「新たな秘宝を取り戻したのですね」
魔王を倒して早々に塔を脱出したオレたちは、その足で城へと向かい女王に手に入れた秘宝を返納した。
「秘宝“ミストルティン”…確かに」
女王曰く、この秘宝は“加護の神木”とも呼ばれているとのこと…聞くだけで元の世界に帰る力のなさそうな異名だなオイ…
「かつて、大地を漂うだけの儚き存在だった妖精の魂は…ミストルティンの加護で体を得て、生命としての逞しさを得ました」
そして女王は、いつぞやのミョルニルと同様にその奇跡の力の一端をオレたちに託すと言う。まぁ、魔王と戦うってんなら奇跡の一つや二つ身につけておかないと身が持たねーわな。
「…我の認めし勇敢なる者たちに、加護の力を…勇者隊に、光あれ!」
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一通りの儀式を終えて、ギルドに戻ろうとしたところで、女王に呼び止められる。
「…ウール」
「わ、わた、し?」
突然声をかけられ、戸惑いを見せるウールに、女王は一度ぐっと目を閉じ、大きく息を吸うと、再びその相貌をかつての共に向ける。
「…わたくしと、お話をしませんか?」
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かくして。
謁見の間の片隅に椅子と円卓が用意され、向かい合わせにウールと女王が座った。
「…いいのか?オレも一緒で」
ダチ同士、水入らずで積もる話もあるだろうに。
「いいのです。ウールも、そのほうが良いのでしょう?」
女王がそう言うと、ウールが小さくうなづいた。
「アノンくんがー、いやじゃーなかったらー、だけどー…」
「…まぁ、嫌とは言わんさ」
こう言う時は第三者を挟んだ方がうまく行く…と聞いたことがある…ような気もする。
「……」
「……」
で、会話は?
「「…あ、あのっ!」」
被ったなー、見事に。
「あ、あなたからどうぞ…」
「あ、や、女王さま、からー」
…オレ、ここにいる意味あるんかね?
「…ちょ、ちょっお待ちになっててくださいまし!」
女王がやおら立ち上がり、奥へと引っ込む。しばらくして、何かを咲く様な音と、耳に触る悲鳴が鳴り響く。
「…お、おい。女王様はなにやってんだ?」
「わ、わーかーんーなーいー…」
おおよそこの世のものとは思えない音と声が不協和音を奏で…やがて静かになる。
「ふぅ…お待たせしましたわ」
ものすごく爽やかな表情で、額に滲んだ汗を拭いながら女王が現れる。その後ろから、メイドがゾロゾロと何かを運んで…料理?
「ええ。外の世界の方々は、食事をしながらお話をするものなのでしょう?なので用意いたしましたの」
女王が作った…んだろうな、あの流れだと。
「…な、なぁウール、女王ってのは料理できんのか?」
「む、昔ー、わたしといっしょにー、メイド長に教わってたーけどー…」
皿に視線を向ける。見た目が極端に悪いわけじゃあない。というかこのラインナップ、妙に見覚えがあるが…
「献立ですか?」
特に聞いてはないが、やたら誇らしげに女王が咳払いをして。
「ポークカツレツ、ポークステーキ、ブタ肉のクリームシチューに…」
「ポークジンジャー、ブタ肉の串焼き、ポークソテー。ブタのハーブ焼きですわ」
女王曰く、外の世界の住人向けに濃いめの味付けにしてくれているらしいが…なんだこの謎のブタ肉推し。
オレの脳裏には、否が応にも我らが勇者ギルドの主人の顔が脳裏に浮かんじまうのだが…
「…ぷっ」
と、ウールが小さく噴き出して、アレな感じになりそうだった空気が和らいだ。
「…変わらないねータニアちゃんってばー」
さっきまでの“女王さま”なんていう他人行儀が抜け落ちて、ケトケト涙を浮かべて笑いながらウールが言う。
「昔だってー、ケンカしたー時とかー、仲直りしましょうーってクッキーやスコーン焼いてー持ってきてたもんねー」
「…まぁ、あれは失敗し続けて、仕方なくメイド長にお願いしたものでしたけれど」
「ふふっ、知ってたよー。いっつも食べてたもんー。だからー、お料理ー教わろうとーしたんでしょー?」
いつしか、二人の間にあった見えない氷の壁は緩やかに解けていったようだ。幼少期を懐かしむ様に、二人は言の葉を紡いでいく。ここからはもう、オレの出番は無さそうだし、出された料理でも食ってみるかね。…あ、イケるわこれ。
「あ!アノンくんずーるーいー!わーたーしーもーたーべーるー!」
「ふふっ…沢山ありますから、慌てないで」
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食事を一通り平らげ…流石に食いきれない分は包んでもらって隊の連中の土産にしてもらった…食後の紅茶を一口啜ったあと、女王は改めてウールに向き直った。
「…ごめんなさい」
人の上に立つものが、深々と頭を下げる。そう言うのを気にし無さそうなタチの人だが、それでも立場というものがある。それを押しても、彼女自身やはりウールに謝りたかった…のかな。
「即位前のケンカで仲直りできず、そのまま疎遠になってしまったこと。昔みたいにお話しなかったこと。あなたを…苦しめてしまったこと」
本当に、謝っても謝りきれないけれど。と頭を下げたまま、女王はため込んでいたであろう思いを吐露していく。
「わ、わたしだって…つまんない意地はって…あやまれなくてー、何年もずーっと…ほんとに…ごめんね」
お互いに謝った。そしてそれを、お互いが許した。とりあえずはまぁ、一件落着かね?
