リーダーからジェムの補充を頼まれて、道具屋に向かう。
「えーっと…次は基本その3ね」
と、すぐそばの管理人室の扉の向こうで何やら聞こえる…誰かと会話してるのかしら?
いや、なんか良からぬこと企んでるかも知れない…急に家賃上げたりとか。あの女ならしそうだし。
現場を抑えるべく、気配を殺して扉に張り付き…耳をそば立てて…
「…え、えへっ♪おかえりなさい♪ 」
…は?
「今日も一日ご苦労様♪ お風呂にする?ご飯にする?」
何この音符マークが飛び交ってるような口調の管理人は…
「そ、それとも…」
と言いかけて大きな物音。大方恥ずかしさに悶絶してるのだろう…なにやってんだか。
「こんな台詞を言ってると、口から真っ黒い炎を噴き出しそう!」
…そう言う時は“顔から火が出そう”って言うのよ。
「うっひゃあ!?」
わたしという闖入者に、管理人が盛大に仰け反った。
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…何やってたのよ。
「…ちょっと、ね」
ようやく落ち着いた管理人が、ピーネの持ってきたお茶を一口啜る。買い物に戻ろうと彼女に背を向けると、袖を摘まれた。
「…せっかくだから、少しお話ししない?ピーネにお茶を追加でお願いしてるの」
…まぁ、いいけど。
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「…貴女が、羨ましい」
そんなことを言われる。羨ましい?あなたが?わたしを?
「ええ。貴女はいつも、彼といっしょに冒険できて…ずっとそばにいられるじゃない。私は…ここで、彼や貴女たちの帰りを待つ事しかできないんだもの」
闇の大天使ソルの復活を阻止するため、デモンを狩ることをリーダーに託している管理人。その戦いが激化する中、ルナという新たなデモンまで現れた。
「もし彼が…もう戦いたくないと言うなら、私はそれを尊重したいと思ってる」
…言うわけないわよ。
「うん、わかってる。でも私は…彼に傷ついてほしくないの」
…勝手ね。いつか、ローナさんの事を引き合いに出してまでリーダーを戦いに向かわせたのはどこの誰だっけ?
「…それは…うん」
ごめんなさい、と謝られた。…あなたが頭を下げるなんてね。
「あら、私だって非を認めれば謝るくらいはするわよ」
膨れっ面になった管理人と目が合い…やがて二人してぷっと噴き出した。
「ふふっ…いつか私の頬を張った貴女と、こうやって笑う日が来るなんてね」
本当…ねぇ、管理人さん。
「フランでいいわよ。何?」
貴女は、わたしのことを羨ましいって言ったけれど、わたしだって貴女が羨ましい。
「え?」
竜姫亭は、リーダーにとって家だもの。毎日帰りを出迎えてくれる貴女の顔を見る…ずっと気を張る迷宮探索をしてるリーダーが、一番気が休まる瞬間じゃない?
「そう…かな?」
そうよ。だって、わたしだって…なんだかんだ、家賃むしり取りにくる貴女の顔を見たら、帰ってきたなぁって思うもの。
「…言い方」
…ふふっ。
「お茶、冷めちゃったわね。ピーネに淹れ直して貰おうかしら」
あ、じゃあわたしやるわ。そのまま大広間で続きしましょ?
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二人で談笑しながら降りてくると、大広間には先客がいた。リーダーと…武器屋?
「俺が甘かったんだよ。あのお袋のことだから、きっとどっかで生きてる…いや、生きててほしい…なんてな」
武器屋のお母さん…ルル…いや、ルナの事だ。
「それがどうだよ。生きてるどころか…デモンになっちまいやがって…!」
アホらしくて涙も出ねえや。と武器屋がやおら酒瓶を呷った。
「…ひとつ言っとくがな。あいつに…お袋にとどめを刺すのは、この俺だからな」
たとえデモンになっても母親であることに変わりはない。デモンゲイザーでもそれだけは譲れないのだ。
「…無茶だよ。死ぬ気なのカッスル?」
「だからどうした。てめえの知ったこっちゃねえだろ」
武器屋がおもむろにリーダーの胸ぐらをつかむ。
「ちょっと!こんな所で喧嘩しないのっ!」
そこへフランが割って入った。
「…ちっ」
武器屋は舌打ちをひとつして「さっき言ったこと、忘れんなよ」とリーダーに釘を刺し…酔っているのかふらつきながら店に戻って行った。
「…ごめんね、変なとこ見せちゃって」
「気にしないでいいわよ。カッスルだって色々思うことはあるでしょうし」
武器屋につかまれて乱れた胸元を直しながら、フランがそう言った。
「気分変えない?今からマイコとお茶会の続きするの」
「いいけど…二人ともいつの間に仲良くなったの?」
…ふふっ。内緒♪
−つづく−
フランのイベントは、本来44日目(ヴィーナス撃破後)のものですが、ルナの初登場と被ってるのと、うちのマイコとのわだかまりをそろそろ解きたかったのでちょっとズラしてアレンジ。
ついでにやさぐれカッスルもくみこんでみました。
さて、アストロ本戦は50日目で行けるといいなぁ…