江戸に住む者たちの間で、ひそかに広まる噂があった。
―――三番筋にある、寂れた尼寺。
―――三番筋にある、寂れた尼寺。
その中にある、崩れかけた小さな祠に金を供えることで、晴らせぬ恨みを晴らすという。
そして、今日もまた……
必死で守ろうとした愛するものを奪われた、弱き民が、握り締めた銭に恨みを込め―――
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「……殺しの的は、高利貸し・信濃壮ェ門。番頭の弥助、喜助。そして浮雲屋の花魁・鶯(うぐいす)」
仕事人たちの元締め的存在である、花御殿のお菊が標的の名を告げると、卓の上に散らばる銭を、4つの手が均等に取っていく。
仕事人たちの元締め的存在である、花御殿のお菊が標的の名を告げると、卓の上に散らばる銭を、4つの手が均等に取っていく。
<仕事>が、始まる。
「―――っ!?」
手洗いに行った客……番頭の弥助だ……を待っている鶯の首筋に、刺突特有の鋭い痛みが走る。細い長針がゆっくりと体の中心へと伸びていく。
「……今度は地獄の鬼でも慰めるんだな」
その背後で、派手な衣装に身を包んだ経師屋・涼次が針を握る手をとん、と叩く。
針の先端が吸い込まれるように心の臓を貫き、鶯は音も無く崩れ落ちた。
手洗いに行った客……番頭の弥助だ……を待っている鶯の首筋に、刺突特有の鋭い痛みが走る。細い長針がゆっくりと体の中心へと伸びていく。
「……今度は地獄の鬼でも慰めるんだな」
その背後で、派手な衣装に身を包んだ経師屋・涼次が針を握る手をとん、と叩く。
針の先端が吸い込まれるように心の臓を貫き、鶯は音も無く崩れ落ちた。
「……おろぉ?」
便所から出て、いざ鶯と続きをば…と意気込む弥助の足元を、カラクリ細工の達磨が転がっていく。
「なんだなんだぁ…?」
よせばいいのに興味を示し、達磨を追いかける。その無防備な背中を見つめるのは…からくり屋の源太だ。
「……!」
手にした竹筒から、紅い紐で繋がれた竹細工の蛇が飛び出し、弥助の首を捉える。
「んぐうっ!!?」
蛇がぎりぎりと弥助の首を締め上げ、それにあわせて弥助が目を白黒させ、身体をふらつかせる。
便所から出て、いざ鶯と続きをば…と意気込む弥助の足元を、カラクリ細工の達磨が転がっていく。
「なんだなんだぁ…?」
よせばいいのに興味を示し、達磨を追いかける。その無防備な背中を見つめるのは…からくり屋の源太だ。
「……!」
手にした竹筒から、紅い紐で繋がれた竹細工の蛇が飛び出し、弥助の首を捉える。
「んぐうっ!!?」
蛇がぎりぎりと弥助の首を締め上げ、それにあわせて弥助が目を白黒させ、身体をふらつかせる。
…やがて、弥助の体は、物言わぬ“荷物”と化した。
*
「ぶへぇっくし!」
一方、夜遊びにとんと興味のない喜助は、提灯を片手に夜道をひとり歩いていた。
「…うん?」
と、その視界の端に、老侍の姿を見つける。
「とと、これは自身番の」
「おぉ、こんな時間に散歩かい?」
「いえ、旦那に用をおおせつかりまして、その帰りなんですよ」
それじゃ、と踵を返そうとする喜助に、そっと近寄る老侍……中村主水。
「そうかいそうかい。…じゃ、気をつけな」
刹那、刃物が肉を通す独特の音が腹で聞こえる。
「!?!?」
強烈な熱さと痛みを腹に感じ、喜助の目が点になった。
「地獄への案内人がうろついてるからな……」
普段の彼からは想像もつかない冷たい声で呟き、脇差に付いた血を軽く払うと、主水は何処とも無く立ち去った。
一方、夜遊びにとんと興味のない喜助は、提灯を片手に夜道をひとり歩いていた。
「…うん?」
と、その視界の端に、老侍の姿を見つける。
「とと、これは自身番の」
「おぉ、こんな時間に散歩かい?」
「いえ、旦那に用をおおせつかりまして、その帰りなんですよ」
それじゃ、と踵を返そうとする喜助に、そっと近寄る老侍……中村主水。
