炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【ラッシュSS】EPISODE BREAKERS/プロローグ


 果たしてポッドから降り立った三人が目撃したのは、視界の全てを埋め尽くす広大なまでの大地と、時折巨大な岩塊に阻まれつつも続く地平線であった。

「ふむ。重力、大気、地質……ともに平穏。天気も上々。まさにハンティング日和……といったところですかね」

 ぐるりとあたりをスポッティングスコープで睨みつける大柄のハンター……リフレクト星人のブラストが呟くと、傍らにいた痩身の男が眼下の地面を睨みつける。

「……気配、近い」

 言葉少なに“ターゲット”の接近を示唆するのは、ケムール人のハンター・ブライだ。その言葉に反応し、バット星人の若き剣士・ザジが一歩前に出た。
 その手には巨大魚怪獣ムルチの姿を模した……否、ムルチそのものが刀身たる怪獣武器(モンス・ウェポン)、<ムルチブレード>が握られている。

「おや……どうしました? 武器転送なしで直接装備とは珍しい」

 彼ら……怪獣ハンターたちは、巨大怪獣を相手取る関係上、どうしても武装自体も巨大化する傾向にある。
 それらを常に携行していくのはそれなりに負担になるため、普段は丸腰で行動し、必要に応じて手元に転送させる……というのが、ハンターたちの定石だ。
 無論、小型の武器を使うハンターはその限りではないし、ヘビーウェポン・ユーザーでも、常時武器を手放さないこだわりの持ち主もいるのだが。

 ザジ自身、もとは後者側ではあったが、便利な機能は使ってこそだと、積極的に転送機能を利用しているハンターの一人である。

「うん……何か、嫌な感じがしてね」

 そんな彼が珍しくハンティング開始前から抱えたムルチブレードの、その刀身を指でなぞりながら呟く。

「今回のハンティングが決まってから、コイツの様子もなんかおかしいんだ」
「相手が同族、心中複雑」
「……だろうね」

 今回のハンティング対象は、ブレードの素材となったムルチの別個体がプラズマ怪獣化したものである。意志ある武器としては、持ち主に多少の抗議もしたくなるのかもしれない。

「でも、この胸騒ぎはそれだけじゃない気も……」
「お話は終わりです。来ますよ!」

 凛と張ったブラストの檄が飛ぶ。平坦だった地面が急速に盛り上がり、間もなく爆ぜる。

「散!」

 吹き上がる粉塵の向こうからプラズマムルチのシルエットが浮かび上がるや否や、ブライは頭部の触手から液体を放ち、自らにかける。刹那にその姿が掻き消え、転瞬、<ナースジャベリン>を構えたブライがザジたちのはるか眼下へと移動していた。

「さすがはケムール人、お仕事が早い。さ、ザジも配置に」
「わかった。あとは作戦通りに……」
「お任せを、ストライカー」

 ブライに続いてザジが下りるのを確認して、ブラスタが武器を受け取る。前回のハンティングで使った<ベロクロンランチャー>ではない、クリスタルのボディがきらびやかなロングバレルのブラスターカノンだ。

「これなら、私の特性を如何なく発揮できましょう……さぁかかってきなさいムルチ。私と、この<プリズ魔グナムライフル>がお相手しましょう」

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「おや、ブラストの武器が前回から変わっていますね? 新作ですか?」
「違うわよ、2個くらい前の作品ね」

 ハンターステーションの中央モニターでザジら<ウェポンブレイカーズ>のハンティングを観戦しているジェントの問いに、チームのハンターリーダー、メイツ星人レディが応えた。

「あの子は重火器のエキスパートだから、いろいろ使ってもらっててね。この間のベロクロンランチャーもその一環。もともと彼と一番相性いいのは、あの武器なのよ」
「……ほう?」
「ま、見ててなさいな。腰抜かすわよぉ?」

 悪戯っぽい笑みを浮かべ、レディが視線をモニターへと戻した。


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「プラズマソウル位置捕捉。トサカ、牙、腕ヒレ……足」
「うん。まずは僕が足を狙う。ブライはトサカを狙いつつ、注意を向けさせて」
「心得た」

 言うが早いか、ブライが一足跳びにムルチの頭へと肉薄する。

「“ファングスラスト”!」

 目の前でナースジャベリンによる槍衾がムルチの視界を引っ掻き回す。

「はあっ!」

 その隙を突き、ザジが振るう大剣が膝のプラズマソウル塊を叩き斬った。

「ひとつっ!」

 攻撃による痛みと、目の前のブライの嫌がらせが、ムルチのこめかみに青筋を立たせる。

「……来ますか。ブライ、離れなさい!」

 反撃に移ると判断したブラストがブライに退避指示を飛ばす。
 突然視界の開けたムルチの眼前には、先ほどからうっとおしかった星人ハンターの姿はない。が、別人が少し離れたところにいるのが見えた。
 相手がいるなら誰でも構わないとばかりに、ムルチの口奥が光を帯びていく。


  ――ギャオォォォッ!


