「それで、あの子たちリーダーの部屋でお留守番してるの?」
もうすっかり慣れ親しんだグリモダール城内で、マイコが僕に問いかける。
「あの錬金術師殿と共にこの城で戦っていたというなら、良い戦力になるだろうにねぇ」
まぁ、パーティーとして同時に行動できるのは5人までって制約もあるし。それに…
「それに?」
あの子たちは壊れるまでずっと戦い続けてきたんだ。戦うだけがあの子たちの生き方じゃないと思うしね。
「とはいえ、竜姫亭で何もしないわけにもいくまい。あの管理人、双子の分の家賃まで毟り取りかねんぞ?」
オヤカタの言い分ももっともだ。ピーネの手伝いとして、使用人として雇って貰えないか交渉してみようかな。
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「これはこれは救い主様!」
礼拝区画にいるシャーク教の司祭に、プロメスに作ってもらった薬を渡す。見る間にシャーク様は元気になり、僕たちの前に姿を見せた…
…サメ…じゃあ…ないよねぇ…?
「さて、救い主様にはお礼をしなければ…」
と、司祭はなにやら機械の部品のようなものを手渡した。
「ほう…これは」
わかるのオヤカタ?
「城の入り口近くに、動かせなんだ昇降機があったじゃろ。これはそのパーツじゃ」
なるほど、これを使えば…
「うむ、次なる階層へ向かえるぞい」
司祭曰く、彼ら教団の信者たちは、シャーク様のためこの城をしらみつぶしに調べ尽くしたとのことだ。また行き詰まったら、彼らに話を聞いてみるのもいいだろう。
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司祭から貰ったパーツを組み込みいざ動かそうとした矢先、魔物が大量に湧いて出て来た。
「おうおう、元気じゃのう…どれワシがちょいと揉んでやろうかい!」
と意気込むオヤカタの体勢が、突然崩れた。
「ぬぅおぉっ!?」
「オヤカタ!?」
派手に躓きすっ転んだオヤカタを、ノアルが助け起こす。
魔物の群れを、咄嗟に召喚したマルスで蹴散らして、その場は収まった。
「おいおい、急にどうした?何もないところで転ぶほど、トシでもないだろう?」
ノアル曰く、オヤカタは90代らしい。人間でいえば30代くらいだそうだが。
「む…すまんすまん。ちょっと力が入らんかってな」
「怪我でもしたんじゃないか?ビアンカ、回復してやってくれ」
ノアルに促されてビアンカが回復呪文を唱えるが…
「あれ?オヤカタさん、怪我なんてしていませんよ?」
「うん?じゃあなにかしらの不具合でもあるか?毒とか麻痺とか」
ええと…と、今度は治癒呪文を使って…首を横に振った。
「心配は無用じゃよ、ちょっと調子が出なんだだけじゃわい。ほれ若、昇降機に乗ろうぞ」
う、うん…
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…しかし、オヤカタの不調はそこで終わらなかった。
昇降機を使って降りた先でも…
「ホーリーチャー…のわっ!?」
「切り込…ぐはっ!」
「ワイルドスイ…あんぎゃああああ」
攻撃を仕掛けようとするたびに身体があらぬ方向へ転がっていく。
「む、むぅ…」
…今日の探索はここまでにしよう。
「それが良さそうね」
「む、しかし若…」
本調子が出せないんじゃ、下手したら命取りだよ。原因もここじゃわからないし、竜姫亭に戻って調べてもらおう。
オヤカタが不承不承にうなづくのを確認して、僕は帰還呪文を唱えた。
−つづく−
マキナ加入に伴う、交代イベント的な感じで。
本来ゲーム的に、ケガの後遺症みたいなものが反映されることはないんですが(あっても困るが)、自然の摂理に反する…あるいは強引に摂理を引き寄せるような現象である魔法を行使することって、あるいはこういうことなのかも…?