炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【必殺!】異伝・仕事人相対/第2場

 三度傘をかぶった侍が、ひょうひょうと歩いていく。
「きゃっ」
「おっと!」
 と、その侍に町娘がぶつかった。
「ご、ごめんなさいっ!」
「あ…気にするな」
 頭を下げる町娘に、手を振って応え、再び侍は歩を進める。

「…なぁんてね」
 ひょいと頭を上げた町娘がちろりと舌を出す。
「へっへー、本日はいかほど…って、あれ?あれあれ?」
 袖の下に手を伸ばした娘が慌てだす。
「どうした、お嬢ちゃん?」
「え? あ…」
 そんな様子に気付いたのか、先ほどの侍が声をかける。
「いや、その…」
「こいつを、お探しかな?」
 侍が右手を掲げる。丁寧に誂えられた財布だ。
「ああーっ! それウチn」
「俺のだが?」
「あぅ……」
 グウの音もでない娘に、侍が勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「江戸のスリってなもうちょっと鮮やかなもんだと聞いてたんだがなァ…こいつは期待はずれだったか」
 大げさに肩を竦めてみせる侍に、娘が顔を真っ赤にして憤る。
「むっかぁ~っ! あ、アンタ!一体何様のつもr…あ痛!」
 娘の脳天に衝撃音が走り、鈍痛が響く。
「何様のつもりかってのはおめえのほうだ、如月ッ!」
「……げ、涼次」
 振り返る娘…如月にジト汗が浮かぶ。
「まァたスリに手ェ出しやがったな! 今度やったらメシ抜きだっつったろうが!」
 如月に拳骨を喰らわせたのは、若い男だった。少し大きめの道具箱を手に提げているあたり、経師屋か職人の類だろうか。
「まあまあまあお兄さん。俺が仕掛けるの誘ったようなもんなんで、気にしないでくれよ」
「んあ? …まあ、アンタがいいってんなら……」
 侍に言われ、バツが悪そうに頭をかく男…涼次。
「それに、このサイフ空だしな」
「えっ!?」
「スリを誘ってるのに、ちゃんと金の入った財布を用意してるほどお人よしじゃないもんでな」
「んなっ!!!」
 からかい口調の侍に、再び如月が沸騰した。
「はっはっは! ま、ほどほどにしろよな~」
 からからと笑い、歩き去る侍。と、その足がはたと止まった。

「…あ~っと、ちょっと訊きたいンだが……この辺でいい宿を知らないかい?」

  *

「ほぉ…女だてらに旅をしながら武芸の腕を磨いていると」
「はいっ」
 木挽町・自身番―――今で言う交番のようなもの―――に、旅装束に身を包んだ女性の姿と、老同心の姿があった。
「で、江戸で仲間と落ち合う予定やったんですけど、約束の時間になっても会えなくって…」
「なるほどな、それでこっちに来たのかい」
「はい。何かあったら自身番屋で待てって言われてたので」
 ゆるゆると目刺しを焼きながら、老同心…中村主水が優しげ…というよりはちょっとにやついた笑みを浮かべる。
「ほらほら、外は寒かったでしょう。火鉢あるから、こっちきて暖まんなさいな」
 彼の手招きに、疑いを持つことなく近づく女武芸者。
「おーおー、こんなに手ぇ冷たくしちまって……ほら、あたしが暖めてあげましょ」
 皺だらけの手が少女のように柔らかな手を包み込む。
「あーっ、やっと見つけた!」
 と、番屋の戸が開き、三度傘を被った女性が声を上げる。
「あっ」
 その声に、中にいた女武芸者はするりと主水の手をすり抜け、仲間の下に駆け寄る。
「もう、何時までたっても待ち合わせ場所に来ないんだもの。心配したわよ」
「えー? ウチ、ちゃんと待ってたけど?」
 待ち合わせ場所を示すと、後から来た女武芸者が呆れたように溜息をつく。
「そこ、待ち合わせ場所と真逆なんだけど……」
「……え」
 まったく…と溜息混じりに呟いた彼女は、ふと番屋の奥、行き場のない手をうろうろさせている主水と眼を合わせた。
「あ、仲間がお世話になりました。では、私たちはこれで」
「え? あ、ああ……気をつけてな」
 ぽつんと取り残される主水の傍らで、目刺しが黒コゲになっていた。



  -つづく-


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 とりあえず仕事人メンバーはこれで一通り。シンケン勢もね。
 必殺側の時間軸としては10話以前(というか9話より前)なので、まだ源太が存命で、匳は出番なし。
 10話みて、こりゃやべえかなと思ってたけど、まさかホントに源太殉職するとは……

 そういえば、あれ以降作太郎の姿を見ないんだが、何処行ったんだろうなァ…。

 流石に子供一人で小料理屋きりもりってのも難しいだろうし、どっかいい人に引き取られて穏やかに暮らしてくれればいいんだが…

 さて次回。必殺勢の「殺し」シーンを出す予定。
 今までの録画分観て、文章を考えねえと……