稲光荒れる嵐の中を、巨大な空飛ぶ艦…【飛行都市マギニア】が往く。
目的地への到達を間近に告げる艦内放送を聞き流しながら、マギニアの長たる姫…ペルセフォネ・マギニアスは轟く雷鳴にも臆することなく、窓越しの豪雨をどこか楽しげにも涼やかに眺めていた。
「…こんにちわ!」
耳朶を打つ聞き慣れぬ声に視線を窓から外すと、少々大きめの鎧に身を包んだ少女の姿があった。
ペルセフォネがいる場所は、彼女を含めた都市の要人の居住区…すなわち艦橋であり、一般市民の立ち入りが禁じられているエリアである。にも関わらず、見た目には少々そぐわないいでたちの少女がいるということは…
「君のような女の子が我が兵であるわけもなし、か。ならば冒険者か?ギルド名は?」
腰を落として視線を合わせる。姫ながら目下の者にも敬意を払うのは、彼女なりの美学だ。
「ギルド…?」
「うん?冒険者でもないのか。なら迷子か…親はどうした?」
首を横に振る少女に、彼女の親は亡いものと察し即座に頭を下げる。
「そうか…すまない、軽率だったな」
「?」
言葉の意味を理解していないのか、少女は首を傾げて。
「とはいえ、君のような年端も行かぬ子だ。誰か面倒を見ている者がいるのだろう。兵を寄越して居住区へ送ってあげよう。誰か──」
そう言ってその辺りを警邏しているであろう兵士に声をかけようとした所で、新たな人の気配を感じた。
「レアー?おーいレアー、どこだー?」
「あ、ザジ!」
くるりと踵を返す少女を目で追うと、果たして壮年と思しき男が飛びついた少女をだき抱えていた。
「汝が保護者か?」
「保護者…まぁ、似たようなもんでさ」
「全く…ちゃんと見てやらなければ迷子になるぞ?マギニアは存外広いのだからな」
ふと男を見ると、少々くたびれた…もとい、年季の入った装備を身に纏っている。
「エトリアの斥候か。汝は我らが募った冒険者か?」
「ええ、まあ…といってもギルドにゃ所属してない野良ですがね」
聞けば、マギニアを訪れたのはつい最近のことなのだと言う。
「ところで…子連れで冒険者を?」
「はは…そう見えますかね?自分、もうちょい若い方だと思ってんですがねぇ…」
「ザジ、しらがだもんね」
「白髪じゃねーよ銀髪だ銀髪。つかお前だって同じ髪色だろーが
レアと呼ばれた少女の頬を、ザジなる男が両手でむにと引っ張る。その微笑ましい様に、凛とした空気を纏っていたペルセフォネはぷっと破顔した。
「親じゃあないんですよ、俺ぁね。ま、色々ありまして」
「そうか。ともあれよく馳せ参じてくれた」
と、外の景色に光が差す。
「そら!それに…おっきい“き”!」
レアが指差した先に、大陸と見紛わんばかりの巨大な島影に、これまた天にも届きそうな巨木がその姿を現した。
「見たか、あれが“世界樹”だ。あれこそが我らの目的となる地…そして、汝らが挑むべき冒険の舞台である」
・
・
・
姫に促され、飛行都市の広場に向かったザジたちが再び彼女を目にしたのは、都市中央の広場を一望に見下ろす高い場所であった。
「世界全土の樹海より集いし勇者たちよ!今より我らは前人未到の大地へ挑む──」
朗々と高らかに宣する姿は、まさしく長たる態度にふさわしい。
「はえ〜…ホントにマジもんの姫さんだったとは…すげー人と知り合いになったもんだな、レア」
「?」
ことの重大さを微塵も理解できていないらしいレアが頭をひねって。
「──まずは冒険者諸君の力量を計らせてもらう。君たちは心の準備が出来たなら、冒険者ギルドへ訪れてくれたまえ」
いつの間にか壇上の主は姫から厳つい男へと変わっていた。冒険者ギルドを預かる軍人・ミュラーだ。彼の言葉に、すでにチーム…“ギルド”を組んでいる冒険者たちは、ある者たちは我先へと冒険者ギルドに足を運び、またある者たちはひそひそと相談を交わす。
「ザジはどうするの?」
「そーさな。とりあえずどっかのギルドに入れてもらうのが手っ取り早いが…」
「ザジ、ぼっちでこみゅしょーだから…」
「ぼっちでもねーしコミュ障でもねーわ!ったく、どこで覚えてくんだそんな言葉…」
育て方を間違えたか…と特に育ててもいない筈のザジがぼやいた。
・
・
・
「レーアー…ちゃんっ!」
「きゃ!?」
「なんだ!?」
レアの小さな悲鳴に慌ててザジが振り返る。
「わー!やっぱりレアちゃんだー!この抱き心地、久しぶりぃ〜♪」
背後からレアを抱きしめて、明るいブラウンの髪をおさげにした少女が感無量のため息を漏らしていた。
「…ノノ、くるしい」
「あ、わ!ご,ごめんねー?嬉しくってつい…」
