炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【掌編】うぉーみんぐはーと ☆ うぉーみんぐはんど【桜藤祭/ゆたか】

 通り抜ける北風に、ポケットに手つっこんで身震いする。
 隣を見ると、小さな体をさらに縮こまらせて健気にも寒さに耐える恋人の姿。

「…くちゅんっ」

 …あんまり耐えられなかったみたいだ。

「大丈夫?」
 身体が丈夫ではない彼女のことだ。この季節は僅かな油断も許されない。
「うん…平気、だよ」
 それを額面どおりに信じていいものか。
 下手して風邪なんかひかせた日には間違いなく俺は殺されかねない。
 主にゆいさんとそうじろうさんと、あと岩崎さんに。

「あ、もう着いちゃった」
 ふと、彼女の残念そうな声に俺は我に返る。
 気付くと泉邸。今の彼女…ゆたかちゃんの住まいの前だ。
「それじゃ、また明日…だね」
「うん。暖かくして寝なね」
「わかってるよぉ。お兄ちゃん、ちょっと心配しすぎ」
 そりゃ心配するさ。君の事なんだもの。
 俺のそんな気持ちが届いたように、ゆたかちゃんは照れ笑いを浮かべる。
「…嬉しいよ。ありがと」
 耳元でそんな風に囁いて。「じゃあ、また電話、するね」と言い残し、小さく手を振った彼女は扉の向こうに消えた。

「……へへっ」

 無人の扉の前でくすぐったくなって含み笑い。その場に誰かいたら危ないヤツだと思われそうだが、幸いにして俺一人。

「…さて、俺もとっとと帰って、続きに取り掛かるとしますか」

 ええと、どこまで進んでたっけか。
 あと一週間。急がないとね。




   うぉーみんぐはーと ☆ うぉーみんぐはんど




「うぅ、今日はまた一段と寒かったよ」
 はぁ~、とかじかむ手を白い息であたため、ゆたかちゃんが呟く。
「そうだねぇ」
 ポケットの中の手をにぎにぎしながら、俺はそう返す。
 制服の上にコートを着込む彼女はもこもこふわふわとしていて、この上なく可愛い。
 …っと、見とれてる場合じゃない。

「そうそうっと」
「?」
 肩に引っ掛けた鞄から取り出す包みに、彼女の表情が一瞬ハテナマークになり、僅かの後にその正体に気付き、綻ばせる。
「はい、誕生日おめでとう」
「わぁ…」
 空けていい? もちろん。とお決まりのやりとりの後、ガサゴソと包みが解け、それに連れてゆたかちゃんの表情もどんどん柔らかくなっていく。
「うわぁ、マフラーだぁ。…あれ? ひょっとしてこれ……」
 お、手触りで判るか。…ってそりゃ判るわな。
「ん、ちょっと頑張ってみました」
 ちょっと気取って、右腕で力こぶ作ってみせる。
「へぇ、すっごぉい! えへへ…嬉しいな」
 これ以上無いくらいの満面の笑みで喜んでくれる。俺も底抜けに嬉しくなってくる。
「ちょっと不恰好だけどね」
「そんなことないよっ。さっそくつけてみよっと」
 ぱたぱたと、マフラーの端が地面に触れないように細心の注意を払いながらゆたかちゃんはマフラーを首に巻いていく。
「…暖かいなぁ……あ、あれれ?」
「?」
「お兄ちゃん…ちょっとこれ…長いかも」

 ……ありゃ。

 彼女の言うとおり、ふた巻きしてもまだありあまるマフラーは所在無く彼女の手から下がり、北風に揺れている。

「むぅ、ちょっと長く作り過ぎたか…」
「どうしよう……あ、そうだ!」
 お兄ちゃん、こっちこっち。とゆたかちゃんが手招き。腰を落として視線の高さをあわせる。
「よっこいしょっと」
 ふわり、と暖かい風が俺の首をすり抜ける。あまったマフラーがかけられたのだ。
「ゆたかちゃん?」
「えへへ……ちょっと前にマンガで読んでね。…こーゆーの、ちょっと憧れてたんだ」
 耳まで真っ赤になって、それでも笑顔でそう言ってくれる。
「そ、そっか」
「……うん」

 思わず沈黙。

 暖かいような、こっ恥ずかしいような、なんともいえない時間が流れる。

「ええと、じゃ、帰ろうか」
 搾り出すようにそれだけ言って、すっと手を伸ばす。
「……うん」
 その手を、ゆたかちゃんがしっかりと握って。


「ふふっ…」
「ははっ…」

 お互いにニコニコ顔で、手を繋いだまま、俺たちは家路についた。



 北風は、もう気にならなくなってた。

 繋いだ手と、繋いだマフラーで、お互いの熱を感じていたから。




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ゆーちゃん誕生日おめでとーっ!

まさか俺の片想いの相手と同じ誕生日とは思わなかったぜぃ!
お兄ちゃんびっくりだ!

さて、なんというか…ベタだ。
書いといてなんだけど…ベタだ。

でもラブいからよしッ!(何
てゆーか長めのマフラーで二人巻きはデフォでしょう。異論は認めない。
……え? ふつーは手編みのマフラーはヒロイン側がやるべきだ?

…………キニスンナ!(ヒートスマイル