翌朝。公民館の前で、ブルーベリー学園の子たちと顔合わせ。
改めてキタカミの姉弟…ゼイユさんとスグリくんの名前を知る。自己紹介の時に思い切り明るく名乗ったゼイユさんだけど…その本性は昨日戦ったぼくはよーく知っているわけで…
(…なによ?いらないこと言ったらひどいわよ!?)
チラっと見ただけなのに物凄い眼光で睨みつけられた。
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林間学校の課題はオリエンテーリングだそうだ。
ここキタカミの里に設置されている、昔話が記された看板をめぐるというもの。二人一組でチームを組んで、3つの看板の写真を撮ればクリア…なるほど。
さて、それじゃあ誰と組もうか。地元の子と組んだ方が難易度は下がりそうだけど…
「…あ、あのさ」
と、服を引っ張る感触に視線を向けると、キタカミ姉弟の弟くんの方だった。
「ええと…スグリくん、だっけ?」
「うひゃっ、なんで名前…?」
「いやさっき自己紹介したじゃない」
「あ、そ、そそそう、じゃった…」
うつむいてボソボソと口ごもるスグリくんに、後ろからゼイユさんが肘でこづく。
「ふふっ…昨日からスグ、あんたに夢中なのよ。かっこいい!ってさ」
家でもずっとぼくのことを話題にしていたらしい。なんか恥ずかしいなぁ…
「ほら、自分で言うんじゃなかったの?」
「うぅ…」
何の話?
「ああもう、あたしが言っちゃうけどさ。あんた弟と勝負してやってよ」
「ポケモンバトル?」
いいよ。とうなずくと、スグリくんがぱっと表情を明るくした。
「わ、わやじゃ!…い、いいの?」
「もちろん!」
位置について、対戦準備を整える。
「お、おれ…けっぱるね! いけ、オタチ!」
「進化して最初のデビュー戦だ…かっこいいとこ見せてね、ニャローテ!」
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ゼイユさんいわく、自分の次くらいに強いらしいスグリくんは、実際なかなかに手ごわかった。警戒して最初から全力だしておかなかったら危なかったかも。
「やっぱ、わやじゃ!きみ、めっちゃ強い!」
ねーちゃんよか強いかも?と興奮気味に言うスグリくんを、ゼイユさんが「あのときは調子悪かっただけなんだからねッ!」と睨みつけていた。
「…あ、そうだ。オリエンテーリングさ、二人で組むじゃない。あんた、スグと組んでやってよ」
と、手を叩いてゼイユさんが提案する。
「うえぇっ!? だ、ダメだよねーちゃん!」
「なんでよ。あたしと組んでも意味ないし、スグはこいつ以外とペア組める?」
「それは…うぅ」
じゃ、決まり。とゼイユさんがスグリくんを押し付ける。まぁ、ぼくはかまわないけど…
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スグリくん…あ、ゼイユから「なんかムズムズするから呼び捨て!スグもね!」って言われたんだっけ…スグリから、ともっこプラザというところにある看板から回るといいと教えてもらったので、二人で進む。
「スグリが最初に出したポケモン…オタチだっけ?キタカミにもいるんだね」
「知ってるの?」
「うん。ぼく、ジョウトのほうからパルデアに越してきたから。かわいいよね」
「ん!でしょ!?」
ともっこプラザに行くまでの道中にも出てくるらしい。あとでゲットしよう!
