炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【キバ外伝】シーン1:クレッシェンド・日常【IXA-1997-】

 周囲の景色が乱れ、すぐにそれは青い壁面の空間へと変わる。
 ベルトに手をかざすと、今度はイクサの姿が希薄になり、その下の正体をあらわにした。
「…ま、こんなもんかな」
 ボサボサ頭の青年が、バックル部…【イクサナックル】を右手で弄ぶ。


「……阿呆かぁぁぁ!!!」
 怒声とともに飛んできたスパナが、青年の頭を直撃した。
「痛っ!?」
 激痛が脳天からかかとまでつきぬけ、思わずうずくまる。
「な、なにするんだよ茂原~」
「ナニやあれへんがな七弥(ななや)! お前まァたナックル直打ちしよってからに! フレームイカレてまうから自重せえってこないだも言うたばっかやろが~~!!」
 眼鏡で痩せぎすの男が、その細身からは想像もつかない勢いで青年…七弥と呼んだ…のこめかみに拳を押し付ける。
「いたたたたた…ちょ、痛い痛い痛いいーたーいー!」
 ひとしきりグリグリ攻撃を仕掛けた後、やがて飽きたのかふっと拳を離した。

「いっつも言うてるやろ。イクサのパーツは基本的にはワンオフもんなんやさかい、テストでいらん負荷かけんな」
「でも負荷かけないと限界もわかんないだろ?」
「そーゆーのはフレーム担当に任せときゃええねん」
 自分たちの仕事はソレじゃない、といわんばかりに、眼鏡を光らせる。

「それよかどないや。身体のほうは」
 強力なパワーを誇るパワードスーツである【イクサ】は、その反面装着者に掛かる負担も大きいのだ。とはいえ、ロールアウト直後に比べれば、その負担もかなり軽減されてきている。
「ああ、問題ないレベルだと思うぞ。もう15%くらい出力上げても大丈夫そうだ」
「そーか。ほな、プラン申請しとこか」
 お前はちょっと休憩しとき、という茂原の声に頷きながら、七弥の視線がハンガーに補完されている剣状の武器に向けられる。
「……なぁ、カリバーはまだ使えないかな?」
「どやろな。もともとバーストモードでの運用を前提に開発されとるんや。セーブモードでも使えん事ァないやろけど、多分にナマクラ以下やで?」

 バーストモード。
 イクサシステムの真の姿とも言うべきものであり、開発チームの七弥たちが目指している目標でもある。

「ロールアウトから11年。6回のチューンナップを繰り返して…いまだバーストモードへの移行はほぼ不可能、か」
 机の上に無造作に置いたイクサベルトと、その脇に取り付けられた起動キー・フエッスルを見遣る。
「フェイクフエッスルとかわけのわからんものを作ってるヒマがよくあるよな」
「まぁ、そう言うなや。…まぁ、確かにイクサは開発チームの俺らでもよぉわからんトコロはあるからなァ」

 軍用のパワードスーツを雛形に、麻生茜博士が開発した迎撃戦士システム・イクサ。
 胸部に搭載されたイクサエンジンはブラックボックス化され、七弥ら開発チームの人間ですらおいそれと触れられない。

「だいたい、86年当時もそうだけど、今の科学技術で造れるようなシロモノじゃない。…造ってる側の人間が言うのもなんだけど、これはれっきとしたオーバーテクノロジーだよ」
「……それなんやけどな」
「なに?」
 茂原が声のトーンを落とし、周囲に誰もいないことを確認すると、七弥を手招きし、耳打ちする。
「これ、ほんまもんのオーバーテクノロジーをトレースしてるっつったら……お前信じるか?」
「はあ?」
 突拍子の無い話に、七弥の目が点になる。
「【ZECT】っつー組織、聞いた事無いか?」
 首を振る七弥に、茂原がまことしやかに説明する。


 ―――ZECT
 それは、宇宙からの侵略者に対抗する秘密組織であり、彼らは同じく宇宙からもたらされたオーバーテクノロジーによる迎撃戦士システム…曰く、イクサに似ているらしい…を有し、来るべき脅威に備えているという。


「じゃあ、イクサはそのZECTってのが持ち込んだテクノロジーをもとに造ってるっていうのか?」
 大真面目に茂原が頷く。
「…馬鹿らしい」
「あ、信じてねえな?」
 ジト目で睨む茂原に、七弥は肩を竦めてみせる。
「証拠も根拠も無い話を信じられるほど、俺は世間知らずじゃないつもりだ。だいたい、地球外生命体の存在なんか信じられるか」
「…モンスターの存在は?」
「……うぐ」

 いかにもな話ではあるが、いかんせん信憑性に欠けるのは事実であった。

「……ま、そのへんの真偽はおいといて…だ」
「おいとくなよ」
 茂原の抗議の声を無視し、淹れたばかりのコーヒーをマグカップに注ぐ。
「イクサへの興味は尽きないね。…科学者として、これだけのモノに関われるっていう自分の幸運に感謝したいよ」
 モニタに浮かび上がるイクサのCGパターンを眺めながら、七弥が穏やかな笑みを浮かべる。


「……メカオタクめ」
 今度は茂原が肩を竦めた。


  -つづく-



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サブタイトルは原作よろしく音楽用語を絡めていくつもりで。
なるべく原作のとはカブらないように…は無理だろうケドw

舞台である1997年は、個人的にも思い入れのある年代なので、そのへんを強調するシーンも書けたらいいなァ…