「…なんだまだ起きてたのかよ、アノン」
今日の分の塔探索を終えて、夜。
寝静まった勇者ギルドの大広間に、あっけらかんとした声が響いた。
「お前に言われたかねーよ。つかお前朝弱いンだからとっとと寝とけ」
1週間以上行動を共にしているが、朝の食事兼ミーティングの時間の集合はキリクが一番遅い。こんな体たらくでよくオレやウールを寝汚いとか言えたもんである。
「し、しょーがねえだろ?明日はもう一回魔王に挑むんだ。仮にも一度殺された相手と顔を合わせるって思ったら寝付けなくて」
「…一度、ね」
「あん?」
「いや、何でもねえよ。しかし存外お前さんも繊細なんだな」
軽く揶揄ってやると、キリクが顔を真っ赤にして「う、うっせー!」と噛み付いた。
「って、アンタはアンタで何やってんの?」
「明日に向けての色々をな。今日までの探索で得た装備の配分とか、戦略をだな…ってなんだよニヤニヤして」
「なんだぁ、オマエ?さんざん『仲間にはならねぇ』とか『ただの協力関係』とか言っときながら結構アタシらのこと考えてんじゃん」
今度はオレの方が「うっせー」と吠える番だった。
「オレだって何度も何度も死にたくねえしな。ここであの手羽先野郎をぶっちめて奴の持ってるって言う秘宝を分捕る。そそてオレはそいつの力でとっととこの国をおさらばする。これはそのための必要な事だ」
「そう都合よくいくかねぇ?その秘宝がどんな力があるのかもわかんねーのにさ」
「こんなファンタジー極まりねえ世界の秘宝とやらだぜ?奇跡を起こすくれーの力は持っててそうだろ?」
と言うか持っててくれ的な願望でもあるが。
「そっか。やっぱアンタは帰りたいんだな」
「ずっとそう言ってんだろーが。ま、それまではせいぜいお前らにも協力はしてやるさ」
「協力するってんならアタシらが目的果たすまで付き合ってくれてもいいんじゃね?」
「そこまでの義理ゃねーだろ。オレが目的果たして帰るまでって契約のはずだぜ?」
キリクがあからさまに不機嫌な顔になる。
「まあ安心しろ。オレらで魔王を倒したって話が出回りゃ、他の勇者連中もお前らのことは放っておかねえさ。また新しい仲間に加えてもらえるだろうよ」
「…そんなもんいらねーよ」
「あん?」
「…なんでもない。寝る」
踵を返すキリクを呼び止める。
「眠れねーからここにいんだろ?ついでだ、付き合え」
「うえっ!?つ、付き合えって…」
「オレは明日にでもいなくなるからな。お前に色々叩き込んどいてやる。指示の出し方作戦の立て方…ま、リーダーを自称するからには必須科目だな。ほれ座れ、お勉強の時間だぜ?」
渋るキリクを無理やり座らせて、さっきまとめていた資料を積んでみせる。地図の書き方、属性の相性、その他もろもろ…学ぶことは山のようにある。
「今夜は…寝かせねえぜ?」
「いーやー!!!?」
-つづく-
特に進展の大きくない探索時はこーやって日常回(?)やるのがいいねー。
デモンゲイズ2のリプレイでも取り入れてみようかしら。
次回、予定通り10日目のアタックにてフレイ戦でございます。