「ふむ…なるほど」
竜姫亭に戻った僕たちは、オヤカタの体をプロメスに見てもらっていた。
「でもどうして葬儀屋に?」
マイコの疑問も尤もである。
竜姫亭には医者がいない(からこそ先日のフランの発熱は騒ぎになったのだが)ので、医者の次に人体に精通しているだろう、というわけで葬儀屋たるプロメスに白羽の矢が立ったわけだ。
「オヤカタ様の傷を治療したのは、ビアンカ様でしたね」
「あ、はい」
「失礼ですが…貴女様は、人の身体の仕組みについてどれだけご存知なのでしょうか」
プロメスの見立てによると、オヤカタの足の腱は大きく断裂したまま傷口が塞がっているのだという。恐らく、さきのユピテルとの戦いの折に受けた重傷を、全回復呪文で癒した時のものなのだろう。
「仕組みなんて…知りません」
ビアンカがぽつりと漏らす。
「私がこの身に得た精霊神様の奇跡…それさえあればどんな傷も立ち所に塞がり、どんな病も須く癒やす…私は、そう教わり、そう信じてきました」
ゆえに医学的な知識は必要ないのだと、ビアンカは言う。
目を伏せているのは、そう信じて来たはずの奇跡が、オヤカタの身に起きていない事実を目の当たりにしているからだろう。
「…結論から言いますと」
オヤカタはもう、戦士としては戦えない。
プロメスは淡々と、そう告げた。
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「…気を落とすでないよ、ビアンカ嬢ちゃん」
「何であなたが慰めるんですか…」
オヤカタの大きな手が、ビアンカの頭をわしわしと撫でる。
「ワシは元々戦士じゃあない。ただの鍛冶屋よ。戦えずとも生きとるだけで丸儲けじゃわい」
幸いにして…と言うべきか、戦士としての体の動かし方はできなくなったオヤカタだったが、本職である鍛冶師としては遜色なく動けることがわかった。
「確かに、もうお前さんらと一緒に冒険できんのはちと寂しくはあるがな」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか、相棒」
オヌシにそう呼ばれるのも久方ぶりじゃのう、とノアルの背をばしばしと叩く。
「ワシにとって、この地はまだまだ離れ難い。ほれ、例の“三至宝”とやらの一つたる魔剣も、まだ目の当たりにしとらんしな」
戦えなくなっても、オヤカタは竜姫亭を出る気はさらさらなかったらしい。
「実は前々から、武器屋のカッスル坊の手伝いをしとってな。いい機会じゃから、そのままあやつの店に厄介になろうと思っとる」
なるほど、それはいい考えだ。
「いや、勝手に決めてんじゃねえよ!」
通りがかったカッスルが突っ込みつつ、「まぁ、ダメとは言わねえけどな」と鼻の頭をかいていた。
「…私、もっと勉強します」
スカートの裾をぎゅっと握り締めながら、ビアンカが呟く。
「本当の意味で人を癒すと言うことを…私はもっと知りたい。ううん、知らなきゃいけないんです。オヤカタさんのためにも…これからも、皆さんと一緒に行くためにも」
「…おう、頑張れよ」
もう一度、オヤカタがビアンカを撫でる。大きな手の下で、ミグミィの少女は泣き笑いの表情を浮かべていた。
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「しかし、ここで前衛が一人抜けるのは痛いな…」
ノアルが誰ともなしに呟く。これまで危なげなく戦ってこれたのは、やはりオヤカタの存在が大きいのだ。
「管理人さんに、前衛を紹介してもらう?」
「しかし、オヤカタの穴を埋められるほどの奴なんてそうそういないぞ?」
うーむ、どうしたものか…
『…お父様、何か困り事?』
いつの間にか背後にいた双子に、袖を引っ張られた。
−つづく−
というわけでオヤカタを外して、次回ダンジョンアタックからマキナがパーティー入りします。
ゲーム上では、「引っ越し」でオヤカタが郊外に出てマキナが竜姫亭の部屋に入る形ですね。
作劇上は、オヤカタはカッスルの店で寝泊まりする形になります。男臭そう(ひどい