炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【必殺!】異伝・仕事人相対/第3場

 江戸に住む者たちの間で、ひそかに広まる噂があった。
 
 ―――三番筋にある、寂れた尼寺。

 その中にある、崩れかけた小さな祠に金を供えることで、晴らせぬ恨みを晴らすという。


 そして、今日もまた……

 必死で守ろうとした愛するものを奪われた、弱き民が、握り締めた銭に恨みを込め―――

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「……殺しの的は、高利貸し・信濃壮ェ門。番頭の弥助、喜助。そして浮雲屋の花魁・鶯(うぐいす)」
 仕事人たちの元締め的存在である、花御殿のお菊が標的の名を告げると、卓の上に散らばる銭を、4つの手が均等に取っていく。

 <仕事>が、始まる。



「―――っ!?」
 手洗いに行った客……番頭の弥助だ……を待っている鶯の首筋に、刺突特有の鋭い痛みが走る。細い長針がゆっくりと体の中心へと伸びていく。
「……今度は地獄の鬼でも慰めるんだな」
 その背後で、派手な衣装に身を包んだ経師屋・涼次が針を握る手をとん、と叩く。
 針の先端が吸い込まれるように心の臓を貫き、鶯は音も無く崩れ落ちた。

「……おろぉ?」
 便所から出て、いざ鶯と続きをば…と意気込む弥助の足元を、カラクリ細工の達磨が転がっていく。
「なんだなんだぁ…?」
 よせばいいのに興味を示し、達磨を追いかける。その無防備な背中を見つめるのは…からくり屋の源太だ。
「……!」
 手にした竹筒から、紅い紐で繋がれた竹細工の蛇が飛び出し、弥助の首を捉える。
「んぐうっ!!?」
 蛇がぎりぎりと弥助の首を締め上げ、それにあわせて弥助が目を白黒させ、身体をふらつかせる。

 …やがて、弥助の体は、物言わぬ“荷物”と化した。

  *

「ぶへぇっくし!」
 一方、夜遊びにとんと興味のない喜助は、提灯を片手に夜道をひとり歩いていた。
「…うん?」
 と、その視界の端に、老侍の姿を見つける。
「とと、これは自身番の」
「おぉ、こんな時間に散歩かい?」
「いえ、旦那に用をおおせつかりまして、その帰りなんですよ」
 それじゃ、と踵を返そうとする喜助に、そっと近寄る老侍……中村主水
「そうかいそうかい。…じゃ、気をつけな」
 刹那、刃物が肉を通す独特の音が腹で聞こえる。
「!?!?」
 強烈な熱さと痛みを腹に感じ、喜助の目が点になった。
「地獄への案内人がうろついてるからな……」
 普段の彼からは想像もつかない冷たい声で呟き、脇差に付いた血を軽く払うと、主水は何処とも無く立ち去った。

  *

「…………」
 高利貸し・信濃壮ェ門の邸宅。
 今夜も彼は、日課である金数えに執心していた。
 一枚一枚、金が重なり、小気味いい金属音が彼の気を高ぶらせる。
 やがて数え終わり、昨日より枚数が多いことにひとりほくそえむ。

「……地獄の沙汰もなんとやら、か?」
「!?」
 不意に聴こえた声に、戦慄する壮ェ門。
「だが悪ィな。てめぇの地獄行きは、それっぽっちの金じゃあ覆らねぇぜ」
 障子を開けて現れたのは、渡辺小五郎その人。
「ひ…ひィっ!?」
 恐慌状態に陥り、壮ェ門がわたわたと逃げる。が、腰が抜けてしまったのか、その速度は小五郎が歩いて追いつく程度のものだった。
「……ッ!」
 音も無く刀を抜き、一気に振り下ろす。が、その刃は壮ェ門の身体にはわずかに届かなかった。
「!?」
 一太刀で仕留め損ねたことに一瞬驚く小五郎ではあったが、その程度で切先が鈍るものではない。
「うひゃぁっ、うひっ!!」
 まただ。
 また、小五郎の斬撃が躱された。
「……」
 小五郎の表情に焦燥が宿る。
(こいつ…ただの高利貸しじゃねえ)
 逃げる壮ェ門に追う小五郎。いつしか二人は外に飛び出していた。
(……逃がさんッ!)
 背中めがけ、渾身の一太刀を浴びせた、次の瞬間。

