クエーサーを倒し、竜姫亭に戻ると、館の仲間たちが出迎えてくれた。
…上機嫌なフランから、今日の家賃を免除すると言われると、一転して恨めしそうな顔になったが。
ともかく、クエーサーを倒したことでこの地にも平穏な日々が始まるだろう。
「まだまだ大変なことは多いけど、きっとここは素晴らしい街になる…今なら自信を持ってそう言えるわ」
そう言うフランの横顔は、今までにみたことのないくらい晴れやかなものだった。
・
・
・
「聖剣の盟約が?」
メンバーと別れ、管理人室でクエーサーとの戦いの中に発生したアクシデントを報告する。
「…本当ね、今にも解けてしまいそうなくらい、曖昧になってしまっている」
デモンスレインの刀身は、いよいよ色味がくすみだしていた。このままでは元の魔剣に戻ってしまうのも時間の問題だろう。
「…で、あろうな」
凛とした声と共に、懐の鍵からエリスが顕現する。
「ペイデの娘よ。いかにドラゴンであろうと、お主は正式に竜王の座を継いでおらぬ。ゆえに聖剣の盟約は不完全であったのじゃよ」
「そう…やはりまだ一人前には遠いってことね」
フランが小さくため息をつく。
「まぁ、話は最後まで聞きませい。ならば盟約を再度結べば良いだけの話。じゃろう?」
随分と簡単に言うエリスである。
「実際簡単じゃよ。ペイデの娘よ、そなた我がデモンゲイザーと良い仲なのじゃろう?」
「よ、良い仲って…ま、まぁ悪くはないけれど…」
途端にもじもじしだすフラン。
「そなたらが男女の仲なのであればこれ以上ない盟約があろうぞ?」
それって…
「…結婚、ってことよね?」
勢いよく管理人室の扉が開き、こめかみに青筋を立てたマイコがゆらりと現れた。
「フーラーンー…なぁにこれは…?」
そう言って突きつけるのは、神々のエデンを探索したときにサークルから拾った封書だ。
「何よ結婚式の招待状って!誰と!?誰の!?」
「え、ええと…私と…彼の…」
え、ええっ?ちょ、聞いてないよそんなの?
「わたしだって聞いてないわよッ!」
「そ、そんなに怒らないでよ…別に抜け駆けしようとか、そう言うのじゃなくってね…」
「勝手に結婚式の段取り決めてることのどこが抜け駆けじゃないって言うの!?」
ぬ、抜け駆けってなんの話…?
「おや、なんじゃ我がデモンゲイザー、気づいておらなかったのか?そこのネイの小娘がそなたを男として好いておることに」
「わーっ!わーっ!!」
エリスのあっけらかんとした言葉を慌てて遮ろうとするマイコだけれど…まぁしっかり聞こえてたわけで…
「…そうよ!わたしはリーダーのこと好きなの…悪い?」
いや。悪くはっていうか…うん、嬉しいよ。ありがとう。
「……うん」
耳まで真っ赤になって、マイコが黙り込んでしまった。
「マイコ、招待状の中身ちゃんと読んだ?」
「え、いや、ちゃんとは…」
フランに促され、マイコが封を解いて中を見る。すると、今度は耳のみならず全身が真っ赤になって…
「わ、わた…わた…し…も…!!?」
「ええ、そうよ。私たち、3人で結婚するの!」
ええーっ!!?
「なによそんなに驚いて…私たちと結婚するのがイヤなの?」
い、いや嫌ってわけじゃないけど…2人はそれでいいの?
「もちろん!」
「…まぁ、リーダーがいいって言うなら」
対照的な2人の反応に、今度は僕が真っ赤になる番だった。
・
・
・
「…さて、話を元に戻すがな」
エリス曰く、結婚という絆を基盤とした盟約で上書きすることで、聖剣の盟約はより強固なものになるらしい。
「そなたは大天使ソル、そしてクエーサーを倒した文字通りの光の勇者。聖剣もしっかりした物を持たねばハクがつかぬと言うものよ」
なるほど…どう、出来そうかなフラン?
「うん…理論上は不可能じゃないと思う。ただ…」
ただ?
「それをなすために、探して欲しいものがいくつかあるわね」
「探して欲しいもの?」
彼女が言うには、以前この竜姫亭を立ち上げていた際、ドサクサに紛れて彼女の身の回りの持ち物が魔物に持ち去られてしまったのだという。
「どれも強い魔力を秘めたものだから…それらを身につけないと、盟約の重ねがけは難しいと思う」
フランの身の回りの物か…
「あ、それって…」
「マイコ、心当たりが?」
「ええ、確か倉庫に…ちょっと待ってて」
風のようにしなやかな体躯が階段を駆け下り、一呼吸しないうちに戻ってきた。
「フラン、これじゃない?」
「え、ええと…あ、うん!全部ある!すごいじゃない!いつの間に?」
ああ、多分神々のエデンの攻略中に拾ったやつかな。全部片っ端から倉庫に入れてたから気づかなかったや。
「ズボラねぇ…まぁ、なんにせよこれで…」
早速身につけようと、フランが服の裾に手をかける。
「わ、ちょっとリーダー!一旦出て!」
・
・
・
「…どうかしら?」
着替えたフランに呼ばれ、部屋に戻ると、頬を桃色に染めた彼女と目が合った。神界の鉱物や植物から生み出されたと言うフランの真なる衣装は、彼女がしばしば纏っていた鎧のように純白の…まるでウエディングドレスのような装いだった。
「ほら、何か言ってあげなさいよ」
マイコに促され、我にかえる。うん…凄く…綺麗だ。
「ふふっ、なーんか言わされた感あるけど…ま、良しとしましょうか」
照れ臭そうに微笑んで、フランと僕、そしてマイコは、聖剣を挟んで向かい合う。
「…では僭越ながら私が司祭の役をさせていただきましょう」
プロメスが唐突に顔を出した。
「汝、魔を見つめる心優しき勇者よ。あなたは今、神の導きにおいて、この女性二人と夫婦になろうとしています」
改めて言われるとすごいことだな…
「汝、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときもこれを愛し敬い、慰め遣え、共に助け合い…その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
…は、はい。誓います
「汝、真白き竜の姫フラン・ペンドールよ。そして汝、気高き達人の魂を宿す少女マイコ・ビャクレンよ。…以下同文」
「ちょっと!」
「失礼。長かったもので…ともかく、その命ある限り愛し合い真心を尽くすことを誓いますか?」
「…ええ、誓うわ」
「誓います」
3人の両手をお互いに繋ぐ。ほどなくデモンスレインの刀身が再び輝き出した。
「…今ここに、フラン・ペンドールの名の下、聖剣に新たなる盟約を刻む。人と竜の絆…愛という名の盟約において、蘇りなさい、盟約の聖剣よ!」
一際大きな輝きが僕たちの眼を衝き、一瞬視線が途切れる。次に眼を開けたとき、僕の手に握られていたのは…
「…【エクスブランド】。真なる盟約の聖剣よ」
──大切に使って頂戴ね。ダーリン❤️
そう言ってフランが微笑んだ。
−つづく−
ちょっと長々書いちゃいましたが、エクスブランド入手イベがあっさり過ぎたので味付けをば。
まさかデモンスレインにはあったビジュアルすらないとは思わんじゃん?まぁ、本編外のイベントにそこまで労力割けんのかもしれんけども。
さて、あとは2週目に向けて。ラストシーンは間近ですわよ!