 ムルチの雄叫びが、光線とともに放たれる。その斜線上にいるのは……ブラスト。
 その口元が、にやりと笑った。


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『おおっとお! ムルチの極太光線が、ブラストに直撃だぁぁぁっ!』

 これ以上ないクリティカルヒットぶりに、ステーション内のハンターたちがざわめく。

『もともとリフレクト星人は光線には強い体の持ち主だが……さすがにプラズマ怪獣の光線直撃は……もたないかぁ!?』 

 やや焦り混じりの実況に、レディが一人涼しげな笑顔を浮かべた。


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「ぐっ……やはりプラズマ怪獣の光線は一味違いますか……しかし!」

 小さくうめき声をあげながら握ったライフルのモニターをチェックする。ブラストの視界に、充填率120%のメッセージが飛び込んだ。

「その分、お返しも強烈ですよ……。受けなさい、“リフレクトバースト”!!!」

 トリガーを引く。リフレクト星人特有の光線を反射する体表が、プリズ魔グナムバスターライフルにエネルギーを送り込み、凝縮されたビームが威力を増してムルチの光線を押し返した。面に対する点が如く、砲の一撃が光線を裂き、ムルチの口腔……牙に直撃する。

「よし!」

 砕ける牙のプラズマソウルを見上げ、ザジがぐっと拳を握った。

「……ストライカー」

 と、様子を見ていたブライが声をかける。「どうした?」と聞き返すザジに、ムルチの様子がおかしいことを告げた。

「動き方、奇妙」
「むぅ……確かに、出てきた時も、どことなく逃げているようにも感じられましたが……」
「逃げてる? プラズマ怪獣が……何から?」

 ブラストの元に戻るザジとブライ。怒りを超えるダメージを受けたからか、先ほどよりは幾分冷静さを取り戻したらしいムルチが、あたりをきょろきょろと見渡している。その視界に、3人の姿は入っていない。

「プラズマ怪獣は並の怪獣では歯が立ちません。そのプラズマ怪獣が恐れるものとすれば……」
「同じ、プラズマ怪獣」

 ぞくり、とザジの背中を冷たいものが走る。
 腕利きのハンターとて、2体のプラズマ怪獣を同時に相手どるのはかなり危険である。ハンティングの中止も検討しようかと思案したそのとき、彼らの周囲を飛んでいたハンターボールが警報を発した。

「センサーに感あり! もう一体……来ます!」

 再び地面が爆裂し、周囲が粉塵に包まれる。刹那、断末魔もかくやの絶叫が星の大気を震わせ、絞り出した吐息が、粉塵を吹き払う。

「な……に……?」
「一撃……」

 ムルチの腹からは背から突き刺さったであろうプラズマソウルの爪が三本、飛び出している。その爪がやおらに振り上げられ、ムルチの巨体はあっというまに半分に切り裂かれてしまった。
 その爪の持ち主たる怪獣……否、<超獣>が、ムルチの身体から生えたプラズマソウルを喰らい尽くし、吼える。

「蛾超獣……ドラゴリー……」

 誰ともなしにその名を呟いたザジの手の中で、ムルチブレードが、あるいは哭いているかのように震えた。




    ULTRA FRONTIER EXTRA -EPISODE BREAKERS-

    MULTI HUNTI……→DRAGORY HUNTING






 あけましておめでとうございます(遅


 さて、2015年モノカキ1発目。つまるところの「書初め」は、最近二次創作題材の一つに加わった「大怪獣ラッシュ・ウルトラフロンティア」より。
 まぁ原典キャラがほぼほぼ出て来ない、世界観借りてるだけ状態ですがねー(

 マイミク・レオ女史よりアイディアを戴いたメイツ星人の女ハンターリーダー・レディを中心にした、怪獣武器使いのウェポンブレイカーズ
 前回、ちょいと顔みせ程度のSSを執筆して、今回はいよいよハンティング描写に挑戦。

 ゲーム版も一応意識はしていますが、主にはやはりCGムービー版準拠の部分が多いでしょうかね。
 武装転送の描写とかはゲームにはないですし。


 さて次回。
 伝統の「ムルチ三枚おろし」(違)を見せつけたプラズマドラゴリー。
 その圧倒的なパワーに、一時は怯むウェポンブレイカーズであったが、彼らに撤退の二文字はない。
 そんなさなか、ザジの持つムルチブレードに異変が……!?