「つーか、やっぱり来てたのな…ノノ」
互いに顔見知りらしい。名残惜しそうにレアから離れ、ノノと呼ばれた高地兵の少女は傍らに突き立てていた槍を引き抜くと、「当然です!」と物凄いドヤ顔で言ってみせる。
「レアちゃんのあるところ、何を置いても須く向かう!これぞわたし、ノノ・ロゼッタの正義ですから!」
「ハイランダーの教義が泣くわよ…」
胸を張るノノの後頭部を杖で小突きながら、赤衣の巫医師が現れた。
「やっ。お久しぶりね、ザジにレア」
「リコリスも一緒だったのか…そういやハイランド地方ってハイ・ラガード領内だったな」
「そ。アンタたちがマギニアに行くって手紙読んだから、ノノに護衛頼んでね。どーせアンタのことだから、ギルドも組めずに途方に暮れてると踏んでね」
「決めつけんじゃあねーよ…事実だけども」
実際、ザジは過去に立ち寄った都市でできた知り合いに手紙を送っている。そう言う目論みがなかったといえば嘘になるのだが。
「えっなにそれ手紙?知らない読んでない聞いてない!」
「ハイランド地方まで手紙届かねえもんよ…あとおめーならなんだかんだ気づいて来そうな気がしたしな」
そりゃそうですけどー…とノノが不満げに頬を膨らませた。
「そういえば、手紙送ったってハイ・ラガード以外にも?」
リコリスの問いかけに、ザジがああとうなづく。
「アーモロードとタルシスにもな。まあ来るかどうかはお前らより読めな…」
「…き、来て、いる」
「うおっ!?」
耳元で囁かれた低い声に飛び退く。ダークグレーの外套に身を包んだ星詠みの青年であった。
「な、なんだベテルギウスかよ脅かすなって…っていうか、来てくれたんだな」
ザジがそう言うと、答えようとして口ごもり…おもむろに抱えていた本を開くと、
『当然だ…自分はザジの盟友なのだから、どれだけ遠くに居ても力になるとあのとき約束しただろう?』
…と、本の文字を媒介にした光の筆談で答えた。
「…えっなにこの人どー言うキャラ?」
「ちょいと人見知りで口下手なやつでな…会話は大体こんな感じだ」
「ちょっととは」
・
・
・
ともあれ、ザジとレアを中心にギルドとしては最低限の人数を確保できたので揃って冒険者ギルドへと向かう。
「次の冒険者、入りたまえ!」
野太い声の冒険者ギルドの長・ミュラーはザジを見つけると「…やぁ、来てくれたな」と薄く笑みを浮かべて歓迎した。
「知り合い?」
「さっき知り合った」
「相変わらず無闇に顔広いわねぇ…」
その広い顔の一人であるリコリスが肩をすくめる。
「貴公なら必ず世界樹に挑む気概があると思っていた」
「そいつぁ買い被りってもんですぜ、ミュラーさん」
「はは…人を見る目には自信があるのでな、貴公がそう思おうと思わまいと、私はそう確信していただけさ」
さて…と世間話をそこそこに切り上げて、ミュラーが人数分の書類を手渡す。各々が姓名、出身、職業などを書き記して返すと、ギルドを預かる偉丈夫は「確かに」と大きくうなづいた。
「では最後に、諸君のギルド名を聞いておこうか」
4人とミュラーの視線が、ザジに集まる。少しくすぐったそうに頭をかいて、ギルドの発起人たる銀髪の射手は呟くようにその銘を口にする。
「…“ストークス”」
それを聞いてミュラーが素早く書き記し、その上に印を押しつけた。
「ストークス…なるほどコウノトリ、か。良い名だ」
「ふうん…アンタらしいっちゃアンタらしいわね」
「ザジさんの…そして私たちの“目的”にも沿いますしね」
ミュラーの首肯に続いて、リコリスとノノも得心したようにうなづく。
「うむ。ではここにギルド“ストークス”の登録を完了する。改めて歓迎しよう…ようこそ、マギニアへ!そして諸君らのこれからの冒険に、幸運あらんことを!」
ざあ。と、マギニアに澄んだ風が吹いた。
世界樹の迷宮 X Re:Adventurers/コウノトリは英雄の夢を見るか?
というわけで、はじめてしまいました。
炎部さんは、世界樹Xを。
すでに2本分リプレイやってんだから自重しなってのに…ねぇ?
それもこれも夏にDL版が1000円だったから…(言い訳がひどい)。
ギルドメンバーはヒーロー、ハイランダー、ドクトルマグス、ゾディアック、レンジャーの構成。
新職業使いたかったのと、女の子ハイランダーが可愛かったので採用(などと供述しており)
このメンツだと条件ドロップが取りにくいのでサブパ作らないとですねー。
とりあえずモン勇の方を優先したいので、こっちは不定期かな?
とにかく、コンゴトモヨロシク(番組が違います