「すみません、お呼びだてして」
聖剣の再盟約の余韻もそこそこに、プロメスに呼び止められた僕は地下室にやってきていた。
「まずは改めて…クエーサーの討伐、お疲れ様でした。話を聞く限り、まだ力が完全ではなかった様子…仕掛けて正解でした。報せてくれたエリスには感謝ですね」
うん。でも…
「ふむ、再びまみえよう。そう言ったのですか」
クエーサーは完全には倒せていないってことかな?
「そうですね…もとよりあの者は時のくびきの外側にいる者。今回倒されたでしばらく表には出てこないでしょうが、いずれ再びその力を取り戻すのは間違い無いでしょう…」
それが数年後か、はたまた数百年後のことになるかはわかりませんが…とプロメスがため息をつく。どうやら今回倒したのは、問題の先送りにしかならなかったようだ。
「方法がないわけではありません」
クエーサーを完全に倒す方法かい?
「ええ。しかし、そのためにはこちらも世界の理から外れる必要があります」
だ、大丈夫なのそれ…?
「デモンゲイザーたるあなたであればあるいは。少々ルール違反にはなりますが」
と、プロメスは「クエーサーを倒した時、何かを拾いませんでしか?」と聞いた。それなら…この砂時計が。
「ええ、それです。それは究極の魔力が込められた聖遺物…時を遡る力を有しているのです」
時を…?
「はい。この砂時計を倒すと…倒した者の生まれた瞬間にまで時を巻き戻すことができるのです」
それってつまり…
「ええ、あなたの場合は、テラからあなたとしての自我が芽生えた瞬間…この館に来た時まで巻き戻ることになるでしょう。即ち、この館で起きた出来事をもう一度繰り返すことができるようになるのです」
…それは、確かに“ルール違反”だなぁ。今までのこと全てが元に戻るの?
「本来であれば、いかなる知識、経験、持ち物も持ってはいけませんが…そこはわたしの力でできる限りどうにかしてみましょう」
ただ…と口を噤む。
「あなた以外の者の記憶については、全て戻ることになると思います」
つまり、ここで育んできた仲間たちとの絆はリセットされるのだという。
「再び同じ仲間たちが集まるという保証はありません。例外的に、あの双子たちはあなたの魔力によって起動していますので、そのまま着いて来れるでしょう」
そう、か…
マイコにも、会えないかもしれないんだ…フランも…僕のことを覚えていない…
「あともうひとつ。あなたにとってはとても残酷な話をしますが…」
うん?
「時の戻った先では、この館で起きたすべての事柄がもれなく再現されます。それは…ローナさんのことも同様です」
それは…!
「はい。あの結末を覆すことは、絶対にできません。それだけは心しておいてください」
…そう、か。
「…砂時計を倒すかどうかは、あなたにお任せします。クエーサーを倒し切ることはできなくとも、少なくとも止めることはできるのですから」
プロメスはそう言って、眼を閉じた。
−つづく−
所謂「二周目」への流れというやつですね。二周目以降にこういった意味を持たせる作品って非常に珍しいのでは?
次回、クライマックス!