「そうかいそうかい。…じゃ、気をつけな」
刹那、刃物が肉を通す独特の音が腹で聞こえる。
「!?!?」
強烈な熱さと痛みを腹に感じ、喜助の目が点になった。
「地獄への案内人がうろついてるからな……」
普段の彼からは想像もつかない冷たい声で呟き、脇差に付いた血を軽く払うと、主水は何処とも無く立ち去った。
*
「…………」
高利貸し・信濃壮ェ門の邸宅。
今夜も彼は、日課である金数えに執心していた。
一枚一枚、金が重なり、小気味いい金属音が彼の気を高ぶらせる。
やがて数え終わり、昨日より枚数が多いことにひとりほくそえむ。
高利貸し・信濃壮ェ門の邸宅。
今夜も彼は、日課である金数えに執心していた。
一枚一枚、金が重なり、小気味いい金属音が彼の気を高ぶらせる。
やがて数え終わり、昨日より枚数が多いことにひとりほくそえむ。
「……地獄の沙汰もなんとやら、か?」
「!?」
不意に聴こえた声に、戦慄する壮ェ門。
「だが悪ィな。てめぇの地獄行きは、それっぽっちの金じゃあ覆らねぇぜ」
障子を開けて現れたのは、渡辺小五郎その人。
「ひ…ひィっ!?」
恐慌状態に陥り、壮ェ門がわたわたと逃げる。が、腰が抜けてしまったのか、その速度は小五郎が歩いて追いつく程度のものだった。
「……ッ!」
音も無く刀を抜き、一気に振り下ろす。が、その刃は壮ェ門の身体にはわずかに届かなかった。
「!?」
一太刀で仕留め損ねたことに一瞬驚く小五郎ではあったが、その程度で切先が鈍るものではない。
「うひゃぁっ、うひっ!!」
まただ。
また、小五郎の斬撃が躱された。
「……」
小五郎の表情に焦燥が宿る。
(こいつ…ただの高利貸しじゃねえ)
逃げる壮ェ門に追う小五郎。いつしか二人は外に飛び出していた。
(……逃がさんッ!)
背中めがけ、渾身の一太刀を浴びせた、次の瞬間。
「!?」
不意に聴こえた声に、戦慄する壮ェ門。
「だが悪ィな。てめぇの地獄行きは、それっぽっちの金じゃあ覆らねぇぜ」
障子を開けて現れたのは、渡辺小五郎その人。
「ひ…ひィっ!?」
恐慌状態に陥り、壮ェ門がわたわたと逃げる。が、腰が抜けてしまったのか、その速度は小五郎が歩いて追いつく程度のものだった。
「……ッ!」
音も無く刀を抜き、一気に振り下ろす。が、その刃は壮ェ門の身体にはわずかに届かなかった。
「!?」
一太刀で仕留め損ねたことに一瞬驚く小五郎ではあったが、その程度で切先が鈍るものではない。
「うひゃぁっ、うひっ!!」
まただ。
また、小五郎の斬撃が躱された。
「……」
小五郎の表情に焦燥が宿る。
(こいつ…ただの高利貸しじゃねえ)
逃げる壮ェ門に追う小五郎。いつしか二人は外に飛び出していた。
(……逃がさんッ!)
背中めがけ、渾身の一太刀を浴びせた、次の瞬間。
「何ッ!?」
切先が折れ跳んだ。
「……ようやく見つけたぞ、外道衆」
「!?」
身なりのいい侍が、大振りの太刀……造りも装飾も、普通の侍が持つものとは明らかに違うが……の切先を壮ェ門に向ける。
(外道衆…なんだそりゃあ? それに…)
<仕事>を見られた。その事実に頭が急速に冷える。
(見られたからにゃ、こいつを…斬る!)
壮ェ門を狙っていた体の向きを、侍に向ける小五郎。
「…あいや、しばらく!」
と、背後から野太い声が響いた。振り返ると初老の男がどたどたとこちらに駆け寄ってきていた。
「殿! 全員揃いまして御座います!」
「うむ」
殿と呼ばれた侍が頷く。それにあわせるかのように、何処からとも無く4人の侍が集まってくる。その中には、先日小五郎が見かけた者の姿もあった。
「!?」
身なりのいい侍が、大振りの太刀……造りも装飾も、普通の侍が持つものとは明らかに違うが……の切先を壮ェ門に向ける。
(外道衆…なんだそりゃあ? それに…)
<仕事>を見られた。その事実に頭が急速に冷える。
(見られたからにゃ、こいつを…斬る!)
