春の足音が近づいてきたとはいえど、朝の空気は今だ凛と引き締まっている。
そんな早朝の公園で、風を切る音と、それに合わさって張り詰めた声が響く。
「はっ! はっ!」
はかま姿の青年が3人、揃って竹刀を振るっていた。
「……はぁっ、はぁっ」
「うぇぇ……もーだめ……」
と、そのうちの二人の素振りが精彩を欠き始めた。
「なんだよお前ら、だらしねーぞ!」
茶髪の青年がため息交じりにはっぱをかけるも、二人はぺたりと座り込んでしまった。
「俺がやってたことに興味があるって言ってたから、こーやって付き合ってんのによ」
「そ、そりゃそーなんだけどさ……」
「ここまでハードだとは……。千明、お前スゴかったのな」
千明、と呼ばれた青年は苦笑して、二人の前にしゃがむ。
「そーでもねーよ」
よっこらせっ、と立ち上がり。千明が竹刀を振りぬく。聞いたこともない唸りが空気を震わせ、へたったままの二人が目を丸くした。
「“仲間”のうちじゃ、俺が一番弱かったんだからな……」
1年間、苦楽をともにした同士を想い、千明がふと空を仰ぎ見る。
梅の香りを乗せた東風が、ふわり、と前髪を揺らした。
侍戦隊シンケンジャー
閑話-谷 千明-
「うっそだぁ。だってめっちゃ強ぇじゃねえかよ」
素振りの前に、手合わせをさせてくれと頼まれた友人たちを、千明はあっさりといなしていた。無論、手加減をした上ではあるが。
「お前らとあいつらを一緒にすんなよ」
1年前と、今の自分を客観的にみる。確かに実力は上がった……が、それ以上に仲間達は強いし、さらに腕を上げていた。
自分が強くなったからこそ分かる、他人の強さ。
目標にしているあの男は、遥か高みにいた。
「…だけどっ」
構え直した竹刀を、もう一度振るう。
「いつかは越える。越えてみせる!」
その横顔は、友人たちも見たことがないほど、引き締まっていた。
「……できるよ、千明なら」
「そだな。ゲーセンに入り浸ってた頃ならともかく、今じゃこーやって毎日特訓してんだろ? ぜってー越えられるよ」
「……おう。サンキュー」
友人の励ましに、千明は満面の笑みを浮かべて見せた。
「……!」
ふと、背後に鋭い気配を感じる。千明はそれを振り払うように竹刀を向け―――絶句した。
「丈瑠……!」
かつて“殿”として仕え、“目標”として定め……ともに戦った“友”の姿が、そこにはあった。
*
「正直意外だったな」
「うるせえよ」
散歩中だった丈瑠は、千明のはかま姿に少しだけ驚いているようだった。外道衆との戦いが終わってもなお、剣の腕を磨いていたことにだ。
「言っただろ、俺はお前を越えるってな。外道衆との戦いが終わったからって、気は抜いちゃいらんないの。それでなくてもお前はどんどん強くなってってんだからさ」
「それは買いかぶりだ」
「んなことねーよ」
微苦笑する丈瑠に軽口を叩く千明。
「さっきのお前の素振り。ずいぶんと動きが良くなっていた」
「そりゃどーも。ま、どーせまだまだって言うんだろ?」
「当然だ」
あのなぁ…と千明がボヤく。と、丈瑠が千明の竹刀を取って、その切っ先を向ける。
「どうだ、ひと勝負」
今の力、見てやる。
丈瑠が不敵な笑みを浮かべる。その瞳の奥、鋭い眼光が千明を射抜かんとばかりに煌いた。
「……オッケー」
無論、千明も退かない。にやりと笑いつつ、強烈な闘志を目に込めて丈瑠を睨み付けた。
「コージ、竹刀っ」
二人の迫力に気圧され、ドン引いていた友人の一人に声をかける。コージは「お、おうっ」と少々上ずった声で竹刀を放り投げた。
「んっ」
竹刀を受け取って、距離を取る。正眼に構えた丈瑠の姿は、それだけで威圧感を放ち、隙を見せない。
「それじゃ……いくぜっ!!!」
先手必勝、とばかりに千明が地を蹴る。柄の後方を握り、ギリギリまでリーチを伸ばした竹刀ですばやく払うと、丈瑠は難なくそれをいなした。
「はっ!」
返す刀で丈瑠が懐に飛び込み、下から振り上げる。咄嗟に伸ばした腕を引っ込め、柄尻で受け止めるが、強烈な衝撃が右手を痺れさせ、千明は竹刀を取り落とす。
「んなろっ!」
宙に浮いた竹刀を左手で掴み、逆手となったそれで薙ぐ。丈瑠もすばやくその攻撃を受け止め、間合いを取るべく飛び退いた。
「……ほう」
「へっへへ。源ちゃんの技、借りたぜ」
鞘こそないものの、今の構えは源太の得意とする居合い、逆手一文字だ。
