シーン4~吼えよ紅牙~
―――ギャシャァァァァァァ!
ホラーが叫び、その口から歯を数十個ほど飛ばす。宙を舞う歯はむくむくと変化し、小さな素体ホラーのような姿をとった。
『“ビルズス”よ、気をつけて!』
鎧を纏ったことで手首に移動したヴィスタの声が跳ねる。
「分かってる…だらぁっ!」
斬…紅牙は両刃となった戦斧、紅蓮斧を振り回し、ビルズスなる小型ホラーもどきを文字通り粉砕する。
もとより、ホラーを滅するための武器である。その一部より生成された分体など、敵ではない。
とはいえ…
「…ちぃっ、数が多すぎるか」
斬が舌打ちする。と、バイアラァスは再び歯を放ち、ビルズスを大量に生み出した。
「ならばまとめて…滅菌するまでッ」
左手に握った魔導火のライターを灯し、口元に近づける。
「覇ッ!」
紅牙の仮面の口が開き、斬の叫びとともに狼の咆哮が轟く。その“力ある声”に魔導火が同調し、紅蓮の炎が渦巻いてビルズスの群れを襲う。巻き込まれた無数のホラーもどきは、断末魔すら挙げることなく炎滅した。
「…へぇ、結構やるじゃん」
口笛とともに、零が感心するように言った。
―――グ、ググルゥゥ…
直撃こそ免れたものの、バイアラァスはその躰を灼かれ、身を退く。そして、その刹那を見過ごす斬ではなかった。
敵の視界から外れた隙に、すばやく背後に回りこみ…背中に紅蓮斧の剛刃を叩き込む!
「うおぉぉっ!!!」
背に深々と刃が喰い込み、ホラーの醜い顔が更に歪む。やがて、傷口からホラー特有の毒々しくも赤黒い血液が流れ出し、斧の刃を伝い零れ落ちる。
『斬…!』
ヴィスタの声に頷き、斬は水晶の瓶を取り出した。蓋を開け、落ちていく血液を受け止める。
「何やってるんだ、あいつ…?」
零が首をかしげる。
人差し指大の小瓶に血が満たされるまで、さして時間はかからなかった。蓋を閉じると同時に蹴りを見舞い、その場を脱する。
いいように扱われ怒り狂うバイアラァスは、全身から触手を発し、全周囲から紅蓮騎士を狙い打った。
「憤ッ!」
斬は流れるような動きで紅蓮斧を振るう。触手は全て切り落とされ、地面に落ちると同時に消滅した。
―――!!!
自らに迫る危機を察したバイアラァスは、紅牙から逃れるべく翼を広げ飛びあがった。
「逃がさんと…言った筈だッ!!!」
斬は紅蓮斧で空を斬る。斬撃で発生した衝撃波を足がかりに跳躍、バイアラァスに肉迫した。
「うぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁあっ!!!」
全身の力を、両腕と握られた斧に集め、一気に振り下ろす。
―――ゴギャァァァァァ!!?
空が震えんばかりの断末魔が響き渡る。
「災厄よ消え去れ…永遠に」
斬の呟く声とともに、真っ二つにされた魔獣は霧散し、夜の闇に消えた……。
-つづく-
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紅蓮騎士は魔戒騎士のなかでも屈指の魔導火の使い手、という設定があります。
だから火炎放射とかなんざ、お茶の子なワケですな♪
つーか魔導具にできて(原作でザルバが火炎放射した)、魔戒騎士に出来ない道理はないし(ぉ