「そ、そういえばきみの名前…【ヒイロ】…ってキタカミの言葉に響きが似てるな?」
「そう? 父さんが自分の生まれたとこの言葉からつけたって聞いたことがあるけど…キタカミ出身なのかも?」
聞いたことは無いけど。
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途中リンゴ農家のおじさんにリンゴを分けてもらい、二人でかじりながら坂道を上ると、ようやくともっこプラザに到着した。
「ほら、あれ、看板」
入り口に入ってすぐ建てられた看板には、キタカミに伝わる昔話が記されていた。
──昔むかし、キタカミに恐ろしい鬼が棲んでいた。あるとき、村に現れて大暴れする鬼を、偶然いあわせていた3匹のポケモンが命がけで戦い、それを追い払ったのだという。
その3匹…キタカミの人々からは【ともっこさま】と呼ばれたポケモンたちはそこで命を落としてしまうが、村の人々に丁重に葬られた──という内容だ。
ちなみに、その葬られた場所には石像が建てられているようだ。看板が立っている向こう側に首を伸ばすと、古びたお社のようなものが見えた。
「な、な、鬼さまってかっこいいよな!」
興奮したように、スグリが話しかける。そ、そう…?
「だって、鬼さまは仲間もいないのにひとりで複数の敵を相手したの、わやかっこいいべ!」
スグリは悪役に感情移入するタイプなのかもしれない。そういえばジョウトにいた頃も、『怪傑グライガー』の主役ヒーローより敵の怪人がかっこいい!って言ってる友達はいたっけ。ほとんどはみんな怪人が怖いって言うけど。ぼくもそうだし。
「怖がらなくても平気。おれさ、小さいころ何度も鬼さまに会いにひとりで山さ入ったけど…全然会えなかったもん」
大人に怒られただけだった。と肩を落としてスグリがボヤいた。
「ん…えっと、看板と写真撮るんだっけ」
思い出したように言って、スグリが笑顔を作って見せる。彼はスマホロトムを持っていないようなので、ぼくのを使って。
「あ、ニャオハのケースなんだ。かわいいね」
「でしょ? さ、撮るよ…」
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「おれ、林間学校とか、そういうの本当はやりたくなかったけど…ちょっと楽しい、かも」
看板と一緒に撮った写真を眺めて、スグリがふふっと笑った。
「里の自然、歩けるし。ヒイロとなら…話せるし」
初対面の時より、距離が近くなったみたいだ。アカデミーの友達はだいたい年上だから、年の近い友達ができたのはちょっと嬉しいかも。
「よ、よかったらいっしょに、ピクニックとか、サンドイッチ…食べたり、とか…どひゃ!」
スグリの言葉に反応して、モンスターボールから勝手にコライドンが飛び出してくる。
「な、何だ!?…か、怪獣!?」
「はは…ぼくのライドポケモンだよ。コライドンっていうんだ」
「コライ…ドン?ライドポケモン?こんなポケモンっこ、今まで見たことねー…」
サンドイッチという言葉に反応したことを知って、スグリは怪訝そうにコライドンの顔を覗き込む。
「こんなわやなポケモンっこさ、会えるなんてすごい…!」
「そう?」
確かに不思議なポケモンだけど、ポケモンってだいたい不思議な生き物ってイメージがあるからなぁ…
「ヒイロは………なんだ…だから…………」
目を伏せてぶつぶつ言うスグリの言葉は、興奮してるコライドンの鼻息でうまく聞き取れなかった。
-つづく-
林間学校本番! 原典だと別行動、というか後ろからこっそりついてくるというスタンスのスグリくんですが、それだとつまらんので同行してもらって会話増やしてます。他にも結構セリフ回し等、原典と意図的に変えてるところがちょいちょい(これは前からですが)。
というわけで(?)ようやく主人公クンの名前および設定が言及できました。
ヒイロ=緋色で、スカーレットに合わせて。もしバイオレット買ってたら何にしただろうか…女の子にしてナデシコ、とか?あ、それじゃピンクだ。
主人公一家(?)はよそからパルデアに越してきたとのことですが、具体的にどこから来たのかという言及がないので、とりあえずジョウトに。リアル筆者が第4世代までの知識しかほぼないので。
父親に関しても原作で言及がないようなのでしれっとキタカミ出身疑惑を。ほんとにするかどうかは今後考えます(ライブ感