「まだまだいくぜっ!」
竹刀を持ち直し、再び切り結ぶ。
(……こいつ)
一合、二合と打ち合ううち、丈瑠の見る千明に、仲間達の姿がフラッシュバックする。
「はあっ!」
それは、流ノ介の実直さだったり。
「せいっ!」
茉子の疾さであり。
「おりゃあっ!」
ことはの純粋さでもあり。
(……いつまでも未熟じゃない、か…)
千明の中に、自身を含む仲間達の太刀筋…そして、それを糧にした新たな“千明の太刀筋”を見た丈瑠は、大きく息を吸って、張り上げた大声とともに竹刀を振りぬいた。
「うおっ!?」
一段と重い剣圧に、竹刀を飛ばされる千明。
「千明」
「あんだよ……っとと」
不意に投げつけられた何かを受け止める。それは、かつて仲間とともに、常にそばにあった相棒であった。
「ショドウフォン……」
丈瑠を見ると、同じく手にしたショドウフォンを筆モードに変え、こちらを見据えていた。
「……本気で、いくぞ」
「……おうっ」
丈瑠に倣い、ショドウフォンを筆モードにし、掲げる。
「一筆―――」
「―――奏上ッ!」
紅い<火>のモヂカラが、緑の<木>のモヂカラが、二人の姿を……変える。
「―――シンケンレッド。志葉…丈瑠!」
「シンケングリーン……谷 千明!」
互いにシンケンマルを抜き、構える。
「……来い千明。お前の……お前だけの“一太刀”を、見せてみろ!」
「言ったな丈瑠。……吠え面かくなよっ!」
時の止まったかのような静寂。
その中で、二人の男の声が……こだまする。
「いざ!」
「参る!」
二振りのシンケンマルが、空を切り裂いた。
---------------------------------
3話や、各所における千明の「丈琉を越える!」という想い。それは、オイラにこのネタを書かせたくなる十二分な要因になりました。
…まぁ、視聴者かつモノカキができる人間の8割はそー思うんでしょうが(ぇ
本作中では決着の描写を書いていないのは手抜きでは決してなく。
各々が思い描いた決着のあり方でいいんだと思います。
さて、そろそろ一日一本シフトに戻したいが……どうなんだろうな俺(ぇ
そんな早朝の公園で、風を切る音と、それに合わさって張り詰めた声が響く。
「はっ! はっ!」
はかま姿の青年が3人、揃って竹刀を振るっていた。
「……はぁっ、はぁっ」
「うぇぇ……もーだめ……」
と、そのうちの二人の素振りが精彩を欠き始めた。
「なんだよお前ら、だらしねーぞ!」
茶髪の青年がため息交じりにはっぱをかけるも、二人はぺたりと座り込んでしまった。
「俺がやってたことに興味があるって言ってたから、こーやって付き合ってんのによ」
「そ、そりゃそーなんだけどさ……」
「ここまでハードだとは……。千明、お前スゴかったのな」
千明、と呼ばれた青年は苦笑して、二人の前にしゃがむ。
「そーでもねーよ」
よっこらせっ、と立ち上がり。千明が竹刀を振りぬく。聞いたこともない唸りが空気を震わせ、へたったままの二人が目を丸くした。
「“仲間”のうちじゃ、俺が一番弱かったんだからな……」
1年間、苦楽をともにした同士を想い、千明がふと空を仰ぎ見る。
梅の香りを乗せた東風が、ふわり、と前髪を揺らした。
侍戦隊シンケンジャー
閑話-谷 千明-
「うっそだぁ。だってめっちゃ強ぇじゃねえかよ」
素振りの前に、手合わせをさせてくれと頼まれた友人たちを、千明はあっさりといなしていた。無論、手加減をした上ではあるが。
「お前らとあいつらを一緒にすんなよ」
1年前と、今の自分を客観的にみる。確かに実力は上がった……が、それ以上に仲間達は強いし、さらに腕を上げていた。
自分が強くなったからこそ分かる、他人の強さ。
目標にしているあの男は、遥か高みにいた。
「…だけどっ」
構え直した竹刀を、もう一度振るう。
「いつかは越える。越えてみせる!」
その横顔は、友人たちも見たことがないほど、引き締まっていた。
「……できるよ、千明なら」
「そだな。ゲーセンに入り浸ってた頃ならともかく、今じゃこーやって毎日特訓してんだろ? ぜってー越えられるよ」
「……おう。サンキュー」
友人の励ましに、千明は満面の笑みを浮かべて見せた。
「……!」
ふと、背後に鋭い気配を感じる。千明はそれを振り払うように竹刀を向け―――絶句した。
「丈瑠……!」