「何ッ!?」

 切先が折れ跳んだ。

「そんな莫迦な…!?」
 鎖帷子でも仕込んでいるのかと疑う小五郎であったが、例え鎖帷子だとしても、刃こぼれが起こる程度で完全に折れるということは無いはずである。

(…くっ)
 このままでは標的を逃がしてしまう。気を取り直し脇差を抜こうとした小五郎の傍らに、人影が現れた。

「……ようやく見つけたぞ、外道衆」
「!?」
 身なりのいい侍が、大振りの太刀……造りも装飾も、普通の侍が持つものとは明らかに違うが……の切先を壮ェ門に向ける。
(外道衆…なんだそりゃあ? それに…)
 <仕事>を見られた。その事実に頭が急速に冷える。
(見られたからにゃ、こいつを…斬る!)
 壮ェ門を狙っていた体の向きを、侍に向ける小五郎。
「…あいや、しばらく!」
 と、背後から野太い声が響いた。振り返ると初老の男がどたどたとこちらに駆け寄ってきていた。
「殿! 全員揃いまして御座います!」
「うむ」
 殿と呼ばれた侍が頷く。それにあわせるかのように、何処からとも無く4人の侍が集まってくる。その中には、先日小五郎が見かけた者の姿もあった。

「外道衆! よぉっく聞けぃ!」
 全員が並び立つのを待って、初老の男が朗々と語り始めた。
「こちらにおわすのは、貴様らを葬る“侍”、志葉家当主、<シンケンレッド>・志葉烈堂さまだ!」
 ギロリ、と志葉烈堂の強烈な眼光が壮ェ門を睨みつける。
「さぁ、恐れ入って隙間へ帰るか、殿の刀の錆となるか、しかと……」
「…爺」
「はっ!」
 ふと、口上を烈堂がさえぎる。
「…………長い」
「い、いやしかし。戦いというのは…」
 ぶつぶついう男を無視し、烈堂が五人を促す。いつの間にか手にしていた組木細工のような調度品をたたむと、それは筆に変わった。
「正体を顕せ、外道衆!」
 その筆を空中に走らせると、その軌跡が<斥>の文字を生み出す。烈堂が気合を入れると、その文字が壮ェ門めがけて飛び、ぶつかった。

「ぎゃああああっ!」

 次に起こった事象に、小五郎は目を疑った。壮ェ門の口、鼻…ありとあらゆる穴から煙のようなものが噴出し、やがてそれが一箇所に凝り固まり、バケモノになったからだ。

「往くぞ!」
「「「「御意!」」」」

 五人が筆を走らせる。

  ――― 一 筆 奏 上 !

 各々の筆の動きが、それぞれ、<火><水><天><木><土>を描き、その文字が輝いた瞬間―――彼らの姿が、変わった。


 真剣真紅<シンケンレッド>……志葉烈堂!
 同じく紺青<ブルー>……池波流太郎!
 同じく撫子<ピンク>……白石茉莉!
 同じく深緑<グリーン>……谷千草!
 同じく山吹<イエロー>……花織こと!


天下御免の侍戦隊……」

  シンケンジャー!!!!!

「参るッ!」

 五色の“侍”が大見得を切って魅せた。


  -つづく-


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 志葉烈堂の名前は「銀幕版」に登場する格さ…じゃなくて、初代シンケンレッドからそのまま。時代的に初代の世代だと思うので、彼を中心に初代メンバーということで。銀幕版に残りのメンバーが(名前だけでも)出てきた場合は、都度変更する予定です。
 ちなみに、烈堂の名前が出てこなかった場合は「志葉丈嗣(たけし)」となる予定でした。

 いやー、しかし「殺し」の描写は難しかったけど勉強になったなー