「…いえ。まだ謝らなければならないことが、もうひとつ」
「聖騎士ジークのことか」
オレの答えに、女王は重々しくうなづく。改めて彼女の口から聖騎士ジークが闇の力に堕ちた事がウールに告げられ、そして──
「…うん、わかったよー」
思いのほかあっさりと、ウールはそれを受け入れた。
「よ、良いのですか?私は、あなたにかつての恩人を…」
「…わかってるよー。でも、タニアちゃんもー、いっぱいなやんでー、そう決めたんでしょー?」
だったら自分のやるべきことをやる。ウールはいつもののんびりとした口調ながらも、しっかりとはっきりと、そう言った。
「あ、でもねー」
「なんだ、なんか条件付けんのか?せっかくだ、おもっきり吹っかけときな」
具体的にはオレを元の世界に帰すとか。
「ちがうよもー。あとアノンくんはかえっちゃだめー」
なんでや。
「…こほん」
仕切り直してウールが咳払いひとつ。
「今度、ジーク様にあったらー…お話、させて欲しいのー」
「お話…ですか?ですが、彼はもう…」
闇に堕ちた者とは、もはや意思の疎通はできない。そう言いかけたであろう女王の唇を、ウールが指先でそっと塞ぐ。
「…ちゃんとお話しして、それでもダメだったら…そのときは…」
闇の力に魅入られたものは、命をもってしてしか救われない…らしい。
それでも、まずは言の葉で、心で救いたいのだと。ウールは言う。それが叶うかはわからない。彼女なりの納得の仕方なのだろう。
「だってわたしー。<癒す者>だからーねー?」
彼の魂に安らぎを。そう女王は言った。ならばウールはウールのやり方で、安らぎを与えたいのだ。
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「ふふー。やりたいことが叶ったらー、また新しいー、やりたいことができちゃったねー」
女王との会談…というか仲直りを経て、オレたちはギルドへと帰ってきた。
「最初の目標よりか、よっぽど難易度高いけどな」
「んー!そのぶんーやりがいあるよー!」
強いな、ウールは。
「アノンくんの目標もー。はやくかなうといいねぇー?」
「ほんとになー」
「…あー、でもーすぐに叶っちゃうのはヤだからーゆっくりでーおねがいねー」
だからなんでや。
「ふぃー、温まった温まった…ん?」
風呂上がりのキリクが、コーヒー牛乳片手にやって来た。
「なんだよウール、毛ぇ触られるの苦手じゃなかったっけ?なんでアノンにやってもらってんだ?」
キリクの指摘通り、オレは今風呂上がりのウールの濡れた髪を乾かす手伝いをやらされている。先日からほぼ毎日だ。
「そういやそーだな。前はナナシが居なかったからって聞いたけど、居てもオレに振ってくるし」
まぁ、このモフモフ触れるのは悪くねえけどさ。
「…んふふー。アノンくんはーいいのー」
じきに乾き切る白い毛並み越しにオレを見て、ウールが意味深に微笑んだ。
−つづく−
↑面白かったらタップおなしゃす!
というわけでビスヘイム篇のエピローグ。
実質ウール回と言うことで、一足跳びに懐いてきてる感じですかね。好感度的には、5人中3人(ウールとナナシとイヅナ)が比較的高めの中で、ウールが少し突出してきたイメージ。
ナナシとイヅナはなんかこうアレだ。わんこ的な懐き方なのでまだラブコメ的なアレは薄い(雑
さて、ウールと女王の仲直りの場に用いられた会食イベント。実在します。
正確にはビスヘイムクリアの特別なご褒美として用意されたもので、このイベントをこなすとHPとMPの最大値が上がる…というもの。
なのでまあ、本文に貼ってるスクショなんですが…あのメニュー読み上げ、コラじゃないです。
マジです。
この世界、ブタ型(?)の妖精族がいる上にブタを家畜として飼ってんの?
さらにこのイベントに前後して発生する、ギルドでのチュッケ(ブタ型の妖精族)の発言がコレ。
お前は何を言ってるんだ(真顔
しかも背景よく見るとブタ吊ってるのよ厨房?に…
エクスペリエンス、ちょいちょいダークな小ネタ挟んでくるのは知ってるけどさぁ…💧
あ、最後にビスヘイムの攻略判定をぺたり。
次回からはようやく(?)世界樹Xリプレイを再開。お疲れ様でした!