かつて“殿”として仕え、“目標”として定め……ともに戦った“友”の姿が、そこにはあった。
*
「正直意外だったな」
「うるせえよ」
散歩中だった丈瑠は、千明のはかま姿に少しだけ驚いているようだった。外道衆との戦いが終わってもなお、剣の腕を磨いていたことにだ。
「言っただろ、俺はお前を越えるってな。外道衆との戦いが終わったからって、気は抜いちゃいらんないの。それでなくてもお前はどんどん強くなってってんだからさ」
「それは買いかぶりだ」
「んなことねーよ」
微苦笑する丈瑠に軽口を叩く千明。
「さっきのお前の素振り。ずいぶんと動きが良くなっていた」
「そりゃどーも。ま、どーせまだまだって言うんだろ?」
「当然だ」
あのなぁ…と千明がボヤく。と、丈瑠が千明の竹刀を取って、その切っ先を向ける。
「どうだ、ひと勝負」
今の力、見てやる。
丈瑠が不敵な笑みを浮かべる。その瞳の奥、鋭い眼光が千明を射抜かんとばかりに煌いた。
「……オッケー」
無論、千明も退かない。にやりと笑いつつ、強烈な闘志を目に込めて丈瑠を睨み付けた。
「コージ、竹刀っ」
二人の迫力に気圧され、ドン引いていた友人の一人に声をかける。コージは「お、おうっ」と少々上ずった声で竹刀を放り投げた。
「んっ」
竹刀を受け取って、距離を取る。正眼に構えた丈瑠の姿は、それだけで威圧感を放ち、隙を見せない。
「それじゃ……いくぜっ!!!」
先手必勝、とばかりに千明が地を蹴る。柄の後方を握り、ギリギリまでリーチを伸ばした竹刀ですばやく払うと、丈瑠は難なくそれをいなした。
「はっ!」
返す刀で丈瑠が懐に飛び込み、下から振り上げる。咄嗟に伸ばした腕を引っ込め、柄尻で受け止めるが、強烈な衝撃が右手を痺れさせ、千明は竹刀を取り落とす。
「んなろっ!」
宙に浮いた竹刀を左手で掴み、逆手となったそれで薙ぐ。丈瑠もすばやくその攻撃を受け止め、間合いを取るべく飛び退いた。
「……ほう」
「へっへへ。源ちゃんの技、借りたぜ」
鞘こそないものの、今の構えは源太の得意とする居合い、逆手一文字だ。
「まだまだいくぜっ!」
竹刀を持ち直し、再び切り結ぶ。
(……こいつ)
一合、二合と打ち合ううち、丈瑠の見る千明に、仲間達の姿がフラッシュバックする。
「はあっ!」
それは、流ノ介の実直さだったり。
「せいっ!」
茉子の疾さであり。
「おりゃあっ!」
ことはの純粋さでもあり。
(……いつまでも未熟じゃない、か…)
千明の中に、自身を含む仲間達の太刀筋…そして、それを糧にした新たな“千明の太刀筋”を見た丈瑠は、大きく息を吸って、張り上げた大声とともに竹刀を振りぬいた。
「うおっ!?」
一段と重い剣圧に、竹刀を飛ばされる千明。
「千明」
「あんだよ……っとと」
不意に投げつけられた何かを受け止める。それは、かつて仲間とともに、常にそばにあった相棒であった。
「ショドウフォン……」
丈瑠を見ると、同じく手にしたショドウフォンを筆モードに変え、こちらを見据えていた。
「……本気で、いくぞ」
「……おうっ」
丈瑠に倣い、ショドウフォンを筆モードにし、掲げる。
「一筆―――」
「―――奏上ッ!」
紅い<火>のモヂカラが、緑の<木>のモヂカラが、二人の姿を……変える。
「―――シンケンレッド。志葉…丈瑠!」
「シンケングリーン……谷 千明!」
互いにシンケンマルを抜き、構える。
「……来い千明。お前の……お前だけの“一太刀”を、見せてみろ!」
「言ったな丈瑠。……吠え面かくなよっ!」
時の止まったかのような静寂。
その中で、二人の男の声が……こだまする。
「いざ!」
「参る!」
二振りのシンケンマルが、空を切り裂いた。
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3話や、各所における千明の「丈琉を越える!」という想い。それは、オイラにこのネタを書かせたくなる十二分な要因になりました。
…まぁ、視聴者かつモノカキができる人間の8割はそー思うんでしょうが(ぇ
本作中では決着の描写を書いていないのは手抜きでは決してなく。
各々が思い描いた決着のあり方でいいんだと思います。
さて、そろそろ一日一本シフトに戻したいが……どうなんだろうな俺(ぇ
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