壮ェ門を狙っていた体の向きを、侍に向ける小五郎。
「…あいや、しばらく!」
と、背後から野太い声が響いた。振り返ると初老の男がどたどたとこちらに駆け寄ってきていた。
「殿! 全員揃いまして御座います!」
「うむ」
殿と呼ばれた侍が頷く。それにあわせるかのように、何処からとも無く4人の侍が集まってくる。その中には、先日小五郎が見かけた者の姿もあった。
「外道衆! よぉっく聞けぃ!」
全員が並び立つのを待って、初老の男が朗々と語り始めた。
「こちらにおわすのは、貴様らを葬る“侍”、志葉家当主、<シンケンレッド>・志葉烈堂さまだ!」
ギロリ、と志葉烈堂の強烈な眼光が壮ェ門を睨みつける。
「さぁ、恐れ入って隙間へ帰るか、殿の刀の錆となるか、しかと……」
「…爺」
「はっ!」
ふと、口上を烈堂がさえぎる。
「…………長い」
「い、いやしかし。戦いというのは…」
ぶつぶついう男を無視し、烈堂が五人を促す。いつの間にか手にしていた組木細工のような調度品をたたむと、それは筆に変わった。
「正体を顕せ、外道衆!」
その筆を空中に走らせると、その軌跡が<斥>の文字を生み出す。烈堂が気合を入れると、その文字が壮ェ門めがけて飛び、ぶつかった。
全員が並び立つのを待って、初老の男が朗々と語り始めた。
「こちらにおわすのは、貴様らを葬る“侍”、志葉家当主、<シンケンレッド>・志葉烈堂さまだ!」
ギロリ、と志葉烈堂の強烈な眼光が壮ェ門を睨みつける。
「さぁ、恐れ入って隙間へ帰るか、殿の刀の錆となるか、しかと……」
「…爺」
「はっ!」
ふと、口上を烈堂がさえぎる。
「…………長い」
「い、いやしかし。戦いというのは…」
ぶつぶついう男を無視し、烈堂が五人を促す。いつの間にか手にしていた組木細工のような調度品をたたむと、それは筆に変わった。
「正体を顕せ、外道衆!」
その筆を空中に走らせると、その軌跡が<斥>の文字を生み出す。烈堂が気合を入れると、その文字が壮ェ門めがけて飛び、ぶつかった。
「ぎゃああああっ!」
次に起こった事象に、小五郎は目を疑った。壮ェ門の口、鼻…ありとあらゆる穴から煙のようなものが噴出し、やがてそれが一箇所に凝り固まり、バケモノになったからだ。
「往くぞ!」
「「「「御意!」」」」
「「「「御意!」」」」
五人が筆を走らせる。
――― 一 筆 奏 上 !
各々の筆の動きが、それぞれ、<火><水><天><木><土>を描き、その文字が輝いた瞬間―――彼らの姿が、変わった。
真剣真紅<シンケンレッド>……志葉烈堂!
同じく紺青<ブルー>……池波流太郎!
同じく撫子<ピンク>……白石茉莉!
同じく深緑<グリーン>……谷千草!
同じく山吹<イエロー>……花織こと!
同じく紺青<ブルー>……池波流太郎!
同じく撫子<ピンク>……白石茉莉!
同じく深緑<グリーン>……谷千草!
同じく山吹<イエロー>……花織こと!
「天下御免の侍戦隊……」
シンケンジャー!!!!!
「参るッ!」
五色の“侍”が大見得を切って魅せた。
-つづく-
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志葉烈堂の名前は「銀幕版」に登場する格さ…じゃなくて、初代シンケンレッドからそのまま。時代的に初代の世代だと思うので、彼を中心に初代メンバーということで。銀幕版に残りのメンバーが(名前だけでも)出てきた場合は、都度変更する予定です。
ちなみに、烈堂の名前が出てこなかった場合は「志葉丈嗣(たけし)」となる予定でした。
ちなみに、烈堂の名前が出てこなかった場合は「志葉丈嗣(たけし)」となる予定でした。
いやー、しかし「殺し」の描写は難しかったけど勉強になったなー
【外道衆ども、よぉっく聞けぃ!こちらに負わすのはweb拍手…】火)>ジィ、長い。