幼生獣 ズィール」を参照のこと。
 ユニット設定などを鑑みると、作中の数年前の事件なので、そろそろ「滅びの瞳事件」も勃発しそうですね(滝汗

 さて、「あ、これ死んだな」的な状況下のグレンダー。
 真紅のヒーローの運命やいかに? 待て次戒!