炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【シンケンSS】閑話-谷 千明-【後日談】

 春の足音が近づいてきたとはいえど、朝の空気は今だ凛と引き締まっている。

 そんな早朝の公園で、風を切る音と、それに合わさって張り詰めた声が響く。

「はっ! はっ!」

 はかま姿の青年が3人、揃って竹刀を振るっていた。

「……はぁっ、はぁっ」
「うぇぇ……もーだめ……」

 と、そのうちの二人の素振りが精彩を欠き始めた。

「なんだよお前ら、だらしねーぞ!」

 茶髪の青年がため息交じりにはっぱをかけるも、二人はぺたりと座り込んでしまった。

「俺がやってたことに興味があるって言ってたから、こーやって付き合ってんのによ」
「そ、そりゃそーなんだけどさ……」
「ここまでハードだとは……。千明、お前スゴかったのな」

 千明、と呼ばれた青年は苦笑して、二人の前にしゃがむ。

「そーでもねーよ」

 よっこらせっ、と立ち上がり。千明が竹刀を振りぬく。聞いたこともない唸りが空気を震わせ、へたったままの二人が目を丸くした。

「“仲間”のうちじゃ、俺が一番弱かったんだからな……」

 1年間、苦楽をともにした同士を想い、千明がふと空を仰ぎ見る。

 梅の香りを乗せた東風が、ふわり、と前髪を揺らした。



   侍戦隊シンケンジャー
   閑話-谷 千明-



「うっそだぁ。だってめっちゃ強ぇじゃねえかよ」

 素振りの前に、手合わせをさせてくれと頼まれた友人たちを、千明はあっさりといなしていた。無論、手加減をした上ではあるが。

「お前らとあいつらを一緒にすんなよ」

 1年前と、今の自分を客観的にみる。確かに実力は上がった……が、それ以上に仲間達は強いし、さらに腕を上げていた。
 自分が強くなったからこそ分かる、他人の強さ。
 目標にしているあの男は、遥か高みにいた。

「…だけどっ」

 構え直した竹刀を、もう一度振るう。

「いつかは越える。越えてみせる!」

 その横顔は、友人たちも見たことがないほど、引き締まっていた。

「……できるよ、千明なら」
「そだな。ゲーセンに入り浸ってた頃ならともかく、今じゃこーやって毎日特訓してんだろ? ぜってー越えられるよ」

「……おう。サンキュー」

 友人の励ましに、千明は満面の笑みを浮かべて見せた。

「……!」

 ふと、背後に鋭い気配を感じる。千明はそれを振り払うように竹刀を向け―――絶句した。

「丈瑠……!」

 かつて“殿”として仕え、“目標”として定め……ともに戦った“友”の姿が、そこにはあった。


   *


「正直意外だったな」
「うるせえよ」

 散歩中だった丈瑠は、千明のはかま姿に少しだけ驚いているようだった。外道衆との戦いが終わってもなお、剣の腕を磨いていたことにだ。

「言っただろ、俺はお前を越えるってな。外道衆との戦いが終わったからって、気は抜いちゃいらんないの。それでなくてもお前はどんどん強くなってってんだからさ」
「それは買いかぶりだ」
「んなことねーよ」

 微苦笑する丈瑠に軽口を叩く千明。

「さっきのお前の素振り。ずいぶんと動きが良くなっていた」
「そりゃどーも。ま、どーせまだまだって言うんだろ?」
「当然だ」

 あのなぁ…と千明がボヤく。と、丈瑠が千明の竹刀を取って、その切っ先を向ける。

「どうだ、ひと勝負」

 今の力、見てやる。
 丈瑠が不敵な笑みを浮かべる。その瞳の奥、鋭い眼光が千明を射抜かんとばかりに煌いた。

「……オッケー」

 無論、千明も退かない。にやりと笑いつつ、強烈な闘志を目に込めて丈瑠を睨み付けた。

「コージ、竹刀っ」

 二人の迫力に気圧され、ドン引いていた友人の一人に声をかける。コージは「お、おうっ」と少々上ずった声で竹刀を放り投げた。

「んっ」

 竹刀を受け取って、距離を取る。正眼に構えた丈瑠の姿は、それだけで威圧感を放ち、隙を見せない。

「それじゃ……いくぜっ!!!」

 先手必勝、とばかりに千明が地を蹴る。柄の後方を握り、ギリギリまでリーチを伸ばした竹刀ですばやく払うと、丈瑠は難なくそれをいなした。

「はっ!」
 返す刀で丈瑠が懐に飛び込み、下から振り上げる。咄嗟に伸ばした腕を引っ込め、柄尻で受け止めるが、強烈な衝撃が右手を痺れさせ、千明は竹刀を取り落とす。

「んなろっ!」
 宙に浮いた竹刀を左手で掴み、逆手となったそれで薙ぐ。丈瑠もすばやくその攻撃を受け止め、間合いを取るべく飛び退いた。

「……ほう」
「へっへへ。源ちゃんの技、借りたぜ」

 鞘こそないものの、今の構えは源太の得意とする居合い、逆手一文字だ。

「まだまだいくぜっ!」

 竹刀を持ち直し、再び切り結ぶ。

(……こいつ)

 一合、二合と打ち合ううち、丈瑠の見る千明に、仲間達の姿がフラッシュバックする。

「はあっ!」

 それは、流ノ介の実直さだったり。

「せいっ!」

 茉子の疾さであり。

「おりゃあっ!」

 ことはの純粋さでもあり。

(……いつまでも未熟じゃない、か…)

 千明の中に、自身を含む仲間達の太刀筋…そして、それを糧にした新たな“千明の太刀筋”を見た丈瑠は、大きく息を吸って、張り上げた大声とともに竹刀を振りぬいた。

「うおっ!?」

 一段と重い剣圧に、竹刀を飛ばされる千明。

「千明」
「あんだよ……っとと」

 不意に投げつけられた何かを受け止める。それは、かつて仲間とともに、常にそばにあった相棒であった。

「ショドウフォン……」

 丈瑠を見ると、同じく手にしたショドウフォンを筆モードに変え、こちらを見据えていた。

「……本気で、いくぞ」

「……おうっ」

 丈瑠に倣い、ショドウフォンを筆モードにし、掲げる。

「一筆―――」
「―――奏上ッ!」

 紅い<火>のモヂカラが、緑の<木>のモヂカラが、二人の姿を……変える。

「―――シンケンレッド。志葉…丈瑠!」
「シンケングリーン……谷 千明!」

 互いにシンケンマルを抜き、構える。

「……来い千明。お前の……お前だけの“一太刀”を、見せてみろ!」
「言ったな丈瑠。……吠え面かくなよっ!」

 時の止まったかのような静寂。

 その中で、二人の男の声が……こだまする。


「いざ!」

「参る!」


 二振りのシンケンマルが、空を切り裂いた。





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 3話や、各所における千明の「丈琉を越える!」という想い。それは、オイラにこのネタを書かせたくなる十二分な要因になりました。
 …まぁ、視聴者かつモノカキができる人間の8割はそー思うんでしょうが(ぇ

 本作中では決着の描写を書いていないのは手抜きでは決してなく。

 各々が思い描いた決着のあり方でいいんだと思います。

 さて、そろそろ一日一本シフトに戻したいが……どうなんだろうな俺(ぇ
 
 
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